第220話 疫病
▽第二百二十話 疫病
どうにか第二ウェーブも乗り越えました。
敵軍は壊滅。
北側は三名が死亡しましたが、それも劣化蘇生薬で生き返らせました。とはいえ、劣化蘇生薬の副作用によって、最低でも一週間は戦場には復帰できません。
南側は思ったよりも攻め手が甘く、死者はゼロ。重傷者は出ましたけれど、それくらいならば回復させて戦線に復帰可能でした。
向こうには防御特化のシヲ、そして数を補えるセックが居ましたからね。
セックは範囲攻撃である【ネメシス・レイン】があります。
その魔法アーツの効果は「闇属性の酸の雨を降らせる」というもの。無差別攻撃なので味方にもダメージが入りますが、あの攻撃の真骨頂は武器に大ダメージを与えられることです。
敵のオークたちは剣や槍、斧などの武器を破壊されてから戦闘に突入させられたのです。
オークたちは中々の装備でしたが、それでも長時間の【ネメシス・レイン】に耐えられるほどではなかったようですね。
武器を失っても戦えるような敵強者も、キッドソーの狙撃で対処可能でした。
また、本体をシヲに守られたロゥロも、敵を一方的に粉砕していたようです。単純に倒した数はアトリを上回るようでした。
「まったく事前に話は聞いてましたが、散々でした」
そう項垂れるのはキッドソーです。
彼らは【ネメシス・レイン】対策をした武器で戦闘していました。闇に強く、酸にも負けない装備を作って支給していました。
耐性装備も持たせていましたが、それでもダメージ性の雨に打たれながら戦ったわけです。
南側で戦った獣人……そのすべてが重傷者と言っても過言ではありません。勝ったので苦言を呈するくらいで抑えられるようですが。
「今回、二千以上を葬ったわけですが……敵は明日には五百の追加があるわけです」
「こっちはちょっと減った。です! 四引く!」
「式を作れて偉いですね」
「嬉しい……です」
戦況は不利と言えるでしょう。
まだまだアトリには余裕がありますけれど、獣人たちは明後日くらいには押し負けそうな雰囲気があります。
獣たちは疲労しますからね。
アトリも疲労はしますけれど、獣人と比べれば差は歴然。
獣人の一人が挙手します。血が出るほどに歯を食いしばってから、
「逃走も選択肢に入れたほうが良いんじゃないか?」
「オーク程度に逃げ出すだと!?」
「オークに負けるのは拙いだろ。女たちのことを考えれば」
「一端、ここを捨ててハテンさんと一緒に奪還すべきだ!」
山猫族たちは逃走を視野に入れているようでした。
オークとはいえど、準備万端な一国を相手に、ひとつの村で勝ちを狙ったのです。普通は押し負けて蹂躙されるものでしょう。
代表たるキッドソーも頷きます。
「そうするしかないだろうな……まずは女子どもを逃がす。事前に魔山羊族に伝令をやった。明日には返事が来るだろう。受け入れてもらえるなら逃げだそう。後日、ハテンさんと取り戻せば良い」
「アトリは構わないかい?」と《跳ね猫》のマリーが問うてきます。
順位付けを終えれば、比較的からっと友好的になりましたね。
そういうところは獣人の良いところかもしれません。私の知人たるユニスさんなんて会う度に「また高級バッグを買ってしまったわあ!」だとか「また賞金の掛かった数式を解いてしまったわあ!」だとか「また写真集が出てしまうわあ!」だとか……あらゆるマウントを繰り返してきますからね。
一回で済むのは便利なことです。
私が厄介な知人を思い出している間に、会議の場に喧噪が雪崩れ込んできました。ぜえぜえと息を切らした獣人は、瞳に涙をいっぱいにためています。
「疫病だ! 疫病をばらまかれた!」
「ど、どういうことだ!?」とキッドソーが叫びます。しかし、言葉とは裏腹に行われた攻撃について、すでにキッドソーは理解を示しているように感じられました。
やって来た獣人が報告します。
「オークの死体だ。あれに特殊な病原菌が仕込まれてた。あいつら俺らを病気でぶち殺す気だ」
「なんて卑怯な! あちらも本気か。悪くない手だ……」
キッドソーは呻きながらも敵を称賛しました。
なんと他の獣人たちも敵の手に苦しみながらも、その手法自体は称賛しているようでした。えげつない手ではありますが、狩りのための全力を尽くすスタイルに感心しているようでした。
やっぱり獣人ってヤバい……
いえ、山猫族だけの特徴なのかもしれませんけれど。
「あいつらは俺らを食ったり、繁殖相手に使うってわけじゃねえみてえだ。ただ邪魔だから殺す、排除するってことだろうな。知能が高い」
「オークのほうに疫病が行っても、繁殖する速度のほうが早いんだろうな」
「……どうする? これでは他の村に避難できない。病気を広めちまう」
「身重な仲間もいやがる。移動は不可能だ」
「徹底抗戦しかあるまい!」
「都から九尾兵の派遣はないのか?」
「向こうも忙しいんだろ。昔だったらペニーがいたが。今はフィールドボスを突破しないと交流が図れない」
撤退せねば全滅。
かといって撤退をすれば他の村まで全滅させかねず、仮に生き残っても魔山羊族たちが山猫族を許さないでしょう。
我々は病に罹りながら、海のような量の敵と戦わねばならないようですね。
倒しても、倒してもきりのない……敵たちと。
アトリがぐるぐるした赤目で見上げてきます。
「神様……どうする。です。か?」
「そうですねえ」
薬はあります。
