第212話 影なき楽園の絵空事

   ▽第二百十二話 影なき楽園の絵空事

 意識が不意に戻りました。

 それと同時、私の脳内にアナウンスが響き渡ります。


【個人アナウンスを開始します】

【プレイヤー・ネロが闇の根源の一角を定義、支配しました】

【プレイヤー・ネロに称号が贈られます】

【プレイヤー・ネロには霊気顕現の使用許可が出されます】

【以上。今後とも救世をよろしくお願いいたします】


 周囲は凍り付いた森でした。

 葉っぱの一枚一枚に至るまでが凍り付き、差し込む木漏れ日さえも冷たく感じられます。私の意識が闇に捕らわれている間に、精霊の森には雨が降りしきっておりました。


 雨に濡れながら、私は周囲を確認します。


 するとアトリが居ました。

 首元まで氷に覆われた幼女の姿。失った腕は付け根を凍らされているために【再生】もできていない様子です。


 あくまでも攻撃判定のようで【狂化】でも解除できないのかもしれません。


 すでに絶望状態の窮地にあって、しかし、死神幼女の瞳は死んでいませんでした。ぐるぐると狂信に回る瞳は、私の帰還を確信しているようでした。

 現に。


「神様!」

「――待たせましたね、アトリ」

「信じてた! ですっ!」


 最悪の場合、戻ってきたところで手遅れの未来もあり得ました。前回では、あの空間を制御することに失敗したために時間が過度に経過したようです。

 今の私は前回の私よりも、闇の支配能力が大幅に上昇しているようでした。


 目をゆっくりと閉じ、私は鋭く目を見開きます。


 アトリは私を信用してくれていたようです。

 殺されそうな寸前さえも。


 ならば、たまにはその信頼と期待とに応えましょう。

 基本、私は駄目人間です。まともに社会で生き抜くことのできないはみ出し者。子どもに嘘を吐いて神様を名乗るただの闇精霊。


 今の私は才能しかない、ろくでなしの破綻者・天音ロキではありません。

 今の私はネロ。

 しがない闇精霊であり、そして――アトリの邪神なのですから。


 たまには神らしいところをお披露目しましょう。今の私にはそれが可能なのですから。


「アトリ! MPを全回復してください」

「ライフストック使用――【MP回復】」


 いつもは攻撃に使うライフストックを、アトリはこの状況で初めてMP回復につぎ込みました。MPを全回復した状態で、ようやく私の【霊気顕現】の使用条件を満たしました。

 氷がアトリの口元まで届くと同時、私は闇を支配します。



 今の私には見えます。

 凍り付いた森の中、それでも闇は世界の至るところに満ちている。アトリから引き出した魔力を私色に染め上げ、その闇で以て世界を塗り潰していきます。


 世界中に潜んでいた闇たちが……蠢き始めます。

 この闇はすべて私のもの。

 ゆえに私は命じます。


「ネロの名に於いて闇に命ず」


 世界中の闇が一斉に私を見やりました。ぞわりと世界が揺れます。夥しい闇の気配に飲まれないように意識を保ちながら、私は世界を塗り潰すための詠唱を続けます。



万物の輪郭、、、、、造形の定義、、、、、遍く世界の根源、、、、、、、――すなわち闇と定めよう、、、、、、、、、、闇なき世界に形はなく、、、、、、、、、、闇なき世界に安寧の来訪は赦されぬ、、、、、、、、、、、、、、、、




 霊気顕現、、、、




「剥奪なさい――【影なき楽園の絵空事ネロ・ペルデレ】」



 瞬間。

 周囲一帯の闇が一息に払拭され、そのすべてが私に収束します。ありとあらゆる闇が、影が、すべて消滅しました。


 唯一、私とアトリにだけ闇が許される。

 何が起きたのか?

 簡単なこと。


 私が闇に命じて奪ったのは、影です。

 影とは輪郭。あらゆる形の額縁。輪郭なき造形は存在することさえも許されません。


 私の【影なき楽園の絵空事ネロ・ペルデレ】の効果は――「強制的な絶対停止」と「強度の喪失」でした。

 闇を奪われるということはそういうこと。

 私が「そう定めました」。


 アトリが呼吸するだけで、水精霊王の氷が砕けます。


 私は命じます。

 頼れる私の相棒へ!


「行って殺しなさい! アトリ」

「はい! です、神様!」


 アトリが大鎌を構えて駆け出します。

 無防備とも言えるような疾駆に対し、大猿も精霊王さえも動くことは不可能。表情ひとつ変えることもできず、無論、妨害だなんてできるわけもなく。


「終わりです」


 これが私の【霊気顕現】!

 魔王にさえ届きうる、私の刃。絶対の万能感の元、私は小さく微笑します。それに伴うようにアトリも咆哮します。


 深紅の瞳。


「神は言っている!」


 アトリが大鎌を振りかぶり、大猿の首に……死刃を届かせました。


「――行って殺す」


 大猿の首は何の抵抗もなく……ずれ落ちるように切り裂かれました。


【ネロがレベルアップしました】

【ネロの闇魔法がレベルアップしました】

【ネロのクリエイト・ダークがレベルアップしました】

【ネロのダーク・オーラがレベルアップしました】

【ネロの再生がレベルアップしました】

【ネロの敏捷強化がレベルアップしました】

【ネロの罠術がレベルアップしました】

【アトリの口寄せがレベルアップしました】

【アトリの光属性超強化がレベルアップしました】

【シヲがレベルアップしました】

【シヲの擬態がレベルアップしました】

【シヲの奇襲がレベルアップしました】

【シヲの拘束がレベルアップしました】

【シヲの音波がレベルアップしました】

【シヲの鉄壁がレベルアップしました】

【シヲの触手強化がレベルアップしました】

【ロゥロのレベルがアップしました】

【ロゥロの攻撃上昇がレベルアップしました】

【ロゥロの破壊術がレベルアップしました】

【ロゥロの格闘術がレベルアップしました】

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