第218話 経験値稼ぎ
▽第二百十八話 経験値稼ぎ
早速、戦争は始まってしまいました。
こちらは総員で三十数名といったところ。相対するのは万を超えるオークの軍団でした。数字だけで言えば敗北どころか蹂躙の未来しか見えないことでしょう。
けれど。
「【カーネイジ・ライトニング】」
想起するのはフィーエル戦でした。
しかし、かつてはフィーエルが蹂躙する側でしたが、今回はアトリが蹂躙する手番でしたね。ただ杖を左右に振るうだけで凄まじい数の敵が死んでいきます。
「あ、アトリさん! もっと自然を大切に!」
「?」
「めっちゃ木が! 山が!」
「?」
「相変わらず最上の領域はめちゃくちゃだ!」
「セックが直す」
山猫族の村は山々の間だにあります。本来、山は天然の壁として防衛に一躍を買ってくれますけれど、時空凍結の隙にすべての山がオークに支配されていたようです。
つまり、全方位からの間断なき攻めを実行されてしまうわけですね。
山から無限湧きしてくる勢いのオークたち。
それをアトリは無表情で作業的に倒していきます。
杖の先端から放射されるレーザーは、オークも木も山も関係なく斬り裂いていきます。
【ネロがレベルアップしました】
【ネロの闇魔法がレベルアップしました】
【ネロのクリエイト・ダークがレベルアップしました】
【ネロのダーク・オーラがレベルアップしました】
【ネロの再生がレベルアップしました】
【ネロの鑑定がレベルアップしました】
【ネロの敏捷強化がレベルアップしました】
【ネロの罠術がレベルアップしました】
【アトリがレベルアップしました】
【アトリの光魔法がレベルアップしました】
【アトリの閃光魔法がレベルアップしました】
【アトリの神楽がレベルアップしました】
【アトリの口寄せがレベルアップしました】
【アトリの詠唱延長がレベルアップしました】
【アトリの光属性超強化がレベルアップしました】
【シヲがレベルアップしました】
【シヲの擬態がレベルアップしました】
【シヲの奇襲がレベルアップしました】
【シヲの拘束がレベルアップしました】
【シヲの音波がレベルアップしました】
【シヲの鉄壁がレベルアップしました】
【シヲの触手強化がレベルアップしました】
【ロゥロのレベルがアップしました】
【ロゥロの攻撃上昇がレベルアップしました】
【ロゥロの破壊術がレベルアップしました】
【ロゥロの格闘術がレベルアップしました】
面白いくらいにレベルが上がっていきます。
オーク一体一体は大した強さはありません。ですけれど、それを上回る数が居るためにレベリングは順調でした。
てきとーに放ったロゥロも敵を薙ぎ払っていますし、シヲも意味もなく敵を拘束しています。
「そろそろ良いでしょう。他の人たちにも戦ってもらいましょう」
「やめる。です」
アトリが閃光魔法を終えました。
地味に【カーネイジ・ライトニング】は消費が大きいですね。雑魚を散らす性能は高いので、覚えたのは正解でしたけれど。
魔法を終えれば山猫族たちが動き出しました。
二刀の剣をぶん回し、敵を切り伏せていくのは《跳ね猫》のマリー。一切止まることなく、戦場を跳ね回るようにして剣を振るいます。
オークたちは仲間の死体を踏みつけ、鼻息荒くマリーに襲いかかります。ほとんど濁流の如き攻め具合でしたが、マリーを飲み込むことはできなかったようでした。
また、遠距離では走りながら《跳ね足》のキッドソーが矢を放ちます。
集団を蹂躙する力はありませんが、敵集団の面倒な敵だけを的確に射貫いていきます。魔法使いオークや固有スキル持ちだと思われるオークが、次々と眉間から矢を生やしました。
「さすがに能力差がありますねえ」
「オークのレベル70くらい。です!」
「オークの装備は酷いですし、何よりも技術の使い方が悪いですね」
ほとんど本能任せで暴れるのみ。
雑にアーツを使用しては技後硬直で隙を晒し、その隙にトドメを刺されていきます。ステータスは強くても技が伴わなくては意味がありません。
数も多いだけで連携してきません。
また、こちら側には精霊憑きのNPCが十名以上います。
精霊の支援やスキル補正を加味すれば、70レベルのオークは恐れるほどの敵ではありませんね。首とかに棍棒を叩き込まれたら死にますが。
「攻めろ! 殺せ!」
「ねじ伏せろ!」
短槍使いが器用に敵を切り刻み、鞭使いが暴風のように押し込み、ナイフ使いが次々に敵の急所をぶった切りました。
中でも活躍しているのは、特殊な靴を装備した、蹴り技主体の山猫族です。
数は少ないですけれど、魔法使いたちも頑張っているようです。
初手でアトリが三百ほどを殺し、続いた獣人たちもトータルで五百キルしました。敵が万存在するとしても、今日だけでかなり減らすことに成功しそうです。
とは当初の目論見。
一時間ほど狩りを続けていたところ、死傷者が出てしまいました。蓄積した疲労によってミスが生じ、一気に大群に押し切られたようです。
「!」
駆け出したアトリは大鎌でオークたちをバッタバッタと切り伏せていきます。【ダークオーラ】により近づくだけで敵が状態異常やダメージで倒れていきます。
敵が多いので奪えるMP量も多く、維持には困りませんね。
アトリの称号たる【死を振りまく者】は、対多数に対するバフ効果もあります。
