第222話 命懸けの逃亡者
▽第二百二十二話 命懸けの逃亡者
四つくらいの村を破壊しました。
オークは山をすべて掌握し、そこに点々と拠点を築いているようでした。また、山を越えた先の森や野にも生息しているようでした。
第四フィールドの敵は強めです。
オークが単独で生活していれば、そこらを歩いている野良魔物にやられちゃいます。それを防ぐため、また広範囲に居住することによって一掃されるリスクを軽減しているのでしょう。
あとオークはよく食べるので、一カ所では食料の調達が間に合わない問題もあるのでしょう。
人間とはあまりにも生態が異なりすぎて、生活様式が合致しませんね。
百体規模の村は、すべて食料を生産する村のようでした。
全員が戦士であり、全員が生産者、あるいは子どもと妊婦でした。
そのような村ではアトリに対抗できるはずもなく。
「少し村側の様子も見ましょうかね」
私は三つ目の目を開きます。
中級ゴーレムの一体に、私は【邪眼創造】を永続付与しました。永続付与には対象のMPを永続で一割奪い、なおかつ20レベルを失わせることによって与えることができます。
同意が必要なため、デバフとして使うことはできませんが。
その目玉は私の目として使うことも可能なのです。まあ、その代わりに中級ゴーレムの性能がかなり落ちてしまいましたがね。
ちなみに与えた瞳は【打眼】と言って、見た対象に衝撃を与えます。
本体のレベルが低いので威力も吹き飛ばす力も貧弱です。ちょっと敵をびっくりさせることが可能……といったレベルでしたね。
私が戦闘中に【ダーク・ボール】と【シャドウ・ベール】を組み合わせた妨害をするときの感覚に近いでしょう。
それを消費なしに、僅かなクールタイムで使用できるので悪くない性能ではありますが。
一番の優秀な点はやはり第三の目として、遠くを偵察できることですね。
「……見えました」
セックたちは戦闘に突入しているようでした。
押し寄せてくるオークたちの群れに、セックは【常闇魔法】でアンデッドを呼び出して応戦しています。
またキッドソーから【弓術】を借りたのでしょう。
世界樹素材で作成した弓を使い、オークたちを次々と射貫いていきます。接近してくる敵は【打眼】ゴーレムが動きを一瞬だけ止めた隙に、セックが射貫いて殺しています。
死の黒雨の中、獣人たちはどうにか粘っている形ですね。
何名か死者も出ているようですけれど、こちらも【劣化蘇生薬】で救っていきます。
すでに薬の隠匿はやめています。市場には私が流した世界樹素材がありますし、他の錬金術師や魔道具作成者、魔女術使いなどが同じような薬を作っていますからね。
まだ完全な蘇生薬を作れた者はいないようですが。
敵の数は確実に減少しています。
おそらく村ごとを防衛させるために戦力を裂いたのと、アトリ捜索班も編制されているのでしょう。
村は今日を乗り越えられそうですね。
私がもっとも警戒していたのは、今のうちに村に全戦力を向けられることでしたから。その場合、村は全滅する代わり、アトリがエンペラー・オークを今日中に討っていたでしょうけれど。
「あちらは勝てそうです。死者が出るにしても五名を越えないでしょう」
「神様……見つかった。です」
「おや」
どうやら私たちもオークに発見されてしまったようですね。
アトリはしっかりと隠密していましたけれど、私が見つけられてしまったようでした。アトリもそれを理解しているようですけれど、神様には深い考えがあるに違いないとスルー気味です。
呼び出されたシヲの視線だけが私に突き刺さります。
念のために呼び出されたシヲは、戦闘が終わり次第、村に走って帰還せねばなりませんからね。大変なのでしょう。
駆けつけてきたオークたち。
この部隊の主力らしき鎧のオークが前に出てきます。他のオークよりも小柄ですけれど、私の【鑑定】が無効化されました。
しかも腰に携えた剣は、見るからに魔剣の類い。
剣士オークと呼びましょうか。
その剣士オークは何かをアトリに叫びます。無反応なアトリに頷いた後、彼は背後に控えていたゴブリンに何かを告げます。
『ぎゃしゃ! ぎゃしゃ!』
『ぶおおおお!』
『ぎひひ』
ゴブリンは何故か号泣してから、腰を折って身を低くした剣士オークの頭部に触れました。
「アトリ」
「【ボム・ライトニング】」
閃光魔法の爆弾を投擲しながら、アトリは【奉納・瞬駆の舞】で距離を喰らいました。すでに大鎌はゴブリンの首を斬り裂こうとしていますけれど。
『ぶっぶおおおおお! ぶー!』
後ろから飛び出てきたオークが、自分の命と引き替えにゴブリンを生かします。
ゴブリンが逃げ出します。
追いかけようとしたアトリに、剣士オークが凄まじい剣戟を放ちました。瞬時に十を超える斬撃を放ち合い、武器と武器とが火花を散らしました。
無理な姿勢からの斬撃により、アトリが姿勢を崩します。
そこへ魔剣――一閃。
『ぶっ!』
「まだ」
アトリは硬化させた左腕で、強引に剣筋を変更させました。
ですが、剣士オークの剣が僅かに伸び、アトリの首に深い傷をつけます。出血は【リジェネ】と【再生】で塞がります。
後ろに跳んだアトリが、鋭い視線を剣士オークに向けました。
「そこそこに強い」
「あのゴブリンは諦めましょう」
セックが居たら追いかけさせましたが、シヲでは追いつけず、ロゥロは指示を理解できません。
あのゴブリンは必死に逃亡に専念しているようでした。
私の【鑑定】で見た限り、あのゴブリンは固有スキル持ち。戦闘用ではなかったようなので、おそらくは情報収集に特化した固有スキル。
アトリの情報を持ち帰るべく、今回は部隊を捨てて逃げ出した感じでしょうか。
「この部隊は強いのでしょう。今のうちに片付けますよ」
「はい……全部、神様の思うがまま……です!」
オークの部隊と衝突しました。
▽
地形が変わるほどの戦闘でした。
山の一部が抉れ、周囲は魔法の影響で燃えていたり、凍り付いています。戦場に立っているのは傷だらけの幼女とエルフの少女――パンドラ・ミミックのシヲだけでした。
「思ったよりも強いオークでしたね」
「勝った。です」
五分ほども戦闘していました。
剣士オークはおそらく【剣術】スキルカンスト、身のこなしも凄まじかったですね。【剣術】を補正する固有スキルでもあったのかもしれません。
剣士オークではなく、剣聖オークとでも名付けるべきでした。
アトリが傷だらけなのは、苦戦したというよりも通常営業です。
いつもの骨を切らせて命を絶つ……戦法でしたね。
まんまと情報は取られたかもしれません。
とはいえ、それは結局のところ時間の問題でした。今は敵陣営の特記戦力をひとり討伐できたことを喜ぶべきでしょう。
私はアトリを引き連れて進みました。
シヲは【音波】スキルで偵察をしてから、馬になって駆け去って行きました。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます