第221話 第一村人、蹂躙

    ▽第二百二十一話 第一村人、蹂躙

 セックは村防衛のために置いてきました。

 我々の陣営の中でもっとも使い勝手の良い人材です。神器枠をひとつ使うのは厳しいですけれど、それを省けば万能なのですよね。


 チートスキル【お手伝い】で何でも熟せますし、大量の生産スキルから生み出される【アンデッド】たちは強力ですし数も用意できます。

 範囲攻撃もあります。

 MPだってポーション中毒にならない人型ゴーレムなので底がありません。


 いざという時は自爆できますが……やってほしくありませんね。

 セックが自爆した際、神器枠が戻ってくるかは定かではありませんから。その時はセック自身に自らの神器化を解除してもらう必要がありますが万が一もありますし。


 閑話休題。


 アトリは山に潜入しております。私の【シャドウ・ベール】を使っているので、行軍スピードはかなり遅いです。

 それでも【奉納・災透の舞】があるので木々には邪魔されません。


 道はセックが用意してくれた地図に記されています。

 あと十分もしないうちに最初のオークの村に辿り着けることでしょう。


       ▽

 発見したのは山中にある、小さな村でした。

 耕された立派な畑があり、そこには見たことのない野菜が生い茂っています。肩に汚れた布を巻いた、麦わら帽子を被ったオークが腕で額の汗を拭います。


『ぶっぶぼー』


 オークは鍬を静かに大地に置き、近場の岩に置いていた草袋を手繰り寄せました。それを開けば中からは火の入れられた肉が出てきます。

 それをがぶり、とやっています。

 どうやら農作業をしているようですね。


 オークはよく食べるため、国を維持するためには狩りだけでは不確かなのでしょう。


 人類も「農業」を発見して「定住」の概念を得るまでは発展しなかったと言います。一部例外は居ましたけれど……

 お肉を食べている以上、どこかで畜産もしていそうですね。


 レベル70くらいのオークは、一匹一匹が現代社会での重機に相応します。しかもスキルも持っていれば、現代なんて目ではないクラスの農業が可能でしょう。

 農地はある意味、敵の重要拠点ですよね。


 我々が遠くで観察していますと、オークの元に小さめなオークがやって来ます。

 子どものようでした。


「村の規模や強さはある程度、把握させてもらいました」


 私もレベルが上がってきたため、オークレベルでしたらギリギリ【鑑定】できました。それによれば、この村で危険なのはあの農作業をしていたオークだけです。

 面倒そうな固有スキル持ちでした。


「狙撃から行きましょうかね」

「【スナイプ・ライトニング】」


 子どもを抱き上げていたオークが、どさりと地面に倒れました。大量の血液を頭部から流し、自らの子どもを肉体で潰して拘束してしまっています。

 子どもオークは事態を把握できておらず、遊んでもらっていると勘違いしているようです。


 きゃっきゃ、と喜んでいるようでした。


 なんだか悲しくなってきますけれど、やらねば獣人たちが殺されてしまいます。何よりも我々に経験値が入りませんからね。


 世が世ならば動物愛護を謳った人たちから非難を受けることでしょう。


 ですが、私たちとオークとは会話もできねば文化も異なります。

 たとえこちらが愛を謳っても、相手が愛してくれるとは限らず……愛をもらえねば苦しめられるのは現場の者。


 誰も責任を取ってくれないならば、苦しみを代理で負担してくれぬならば――やるしかないのが世界の酷薄さ。生きることの難しさ。

 その難しさを踏みしめてまで生物は生きようと足掻く。


 生きるということは、それほどまでに魅力のあることなのでしょう。


 少なくとも。

 野生動物たちはそう感じているのかもしれませんね。


「ロゥロ」


 ロゥロが出現しました。

 ゴスロリ姿の少女が気怠げに腕を振れば、動きを同調させたがしゃどくろが家屋をなぎ払っていきます。中に居た家畜もろとも……ぷちぷちと潰していきました。


 まだ森の中に隠れ潜んでいる私たちは、結局、最後までオークに見つかりませんでした。


       ▽

 敵拠点から食料を奪いました。

 また生き残っていたオークやゴブリンもすべて倒しました。赤ちゃんオークもいましたね。オークは成長が早く、明日には子どもサイズになっていたことでしょう。


 レアな敵でした。


 魔物とはいえ赤子を殺すことは躊躇われましたが、アトリはとくに気にしていませんでした。敵は敵、という感じなのでしょう。

 異世界の常識ですね。


 人間は区別する生き物です。

 たとえば生まれたばかりの子豚は殺せなくても、生まれたばかりの子ゴキブリは死にものぐるいで殺生するでしょう。


 その区別を私は否定しません。


 ゆえに、アトリのことも肯定しましょう。

 何よりも私の命令ですしね。


「シヲ、それではお願いします」

『――』


 シヲが巨人の形態を取り、アトリが切断した樹木を持ち上げました。天高く持ち上げられた樹木を空高くに放り投げました。

 落下した巨木が大地を揺るがす中、私たちは次の村を目指しました。


 敵は知能が高いオークです。

 このような合図を送れば、自分たちが攻められていることを自覚することでしょう。そうなれば獣人族に送る戦力は減らさざるを得ません。


 そして捜索部隊なども派遣されてくるでしょう。


 それを殺していき、徐々に戦力を削っていきます。それから適宜村を襲撃すれば、いずれはエンペラー・オーク周辺のオークも減っていくことでしょう。

 それが突入のタイミングです。


 もちろん、敵が思ったよりも慎重派だった場合は攻めません。


 それはそれで勝利です。

 敵はいずれ攻め手を失い、拠点をいくつも失い、集団を維持するための食料が不足するようになることでしょう。


 こっちには理想のアトリエと睡眠をあまり必要としないアトリがいますからね。


 あとオークは焼いて食べるとそこそこに美味らしいですよ。

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