第188話 魔教司教の襲来

   ▽第百八十八話 魔教司教の襲来

 残念なことにゴーレム・コアを破壊してしまいました。

 まあ、敵が使ってくるゴーレムのコアから、こっち陣営のゴーレムが作れるのかは知りませんが。


 おそらく最上級のゴーレム・コアだったのでほしかったのですけれど。


 破壊してしまったモノはしょうがありません。

 生徒たちの安全を考えるのでしたら、即殺したほうが都合の良い相手でしたからね。これから魔教徒本人と戦うかもしれないので、ゴーレム戦で【劣化蘇生薬】を使うのは問題でした。


 ゴーレムの残骸をうしろに、アトリは生徒たちの側に帰還します。ですが、その途中でふと足を止め、また残骸のほうに向き直りました。


 残骸の上。


 シスター服を身にまとった美男子が座り込んでいました。長い黄金の頭髪からは光属性の魔力があふれ出しています。ジト目がアトリに向けられました。


「落胆でございます。傑作でございましたのに瞬殺されてしまったようでございます。これは私では勝ち目がございませんなあ」

「子どもはどこ?」

「人質を奪還されては困るのでございます。ゆえに置いてきました。私を殺せば見つからないかもしれませんなあ」

「そうは思わない」

「……【リアニメイト】でございますか? 教祖の言うとおりデタラメでございますなあ。人質ごと殺し、隠しても強制的に口を割らせる。強制的な力自慢に付き合わされてしまうのでございますなあ」


 ぱちん、とシスター服の美男子がウインクを送ってきます。


「アトリさん。ここはヘレンさんを私に渡したほうがようございましょうなあ。私どもは貴女と比べれば脆弱でございますが、その厄介さしつこさは特筆すべきところがございます。面倒でございましょう、私どものお相手は?」

「黙れ。敵はぜんぶ殺す」


 アトリが大鎌を構えたところ、魔教の美男子はロングスカートを揺らして立ち上がりました。美しい顔はジト目で台無しです。

 魔教の美男子が腰を折ります。


「魔教司教――オリバー・バーミリオンでございます。ああ、この服装については趣味ではございません。性能が良いので着ているだけでございます、あしからず」


 魔教司教。

 オリバーが指を鳴らせば、彼の背後に無数のゴーレムが出現しました。その性能は中級や上級といったところですが、すべてが戦闘に特化した性能のようですね。

 腕輪からフラスコを取り出し、光を放つ頭髪を揺らします。


「良き次の世界のため……次の世界の罪なき子らのため……ここにて私の命を使いましょう。ゴースさんよりもアトリさんのほうがチャンスがありそうでございますからなあ。性格的に」


 魔教司教との戦闘が開幕しました。


       ▽

 夥しい数のゴーレムたち。

 その大半が【神聖魔法】や【閃光魔法】の使い手のようです。相互に補助バフを掛け合い、速度の高い【閃光魔法】で攻撃してきます。


 そのさまはタレットによる飽和攻撃のよう。

 アトリは【閃光魔法】の超スピードを見切り、【魔断刃】で次々と切り払っていきます。また、光を反射する魔法アーツ【ミラー・ライトニング】で跳ね返したりもします。


 ですが、さすがにかすり傷が増えてきます。


 うしろの生徒たちを守るためです。

 歯噛みするアトリを見やって、司教オリバーはホッと胸を撫で下ろします。


「一応、仲間を守る秩序はお持ちのようで安心したのでございます。では、こういうのはどうでございましょう?」


 指を鳴らせば、オリバーの真横に気絶したおかっぱ頭が出現しました。どうやらポーションで姿を隠されていたようですね。

 アトリが突撃しようと動く直後、オリバーはおかっぱ頭の首を握りつぶしました。


「――!」

「あるのでございましょう? 【劣化蘇生薬】が。ですが……」

 

