第194話 マリエラでの戦い

   ▽第百九十五話 マリエラでの戦い

 到着したのはマリエラでした。

 すでにアトリはこの街では有名人です。食事処荒らしとして、無法者に対する冷酷な鉄槌者として、冒険者として……その他に数多。


 ですが、この街でのアトリの立ち位置は魔女の友達でした。


 魔女はアレでいて気難しいほうです。偶々、アトリが世界樹や色々な素材を持っていたために交流が取れましたが、普通であれば拒絶されて無視されて追い返されます。

 そのような魔女と仲良し。

 この街ではアトリを象徴するような異常事態なのでした。


 アトリは今、魔女の家の前にいます。

 とくに周囲との違いのない、シンプルで質素な建物。魔女の住処だとはとても思えぬ風貌にも、我々はすっかり慣れ親しんでしまいました。


 今では利便性にも鑑みて、理想のアトリエに居るか、ここに居るかという感じです。


「入る。です……」

「気をつけていきましょう」

「……はい」


 アトリは現在、デメリットのあるスキル以外をフル発動しております。【神楽】スキルの【奉納・災透わざわいとおりの舞】も使っています。

 すう、と扉を透過して侵入しました。

 初めてアトリが魔女の家の扉を壊さずに、彼女の家に足を踏み入れました。


 すると、全裸の少女がティーカップを手に立っていました。


 湯気の立つカップに唇をつけ、ゆったりと喉を鳴らします。肩をぐるりと回してから、目を眇めてこちらを見やってきます。


「どうした、アトリ? ようやくドアを壊さねえ方法を見つけた自慢に来たのかい?」

「……おまえは第三フィールドのボスなの?」

「は? 何言ってんだ、てめえは」

「!」


 目を輝かせたアトリに向かい、魔女はゆっくりと近づいてきます。


「あのな」


 魔女は大きな溜息を吐き、テーブルにカップを置きます。近くに置いてあった薬剤を口に含み、棚に並べられていた注射器を腕に打ち、グツグツと煮えるフラスコを取り上げて一気飲みし、植木鉢から植物を引っこ抜き、杖を拾ってアトリの間近に立ちました。

 相対するかの如く。


「なんでてめえが最初の敵なんだよ」


 打撃。

 杖での物理的な殴打でした。


 アトリは悲しいぐらいに反応できてしまっています。大鎌で杖を防ぎましたが、衝撃までは殺せずに後ろに吹き飛ばされます。

 壁がぶち抜け、小柄なアトリがいくつかの家屋を破壊しました。


「あちしこそ」

 いくつもの薬を摂取しながら、魔女は告げます。

「魔王四天王が一翼《神薬劇毒のピティ》により創られし、改造現し身――《絶死狂鬼のステリア》こと名無しの魔女さんだ」

「……」

「ま、てきとーに殺し合おうぜ、アトリ。それがあちしのお仕事だ」


 瓦礫の山から立ち上がったアトリは、だらりと脱力して……大鎌を構えました。それを苦々しく見つめながら、魔女がローブをゆったりと羽織ります。

 頭には魔女帽子。

 その帽子のツバで顔を隠しながら、魔女は杖を宙に浮かべて腰掛けます。


「魔女の恐ろしさを教えてやんよ」


 マリエラ全土を巻き込んだ戦闘が開始されました。


       ▽

 掲示板で調べたところ。

 あるていどの格がある敵対ボスモンスターは【鑑定】の判定が甘くなるようです。改めてボスモンスターとして出現した魔女を【鑑定】しました。

 すると。



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 完全に文字化けしてしまっています。

 これでは結局のところ、ステータスが読み取れませんね。


 手の届かない上空。

 杖に横乗りとなって大空を疾走する存在がいます。彼女は大量のポーションや悲鳴を聞くだけで即死する植物などを降下してきます。


 アトリはそのすべてを純粋なステータスで回避し続けました。


 ですが、問題は周辺でした。

 マリエラの美しい街並みが悉く破壊されていきます。住民たちは逃げ惑い、悲鳴を上げ、すでに何十という人が死亡してしまっていました。


「……っ! かみさま」

「どうしたいですか、アトリ」

「……」


 何も言えずにアトリは大鎌を一閃しました。

 投下された爆発ポーションを切り刻みます。飛び散った液体が近くの住宅に飛び散り、その壁面が木っ端微塵に吹き飛びました。


 かなりの暴れっぷりですね、魔女。


「ボクは」

 言い淀むアトリが突如として血を吐きます。

 慌てて【鑑定】してみれば状態異常の欄に【死告病】と書かれています。幼女の足元を小さなネズミが駆け抜けていきました。


 周囲の人々にも【死告病】は蔓延しているようですね。

 疫病を操っているのかもしれません。かつて魔女より渡されたポーションを飲ませれば、その病はあっという間に回復してしまいました。


「神様」


 アトリが私を縋るように見つめてきます。

 潤んだ瞳。

 弱々しい声。


「神様……ボクに命じてほしい。です」

「なんと?」

「魔女を――殺せって」


 アトリは単純に戦えないようでした。

 それでも、私の命令であるならば魔女の命すら取ってみせる……そう言いたいのでしょう。


 アトリは勇者であり聖女でした。

 けれど、彼女の心根は決して「人類種目線での善」とは言えません。たとえば村を壊滅させた時。アトリはたしかに虐待をされ、同情すべき立場ではありました。あの場面でアトリが「善」ならば逃げたのです。


 殺戮なんてしなかった。


 その他もそうです。

 アトリは人類にとって「良い」立場に立ちがちなだけで、その根本はおそらく私と同じ――残酷なまでの中立。


 好悪で悪も善も成す存在。


 であるからして住民を大量虐殺する魔女を……殺せません。


 だってアトリにとって重要なのは住民よりも魔女だからです。その魔女が敵だと知れた今、アトリはもう訳が解らなくなっています。

 しょうがありません。

 私が「魔王を殺せ」と命じていないのですから。


 あくまでもアトリは自分の意思で魔王と戦うことを決めました。

 そして。

 自分の意思であるならば、アトリは魔女とは戦えません。


「さてアトリ。こういう時に大人はやるべきことがあります」

「やるべき……こと」

「そう。迷ったところで解答の出ない、世界が課してくる理不尽。生きていればそういう場面にどうしようもないほどにぶち当たります」

「どうすれば良いです、か……?」


 解答は簡単でした。


「逃げましょうか、アトリ」


 私の提案にアトリは……紅の瞳を揺らしました。

 爆撃と悲鳴と断末魔の轟く、戦場の中央。白髪の幼女の周囲だけが不気味なほどに冷たい時間が流れています。

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