第226話 オーク帝国の終わり
▽第二百二十六話 オーク帝国の終わり
レベルアップアナウンスが入りました。
どうやらエンペラー・オークは跡形もなく消え失せてしまったようですね。アトリの大技たる【
レーヴァテインと同一視されているのは、スルトが放った一撃。
その一撃は世界を焼き尽くすとさえ言われているのです。それに倣った攻撃は鍔迫り合いを許さず、触れたすべてを殺し尽くします。
だから正面からぶつかった時点で、エンペラー・オークの死は確定していました。
とはいえ、驚嘆すべき事実は残されました。
何もかもが殺し尽くされ、消え失せた戦場のど真ん中。何も残らぬはずのこの場所で、薄汚い布が一枚、ぐったりと地面に横たわっています。
「敗北を悟った瞬間、敵は何故かスカーフを守っていたようですね」
「……はあ、はあ、はい。です」
息も絶え絶えなアトリは、どうにか応えました。
エンペラー・オークは死の間際、何故かスカーフを守って死にました。あの【
残した物がエンペラー・オークが命よりも大事にする王冠ではなかったのが不思議です。
間違えたのでしょうかね?
だとしたら、じつにうっかりオークさんです。
「それではアトリ……撤退しましょう」
「ごめんなさい、です。神様」
「いえ、アトリは悪くありませんよ。敵が想定を越えてきただけのこと」
アトリは間違えました。
エンペラー・オークを仕留めるならば【
消耗の激しい、奥の手を撃たされました。
それは……咄嗟に彼女が【
敵の気迫の勝利でしたね。
結果、アトリは大技を使用したことにより動けなくなり、【ヴァナルガンド】の発動状態も解除されてしまいました。
この状態では軍に潰されてしまいます。
皇帝の仇討ちに燃える軍を前に、シヲを馬に変化させました。
一人で動けないアトリを、私は闇でシヲの上に跨がらせます。あとは闇のワイヤーで落ちないように拘束します。
締め付けすぎたのか、アトリは嬉しそうに「う」と呻きました。
変な癖がつかねばよろしいのですけれど。
追いかけてくるのはオーク軍。
遠距離攻撃は私が必死に無効化したり、あとはシヲ自身に回避させました。多少、アトリに被弾しましたが回復できるレベルでした。
しばらくすればオークは諦めました。
彼らは鈍足ですからね。速度に特化した形態のシヲには追いつけません。そもそも彼らは壊滅状態です。
最後に放った【
結構な範囲消滅攻撃です。
現状の《スゴ》で最大の範囲殲滅攻撃は、最近話題のプレイヤー・炎精霊さんの【霊気顕現】ですが、範囲は遠く及ばないものの、純粋な火力ではアトリが優に上回っています。
ちなみに私も炎精霊さんのクリップは見ましたよ。
地球では中々お目にかかれない大きさの山脈が、すべて更地にならされました。……どころかクレーターが生まれ、溶岩が大地から吹き上がる惨劇を生み出していましたね。
攻撃の余波で炎精霊の契約NPCはロストしたくらいです。
かつてのイベント報酬である完璧な蘇生薬を使ったので復活しましたが。
かなりの数を殺されたオーク軍は……むしろちょうど良いかもしれませんね。
アトリにいくつも拠点を明け渡し、生活の生命線たる井戸なども自己放棄していました。今のオークたちではかつての規模を維持できないでしょう。
また、山猫族にもオークを追いかけて殲滅する体力はありません。
増えるペースのほうが早いでしょう。
今までの栄華は望めずとも、オークたちは種として生き延びました。
アトリを追い返すことに成功して。
エンペラー・オークたちのレベルでは快挙といってもよろしい成果でした。弱い敵でしたが中々に侮れないのが《スゴ》ですね。
アトリの任務はエンペラー・オークの抹殺。
ゆえに私たちはクエストに勝利しましたが、戦争には敗走……よく言って引き分けです。
もちろん、回復してから全滅させに行っても良いですけれど、強制任務がなければわざわざ狩る相手でもありません。