ありますけれども、量には限りがありました。あくまでもアトリが使う用が最優先であり、この村人たちに全投資することはできません。
疫病対策の薬は【錬金術】ではなく【魔女術】の分野です。そして、現在は魔女と連絡が取れず、そのスキルをセックが借りることもできません。
一応、【錬金術】でも疫病で死ぬ確率を下げることは可能ですけれど。
「とりあえずギルドへ報告に行きましょうか」
▽
ギルド受付員に報告をすれば、報酬をもらえることになりました。
「それでは報酬をお渡ししますね」
そう言った受付員が報告書に判を押したところ、なんと我々の脳内にアナウンスが響きました。
【ネロがレベルアップしました】
【ネロの闇魔法がレベルアップしました】
【ネロのクリエイト・ダークがレベルアップしました】
【ネロのダーク・オーラがレベルアップしました】
【ネロの再生がレベルアップしました】
【ネロの鑑定がレベルアップしました】
【ネロのアイテムボックスがレベルアップしました】
【ネロの敏捷強化がレベルアップしました】
【ネロの罠術がレベルアップしました】
【アトリがレベルアップしました】
【アトリの鎌術がレベルアップしました】
【アトリの月光鎌術がレベルアップしました】
【アトリの造園スキルがレベルアップしました】
【アトリの光魔法がレベルアップしました】
【アトリの閃光魔法がレベルアップしました】
【アトリの孤独耐性がレベルアップしました】
【アトリの神楽がレベルアップしました】
【アトリの口寄せがレベルアップしました】
【アトリの詠唱延長がレベルアップしました】
【アトリの天使の因子がレベルアップしました】
【アトリの光属性超強化がレベルアップしました】
【シヲがレベルアップしました】
【シヲの擬態がレベルアップしました】
【シヲの奇襲がレベルアップしました】
【シヲの拘束がレベルアップしました】
【シヲの音波がレベルアップしました】
【シヲの鉄壁がレベルアップしました】
【シヲの触手強化がレベルアップしました】
【ロゥロのレベルがアップしました】
【ロゥロの攻撃上昇がレベルアップしました】
【ロゥロの破壊術がレベルアップしました】
【ロゥロの格闘術がレベルアップしました】
おや?
私が首を傾げれば、アトリも首を真似するように首を傾げました。
その様子を不審に思ったのでしょう。受付員が慌てたように問うてきました。
「どうかしましたか、アトリ様。経験値が少なかった、とか?」
「? レベルアップした。理由が解らない」
「ああ、それでしたか。一定難易度以上でかつギルドが報酬を用意できないクエストの場合、ザ・ワールドより経験値が報酬として支給されるのです。その制度を利用するためにギルドに所属する会員も多いですよ。普通に戦うよりもレベルアップがし易いですからね」
「そうなんだ」
驚きましたね。
どうやら冒険者ギルドは女神公認の組織だったようです。受付員は苦笑しています。
「あまりギルドとしては使用したくない権限ですけれどね。我々はあくまで人が運営する組織なので……とはいえ今回のような場合は仕方がありません。不正利用はできませんしね」
「そう」
思ったよりも経験値的に美味しいイベントでしたね。
あとギルドに所属するメリットがなくなったと言いましたが前言を撤回させてもらいます。このような制度があったとは知りませんでした。
というかそこまで深くギルドに関わらなかったので調べなかっただけですけれど。
このゲームって色々要素がありすぎて、調べようと思わねば知れない情報が多いんですよね。
「アトリ」
私はアトリの頭に乗って――アトリが歓喜が【勇者】で共有されます――指示を出します。
「こちら側で依頼を出させましょう。まずは……」
こうして私たちはギルドより公式に「オーク帝国、単独奇襲作戦」クエストを与えられました。この強制任務を達成すれば……アトリのレベル90台突入が見えてきますよ。
名前【アトリ】 性別【女性】
レベル【87】 種族【ハイ・ヒューマン】 ジョブ【聖女】
魔法【閃光魔法78】【光魔法84】
生産【造園87】
スキル【孤独耐性94】【鎌術89】【口寄せ71】
【神楽82】【詠唱延長71】【月光鎌術72】
【天使の因子68】【狂化】【聖女の息吹】
【光属性超強化52】
ステータス 攻撃【235】 魔法攻撃【700】
耐久【435】 敏捷【669】
幸運【586】
称号【死を振りまく者】
固有スキル【殺生刃】【勇者】
だいぶ良いステータスになってきましたね。
始めたての頃はジャックジャックなどからステータスによる蹂躙を受けていたモノです。今でしたら神器も込みで、こちらがステータスで蹂躙できるのは感慨深いですね。
レベル90に至れば新たなスキルも手に入ります。
まだ新たな武器スキルは決めかねていますけれど。
「ではオーク帝国に殴り込みをかけましょう」
「はい! すべての命を神様に捧げる。ですっ」
こうして私たち邪神一派VSオーク帝国の戦争が始まったのです。……戦争の礼儀として使者とか送ったほうが良いのでしょうかね。
いえ、まあ、使者を送ったところで理解されずに殺されてしまうでしょう。
そのようなことでゴーレムを失いたくありませんし、時間も惜しいです。
どうせ戦争法なんてないでしょうし、一気に奇襲してしまいましょう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます