第213話 精霊王たちとの会話
▽第二百十三話 精霊王たちとの会話
大猿の首を落として確殺を入れました。
あくまでも大猿はレベル100なだけの魔物でした。すなわち、今さら一匹倒したところで、アトリにとっては大した経験値にならなかったようです。
では、殺すだけ損だったかと言えばそうではなく。
精霊の森から霧が引いていきます。
この森が霧に覆われていたのは、たぶん大猿の固有スキルだったのでしょう。霧を発生させて正体を隠す能力――とかでしょうかね。
霧が引いた、森閑なる森にてアトリが無表情でぴょんと一度だけ跳ねます。
「神様、すごかった。です!」
「そうでしょうそうでしょう」
「神様! 神様!」
アトリが私をひとしきり讃えました。
さて【霊気顕現】についてですけれど、とくに後遺症のようなものは見受けられません。魂痛もなければレベルダウンもなく。
あの使い勝手でMP総量と同額消費だけで済むのは破格ですね。
対象の強制的な絶対停止。移動や攻撃はおろか、魔法やスキル、アーツの使用さえも許しません。
また、推測ですけれど「影を奪う」ことが本質な以上、たとえば【狂化】でも防げないでしょう。かなり対策の少ない必殺技となっています。
これは朗報であり悲報でもありますね。
霊気顕現の使用者は今後も増えていくことでしょう。敵に使われた場合、かなり苦戦させられること必至です。
まあ、その時はこちらも【霊気顕現】を使えば良いだけのこと。
少し遅れて詠唱しても、発動してしまえば攻撃さえも止められるのが私の霊気顕現ですから。
今後も多用していきたいところ。
とはいえ、長い詠唱を強制されるわりに、効果時間は三秒しかありませんでしたが。
本体ではありませんでしたが、カラミティーを返り討ちにできる性能です。自分の相棒を撃破された精霊王のほうを見やります。
悪意を抱かれ、恨まれては敵いませんね。
どういうカラクリなのか、未だに【顕現】したままの水精霊王が言います。
「遊んだ。遊んだ。遊んだ。遊んだ」
「相棒を殺されてショックとかないのですか?」
「遊び。遊び。遊び!」
私と精霊王との違いですね。
私はアトリと一緒に冒険していますけれど、精霊王的には操作キャラくらいの感覚なのでしょう。換言すると、負けたらカードを差し出すデュエルをした、くらいのニュアンスだったのでしょうね。
勝つことが目的なのではなく、戦うことそのものが目的だったようです。
満足したようで水精霊王は姿を消しました。
残ったのは後ろで戦闘を観覧していた光精霊王です。彼は能面のような顔のまま頷きました。
「霊気顕現。世界。安定。属性。の。確立。神。延びる」
「それは良かったです。貴方のお陰で勝てたようなところもありましたし、今回はありがとうございました」
「闇。の。影。管理。依託」
まだ光精霊王の言っていることは要領を得ません。しかしながら、お世話になったことは事実でした。
私は【アイテムボックス】から残ったシュークリームをプレゼントしました。
「?」
「どうぞ召し上がれ」
「食事。精霊王。不要。嗜好。試す。感謝」
精霊王はシュークリームに顔面をぶつけます。食事という行為自体に不慣れなのでしょう。顔にクリームを塗りたくるようにして、光精霊王はシュークリームを完食しました。
「甘味。美味。蕩ける。方法。獲得。質問」
「……もっと食べたい、ということですかね? だとしたら人類種と契約して、人里で買い物をしてもらうと良いです」
「買い物」
「ええ。今でしたらあちらの世界の食品も出回っていますし、こちらで料理スキル100でレシピを再現されたモノもあることでしょう」
「感謝。感謝」
光精霊王は甘党だったようですね。
慌てるように光り精霊王の姿がかき消えます。アトリや私でも関知できない移動方法。そのスペックの高さはさすがはカラミティーと言えるでしょう。
せっかくですし、セックに取り憑いてもらえば良かったですね。可能かどうかは知りませんけれども、精霊王が味方にできたらゲームクリアも目前でしょう。
「今から他の精霊王を探す……のは辞めておきましょうかね」
他の精霊王が友好的とは限りません。
遊び半分だった水精霊王でさえも、私たちは殺される寸前でした。彼女が最初から本気だった場合、あるいは彼女も【霊気顕現】を使ってきていた場合、破れていたのは私たちです。
次の精霊王が友好的だったり遊んでくれるとは限らず。
このような魔境、さっさと抜けてしまうのが最善です。
面倒な突発イベントでしたけれど、得られる物は多かったですね。アトリだけではなく、私も魔王に対抗するための牙を手に入れました。
正直、私の【霊気顕現】があれば魔王にも届きそうです。
が、おそらくそのように簡単な話ではないのでしょう。魔王は未だに力の底を見せませんでしたし、何よりも彼女の本領は大罪兵器と呼んでいた技でしょう。
その名がたしかでしたら、七つも切り札があるわけです。
いえ、下手をすれば虚飾と憂鬱も含めて九つかもしれませんが。
対応しているであろう神器が七つの美徳なので、魔王側も七つであることを願いますけれど。
少なくとも、私たちはようやく魔王の足下には辿り着いたわけですね。
「では、さっそく行きましょうか」
「第四フィールド! です!」
「ここも第四フィールドでしたけれどね」
倒した大猿から牙を採取してから、ようやく我々は精霊の森を抜け出したのです。そうして目の前に広がっていたのは……山に次ぐ山々。
上空から確認した感じ、この山を越えた先に大規模な村があるようですね。
「第四フィールドは部族単位で固まった集落を、皇帝がまとめあげた形での帝国です。とりあえずは最初の村に向かいましょうかね」
そうして山に入った瞬間のことでした。
アトリに向けて矢が放たれたのです。無論、アトリは後方に身を投げ出して回避しました。
大地に突き刺さった矢は、どうみても人類種が放ってきたモノ。
「どうするです。か? 神様?」
「捕まえましょう」
「捕まえる……です」
アトリが山を駆け出しました。
慌てて逃げ出す気配に向け、我々は追跡を開始します。
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