あり得ない想定ですが、エンペラー・オーク側もアトリが自分の命にしか興味が無いことを察知して、積極的に前に出て被害を抑えたのかもしれませんね。まあ、陰謀論めいていますし、このゲームのオークがそのような知能があるとは思いませんが。
事後処理は獣人に任せましょうか。
我々は凱旋しました。
さあ、待望のレベルアップの時間ですよ。
▽
ギルドで結果を報告したところ、受付員が信じられぬと言うように目を見開きます。最上の領域は最強の総称ですけれど、すべてがジャンルの違った強さを持つようです。
軍を真正面から相手取り、勝利するタイプの強さは……解っていても異常でしょう。
今のアトリでもジークハルトには勝てないでしょうけれど。
そもそも一般人が最上の領域の戦果をぽんぽん見られるわけもなく。
受付員が驚くのも仕方ないことなのかもしれませんね。
「エンペラー・オークの暗殺成功、ならびにオーク軍に対する致命的な損害を与えることへの成功――ギルドカードによって確認いたしました……すごい。さすがは最上の一角、といったところでしょうか」
「うん」
「それでは報酬です。今回の功績に見合った報酬をギルドは用意でないため、ギルド権限によってザ・ワールドから経験値をいただきます」
ギルドカードを受け取った瞬間、レベルアップ音が響きました。
【ネロがレベルアップしました】
【ネロの闇魔法がレベルアップしました】
【ネロのクリエイト・ダークがレベルアップしました】
【ネロのダーク・オーラがレベルアップしました】
【ネロの再生がレベルアップしました】
【ネロの鑑定がレベルアップしました】
【ネロのアイテムボックスがレベルアップしました】
【ネロの敏捷強化がレベルアップしました】
【ネロの罠術がレベルアップしました】
【アトリがレベルアップしました】
【アトリの鎌術がレベルアップしました】
【アトリの月光鎌術がレベルアップしました】
【アトリの造園スキルがレベルアップしました】
【アトリの光魔法がレベルアップしました】
【アトリの閃光魔法がレベルアップしました】
【アトリの孤独耐性がレベルアップしました】
【アトリの神楽がレベルアップしました】
【アトリの口寄せがレベルアップしました】
【アトリの詠唱延長がレベルアップしました】
【アトリの天使の因子がレベルアップしました】
【アトリの光属性超強化がレベルアップしました】
【シヲがレベルアップしました】
【シヲの擬態がレベルアップしました】
【シヲの奇襲がレベルアップしました】
【シヲの拘束がレベルアップしました】
【シヲの音波がレベルアップしました】
【シヲの鉄壁がレベルアップしました】
【シヲの触手強化がレベルアップしました】
【ロゥロのレベルがアップしました】
【ロゥロの攻撃上昇がレベルアップしました】
【ロゥロの破壊術がレベルアップしました】
【ロゥロの格闘術がレベルアップしました】
やはり美味しいイベントでした。
エンペラー・オークからドロップは得られませんでしたが、レベルのほうが今は優先ですよね。
「九十、なった! です!」
「やりましたね、アトリ」
「すべて神様のお陰! です……神様かみさまかみさまかみさま」
「諸説ですねえ」
このゲームでは格下狩りの経験値効率はよろしくありませんでした。それでもオークたちは最低でも60から70付近で生まれ、育ったオークについては100レベルだってざらに居ました。
しかも、オークたちは種類も多く、同じ敵を狩ることによる経験値デバフも掛かりません。
名前【ネロ】 性別【男性】
レベル【74】 種族【ダーク・スピリット】
魔法【闇魔法86】
生産【錬金術87】
スキル【再生89】【鑑定51】
【クリエイト・ダーク87】【ダーク・オーラ75】
【敵耐性減少】【アイテムボックス41】
【逆境強化】【致命回避】【敏捷強化81】
【罠術57】【渾身強化】
ステータス 攻撃【370】 魔法攻撃【370】
耐久【370】 敏捷【370】
