第21章 ステリア討滅戦編
第193話 第三フィールド・ボスについて
▽第百九十三話 第三フィールド・ボスについて
学園を立ち去ったアトリは、長老からもたらされた情報を確認していました。そこに記載されている情報はかなり衝撃的でした。
手紙が曰く。
『第三フィールド・ボスの正体はピティではない。ピティは神から授けられた現し身を改造して独自の人格を授けた。つまり、第三フィールド・ボスは改造生物である』
手紙は続きます。
『現し身は原則、元の性能を参照されている。ピティに近い性能を持っている。が、ピティはスキルを一つしか持っていない。レベルも上げないようにしている。すなわち、現し身はピティが元来から有している【ウィッチクラフト】と【薬草術】だけを引き継いでいる。また、現し身には寿命がなく、明らかにおかしい寿命をしている人物が怪しい』
手紙には無数の論拠が挙げられていきます。
しかし、私たちは言葉が募られていくにつれ、徐々に何とも言えない感情になっていきます。この手紙を書いたのは研究者たる長老でした。
論文の書き方として……序文に結論を持ってくるというテクニックがあります。
長老は書きたいことを全部書く、典型的なイカれ研究者タイプの文調ですが基本は抑えているようでした。
この手紙も例外に漏れず、そのテクニックは披露されていました。序文に結論……すなわち犯人について名前は記載されていました。
『これらの論拠を以てして《学者の村》の総意として、序文に述べた通り、第三フィールド・ボスの正体はマリエラに在住している名無しの魔女……《絶死狂鬼のステリア》であると判断する』
アトリは手紙を睨み付けました。
ぐちゃぐちゃに紙切れを握り潰し、それを大鎌の一振りで消滅させてしまいます。
「神様……お手紙が嘘を吐いている……です」
「おや」
手紙に書かれている情報が正しい、と私は鵜呑みにはしません。十分な根拠は挙げられていますけれども、そして信じるに値しますけれども、間違っていないとは断言できませんから。
重要なのは確認です。
今のところ、魔女――《絶死狂鬼のステリア》が怪しいのは事実でした。
「確かめには行きましょうか。それともアトリ? 魔王の討伐は諦めますか?」
「……それは」
「私としてはどちらでも良いですよ」
メインストーリーそっちのけで遊ぶなんて、ゲームではあるあるのはずでしょう。何よりもMMOなんて大抵がメインストーリーよりも、レベル上げなどの「強くなる」ことを楽しむものです。
私はそれで満足できます。
そもそも《スゴ》は遊びよりもお金目的で始めましたしね。魔王なんて倒さなくても全然オッケーなのが私です。
「……魔女に話を聞く。です」
「そうしましょう。本当に魔女がフィールド・ボスだったとしても戦わないという選択肢もありますよ」
アトリと魔女は友達です。
友達を殺すことはしたくないでしょう。幼女に友人殺しを強要するほど、私って人間的に厳しくありません。
「……シヲ」
アトリはシヲを馬の形態にして飛び乗りました。しかし、そこにはいつもの元気がありません。思ったよりもアトリは魔女のことを気に入っていたようですね。
まあ人生で初めてレベルの友人です。
裏切られたかもしれない、という思いもあるのかもしれませんね。
そう考えるとアトリって可愛そうです。
もしも、本当に魔女が敵側だった場合、彼女の側に居るのって「邪神RPという裏切りを抱えている私」です。もうアトリにはシヲしか残されていません。
ロゥロはそういう次元に居ませんしね。セックも私寄りですし。
私はアトリに大人しく抱きかかえられました。
「アトリ、魔女は私たちにたくさん協力してくれました。それは真実です。たとえ何か別の思惑があったとしても、今までもまた事実の側面であったことはたしかです」
「はい。です」
「ですから、あまり気を落とさないようにしましょう」
私は「手紙が間違っているかもしれない」とは口にしませんでした。
何故ならば、手紙に書いてあることはおそらく真実だからです。
魔女が私たちを助けてくれていたのは紛う事なき真実。
疑いようのない現実でした。
魔女に依頼したことは魔王軍にとって不利になることばかり。直近では「元魔王四天王《契約殺戮のノックスハード》の遺策たる【天軍襲撃】を止める手伝いもしてくれました。
魔女からの情報やアイテムがなければ、私たちはもっと被害を受けたでしょう。
つまり、魔女の動きは訳が解らないわけです。
「では、向かいましょうか。なるべくゆっくりと」
私たちはまたもやマリエラに帰還することになりました。
こうして第三フィールド・ボスを巡る戦いは幕を開けたのです。戦場は我らが第二の故郷――《明星都市マリエラ》。
私たちの拠点でした。
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