多少の被弾も【奪命刃】や【吸命刃】、【再生】と【リジェネ】などでごり押しです。
死亡したNPCに劣化蘇生薬を使い、シヲに命じて回収しました。
これを皮切りに山猫族たちが次々に押し潰されていきます。圧倒的な兵力差によって、実力さえも関係なしに飲み込まれてしまうのです。
遂にはロゥロの本体もやられてしまいます。
すぐに再召喚できますけどね。
「一端、押し返しましょうか」
私の方針を耳にしたアトリは、大きく頷くと【ヴァナルガンド】を発動します。狼耳がぴょこんと生えたのを目撃したキッドソーが叫びます。
「狼王族だったのか!?」
答えることなく、光炎を纏ったアトリが猛烈な速度で駆け出しました。
近づくだけでオークたちは光で死んでいきます。弱者は触れることはおろか接近することさえも許しません。
雑に振る大鎌が首を刎ねる度、アトリの【月光鎌術】――【
この刃の効果は、斬った対象のステータスを奪い、自分へのバフに変えるアーツです。
徐々にステータスが上がっていく中、【狂化】まで発動したアトリは止まりません。戦場を駆け回るだけで死体が量産されます。
凄まじい経験値が手に入ります。
『!?』
『ぶおおおおおおおおおお!』
先程まで「恐れるモノはなし」と勢いづいていたオークたちが、いまは恐怖と混乱とで悲鳴をあげています。
その巨体を揺らし、必死に小さな幼女から逃げようとします。
が、その無防備な背中は次の瞬間には真っ二つでした。
数十秒暴れただけで、無数にいたオークたちは半壊。
彼らは撤退を選択したようです。オークたちの太ましい後ろ姿を見てとり、アトリは【ヴァナルガンド】を解除しました。
疲労してしまったようで、ふらりとアトリが姿勢を崩します。
オークたちは必死の撤退により、死神幼女の隙には気づかなかったようですね。
とりあえず押し返しました。
「うおおおお! アトリさん万歳!」
「獣人の誇りだ!」
「……ボクは獣人じゃない」
狼耳が消えたところを抑え、不満そうにアトリが呟きました。
結果として効率良い経験値稼ぎになりましたね。私の【霊気顕現】もあと少しで発動可能まで持って行けることでしょう。
▽
敵を退けた我々は、山猫族の村で休んでいました。
アトリ専用の小屋が用意されています。
内装は粗雑ですが、山猫族なりの精一杯のおもてなしなのでしょう。ただし、あまり良いとは言えないので、あとで理想のアトリエに移動するか、別途で家を作りましょう。
「報告致します、マスター」
さて、帰還したセックが完璧なカーテシーを披露してくれました。けれども、その優美さとは裏腹に、彼女のまとうメイド服は泥だらけでした。
こほん、と咳払いをしてセックがゴーレムらしい平坦な声を並べます。
「【偵察】スキルをお借りして、オークの国を見てきました。完璧なわたくしの完璧な偵察によれば、敵方には繁殖に特化した固有スキルを持つ個体がいるようです。国全体では、おそらく日に五か六百のオークが生まれるようです」
「中々の量ですね。かなり殺しましたけれど、それでも二千には届いていません」
「今までオークは出生数を調整していたようですが、戦時下に伴って規制を廃止したのでしょう。ですが、オークはあくまでも国。全員が戦闘員ではないようでした」
「といっても、この地域のオークは生まれた瞬間から60から70レベルのようです。戦おうと思えば戦えるでしょう」
セックによれば、オークは兵士だけではないようです。
農民や狩人、政治家や騎士、建築家、花屋など……人類種さながらの生活を営んでいるようですね。中には暗殺者もいたようで、セックも途中で発見されて戦闘に突入。
連れて行った戦闘用と偵察用のゴーレムは破壊されてしまったようです。
「オークの幹部クラスはそこそこの実力者でした。油断はできません」
「そのようですね。貴女が泥だらけになるレベルですからね」
「……わたくしは悲しい」
完璧を自称するセックが服を汚して帰ってきたのです。
撤退戦は不利にまで追いやられたのでしょう。セックは戦闘に特化しているわけではありませんが、それでも神器としてのスペックは有していますからね。
そのセックが厄介だと証言するのでしたら、アトリも油断すべきではありません。
今回の戦闘もオークの数から見て、お試しの様相が濃いようです。こちら側の戦力を観察するための初戦だったのかもしれません。
幹部クラスは出てこなかったようですね。
戦争っぽくなってきましたよ。
「それでは明日はもっと深くまで攻め込みましょうか」
「はい! 神様! 王を殺す……です」
「かしこまりました、マスター。完璧なわたくしの蹂躙をご覧に入れます」
アトリとセックが意気込むのを見計らったように、山猫族の子どもが小屋に駆け込んできました。ノックもなしでしたが、その慌てた表情に無礼さえも忘れさせられます。
「報告します! オークの軍が再度、攻撃を仕掛けてきました! 数は三千!」
さっき追い返したばかりなのですけれど……
連戦の気配がしてきましたね。オークの巨大な足音が地鳴りを起こし、徐々に迫ってきているようでした。
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