幸運【370】
称号【偽る神の声】
固有スキル【神威顕現】【邪眼創造】
まず、私。
ようやく新しいスキルを取得することができました。ここまで長かったですね。【神威顕現】の代償は重めです。
連発せずともこれです。
性能がかなり高いので文句はありませんがね。
さて、新取得したスキルは【渾身強化】でした。これは初心者向けのガイドでもオススメされる強スキルとなっております。
その効果は「HPが満タンの時、ダメージを上昇させる」というもの。
精霊はダメージを受けないので相性がよろしい。また、本来ならばデメリットもあるスキルだったということもあり効果量も高めです。
精霊が取得しても【再生】のように、契約NPCにも効果が及ぶのも嬉しいですね。
私がすでに取得している【逆境強化】と対を成すスキルです。
ただし、【逆境強化】はすべてのステータスが上昇しますが、【渾身強化】はダメージが上昇するだけとなっております。
今まで取得しなかったのは、アトリの火力に寄与しなかったからです。
大鎌の特性上、首を両断することが多かったのです。けれど、今のアトリは首以外を狙っても火力が出るようになりました。
ゆえに、今回の強化で「首以外を狙っても強い」を目指したわけです。
もちろん、今までのように首を狙えば更に強いわけですが……火力面での強化は今回で十分になった気もします。
アトリは素の火力が低い分、色々な要素で補っていますからね。彼女の火力に関しては、もうカラミティー相手以外にはオーバースペックかもしれません。
一応、私自身の火力も上がっていたりします。
誤差ですけれど。
次はお待ちかね、アトリです。
名前【アトリ】 性別【女性】
レベル【90】 種族【ハイ・ヒューマン】 ジョブ【大聖女】
魔法【閃光魔法80】【光魔法88】
生産【造園90】
スキル【孤独耐性96】【鎌術91】【口寄せ78】
【神楽88】【詠唱延長77】【月光鎌術78】
【天使の因子72】【狂化】【聖女の息吹】
【光属性超強化60】【体術1】
ステータス 攻撃【244】 魔法攻撃【727】
耐久【450】 敏捷【693】
幸運【604】
称号【死を振りまく者】
固有スキル【殺生刃】【勇者】
こういう感じになりました。
武器スキルを取る、武器スキルを取ると考えていましたけれど、熟考の末に取ったのは【体術】スキルでした。
というのも、やはり大鎌に合致する武器が見当たりませんでした。
無理に選ぶこともできないので、仕方がなく後回しにします。次のスキル取得はレベル100の時。最後のスキル取得となるでしょう。
それまでに宿題ですね。
元から【体術】スキルには目を付けていました。
戦闘中の身のこなしが良くなるスキルです。今までは劣化スキルと言われている【神楽】で満足していました。
ですが、あくまでも【神楽】は踊りです。
アトリが戦闘に強引に転用してくれているだけでした。今までの動きも良かったのですけれど、今後、武器を二つ持ちにすると限界が来るかもしれません。
べつに【体術】も【神楽】も共存できますしね。
「【神楽】は身のこなし以外にも、ディスペルやデバフ解除、色々と使えますからね。どうですか、アトリ? 動いてみたご感想は?」
「? ちょっと不思議。です」
「まあ、慣れていけばよろしいでしょう」
「頑張る。です!」
アトリはグッと拳を無表情で握り締めました。
上手く使いこなせると良いですね。【神楽】スキルは「美しく動くためのスキル」であり、【体術】スキルは「最適最高効率で動くためのスキル」となっております。
昔のアトリならばともかく、今の高ステータスのアトリなら振り回されないはず。
まず【体術】のアーツも便利なモノが多いですからね。使いこなせればかなりの強化となったことでしょう。
次の強化要素は……
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