 オリバーが手にしていたポーションをおかっぱに振りかけます。

 すると、なんとおかっぱ頭が蘇生してしまいました。つまり……もう今日はもうおかっぱ頭に【劣化蘇生薬】は使用できません。


「私にもあるのでございますなあ。邪世界樹を殺して得た、素材が。さてはて。こうなった時、アトリさんはどのように動かれるのでございましょう」

「普通に殺す」

「ほうほう。それは本気でございましょうかねえ」

「【イェソドの一翼】【ケセドの一翼】発動」


 羽を解放したアトリが敵に飛び込みます。

 目を見開いたオリバーは溜息とともにおかっぱ頭を抱いて後方に飛びます。人質を奪還されぬようにするべく、オリバーの動きは鈍ってしまうようですね。


 人質を殺したくば殺せばよろしい。

 アトリの速度があれば、殺そうと動きが変わった瞬間に殺せます。アトリを前に別人を殺している暇はありません。


「ゴーレムたち、ヘレンさんを!」


 アトリから距離を取ろうと試みながら、オリバーがゴーレムたちに指示を出します。また、自分を守らせるために新たなゴーレムやキメラを呼んでいるようですね。


 アトリが前に出たということは、その他大勢がヘレンたちを狙えるということ。


 たくさんのゴーレムがヘレンに向かって駆け出します。

 拉致するにあたって【劣化蘇生薬】があるのでしたら、一回殺すくらいはコラテラルダメージとなるのでしょう。


 多用している手前、口にするのは気が咎めますけれど――ずりぃですね。


 こちらはシヲもセックも引き連れてきています。

 早々に容易く拉致されるつもりはありません。というか、敵は中級ゴーレムの群れでしかありませんからね。


 二人の敵ではありません。


「完璧な」セックが箒を振ります。「ワタクシと同じ種族と名乗らないでもらいたいです」


 大量のアンデッドを生み出した上、セックはアトリから借りた【閃光魔法】を連射します。次々に敵対ゴーレムが消えていきます。

 シヲは敵の遠距離攻撃を肉体で受け止めていました。

 生徒たちは後ろで防御を固めています。


「遅い」

 アトリが敵に追いつきました。

 オリバーは弱くはありませんが、さすがにアトリを単独で相手取るにはステータスが不足しているようです。しかもおかっぱ頭を抱えている状況ですからね。


 アトリがオリバーの首を切り落としました。

 しかし、オリバーの首から血は噴き出しません。どころか平然と稼働を続けています。特殊なスキルを使っている……わけではなく、オリバーはゴーレムだったようですね。


 その時でした。

 

 突如としておかっぱ頭の杖がアトリの心臓を貫きました。目を見開く、おかっぱ頭自身。彼を抱えているゴーレムの頭部が笑います。


「ふふ、魔教は面倒でございましょう、アトリさん」

「べつに」


 現在、【ケセドの一翼】を使っているアトリは心臓を貫かれても死にません。というよりも【イェソドの一翼】で未来を視ていたので避けることだってできました。

 ですが、あえて喰らいました。

 アトリが身体をひねる動きでおかっぱ頭を後方に吹き飛ばします。


 現在HP1のおかっぱ頭が死なぬように闇でクッションを作りキャッチします。


 これで人質は回収しました。

 私が魔女産の洗脳解除アイテム、肉体操作解除系のアイテムをおかっぱ頭に使用していきます。これでアトリも安心して敵を討伐できることでしょう。


「これで――」

「――固有スキル【拘束弾】」


 ぱあん、という音がしてアトリは背後から銃弾で撃ち抜かれました。途端、アトリは肉体から力を失い、その場で膝を屈してしまいました。

 背後から生徒の悲鳴。


「アトリ先生!」

「う、うわー」とアトリが棒読みで言います。「う、動けない」


 その様子を見てオリバーが首を傾げましたが、すぐにヘレンたちに向き直ります。意識は私に向けられました。


「さてネロさん。貴方が強い【顕現】を使うのは存じてございます。貴方が動かねばアトリさんにはこれ以上の危害を加えぬのでございますゆえ。可能でしたら使い魔の動きも止めてほしいのでございますなあ」


 今までスキルかアーツ、ポーションの効果などで姿と気配を立っていたオリバー本体が、銃を構えながら言い募りました。

 まあ、私に異論はありません。

 セックやシヲが抵抗をやめ、ゆっくりと下がっていきます。


 ユピテルとヘレン、せっかく救出されたおかっぱの顔色が悪くなります。それをオリバーは満足そうに眺めました。


「申し訳ございませんなあ。次の世界の人類種が素晴らしき種族となることを祈りましょう」


 魔教の魔手が生徒たちに伸びました。

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