第187話 エンシェント・ゴーレムVS

  ▽第百八十八話 エンシェント・ゴーレムVS

 戻ってきた初老教師はどうやら寄生されたようです。

 じつはパラサイト・フェアリーの寄生条件って難しいところ。寄生されている人に触っただけでもアウトになる場合があるようです。


「じつに厄介なことです。アトリ先生……ここは判断の迷い所ですな」

「うん」

「我々が行っても……返り討ちに合う可能性が高い。魔教の上位陣はそういう存在でしょう。アトリ先生やゴース・ロシューレベルでなくば」


 ちらり、と見やるのは護衛対象たるヘレンでした。

 曰く、彼女を奪われることのほうが第一フィールドの存亡よりも致命的……とされる少女でした。そのような少女を外に出すな、と思われるかもしれませんが難しい話。


 このゲームは何が起こるか解りません。

 閉じ込めたところで「出たい」という意志が、ヘレンに妙な力を与えることも考えられます。固有スキルは願いに繋がっている、という説もありますからね。


「ボクが行く。ヘレンたちも護衛する」

「……解りました。こちらの守りは教師全員で行います。とはいえ、アトリ先生とヘレン、ユピテル殿下以外を狙う価値などありませんがな」

「関係ない。あいつもボクの生徒」


 おかっぱ頭は大方、人質にされてしまうのでしょう。

 魔教の掌の上ですね。かといって一部の生徒たちを遠征に連れて来なかった場合、学院に潜入されて拉致されていたでしょう。


 学院が無能なわけではなく、魔教が訳が解らない、というのが現状です。


 学院側もソレを懸念危惧して最高戦力たるゴース・ロシューを攻めに回しているのです。守ってばかりでは勝てませんからね。

 そして、今からはアトリの攻め番です。

 精々、我々を掌の上でコロコロと転がして喜んでいるがよろしい。貴方たちが嬉々として弄んでいるのは毒蜘蛛なんて目ではないほどに恐ろしい存在。


 掌から心臓まで……力だけで食い千切ってみせましょう。


 アトリが数名の生徒を引き連れ、敵の捜索を開始しました。


       ▽

 村の外には思ったよりも魔物が群生しています。

 来る時にはいませんでした。おそらく魔教が何かをしていたのでしょう。元々いた魔物を排除していたのか、新しく追加したのかは定かではありませんけれど。


「【カーネイジ・ライトニング】」


 アトリが杖を振り回せば、次々と魔物の首が両断されていきます。高ステータスによる魔法によって大半の魔物はサーチアンドデストロイでした。

 その様子をユピテル殿下が呆れたように見つめます。同行しているヘレンも頷きます。


「近接特化だと思っていたんだけどな」

「最上の領域ってみんなこんなのなのですか?」

「どうだろうな。遠近万能のジークハルトも魔法で火力を出すことはしなかったが」


 さて。

 我々は敵を捜索しようと考えていましたが、今はその必要性を感じていません。というのも、敵のほうから位置を教えてくれたからです。

 まあ人質を取ったのに活用しない意味がありませんしね。


 見上げるほどの大きさの化け物が見えます。

 あれはゴーレムでしょう。

 セックのような人型ではなく、巨大ロボットのようなゴーレムでした。私の【鑑定】は弾かれましたが、教師が言うには【エンシェント・ゴーレム】とのことです。


 あれが魔教の切り札でしょうかね。


 高位ゴーレムはカスタム製が高いです。おそらくは対アトリに調整された個体なのでしょう。実際、巨大ロボットには首がなく、肩と頭部とが直接ドッキングされています。

 首がない敵にはどうしても火力が伸び悩みますからね。


 近づくにつれ、巨大ゴーレムの雰囲気は爆増していきます。


 まだ弱者たるヘレンやユピテル殿下は顔を歪めています。

 呼吸を荒くしたユピテル殿下が、汗を服で拭いました。綺麗な服が汗で色が変わります。


「アトリ先生、これはレイド級でしょう……やはり他の先生を呼んだほうが」

「……こ、こんなの」


 ユピテル殿下が提言し、ヘレンは支給された剣を手放すまいと震えています。そのような中、アトリの……死神幼女の紅瞳がぐるぐると回り始めます。

 私は命じます。


「さっさと片付けましょう、アトリ」

「はい……かみさま」


 紡がれるは。


「開け【死に至る闇】」


 詠唱。

 アトリが使えるアーツやスキルを瞬時に連続させていきます。【死導刃】【吸命刃】【殺生刃】【マジックブースト】【狂化】

 さらに【天使の因子】による常時バフや【光属性超強化】など……無数の効果が足されていきます。小柄な幼女が握る禍々しき大鎌は、その刃のサイズを何倍にも変え、膨大な闇と光を湛えています。


「万死を讃えよ」


 アトリが駆け出します。

 同時、巨大ゴーレムが背中から夥しい量のミサイルを放ってきます。そのすべてを回避していきます。


 スキル【狂化】を発動する前。

 アトリは最新の【神楽】アーツを起動していました。その名は【奉納・災透わざわいとおりの舞】です。


 効果は「行動時、障害になるものを通り抜ける」というものです。

 空気抵抗や攻撃ではない軽い障害物(魔力の通っていない壁など)を透過します。つまり、より「早く」動くことが可能です。


 速くではなく、早いを求めるアーツとなっております。


 それによってアトリの動きはいつも以上に滑らか。空気抵抗などに邪魔されないことにより、ステータスは同じなのに「早さ」がまったく異なります。

 瞬きの間にミサイルの雨を潜り抜け、巨大ゴーレムの足下から大鎌を振り上げました。


 黒と白とのコントラスト。


 放たれるのはいつもの一撃。必殺技。

 ゴーレムが咆哮して岩のような拳を振り下ろすよりも早く。紅眼が瞬きます。


「――【死神の鎌ネロ・ラグナロク】」


 轟音とともに巨体が闇と光に飲み込まれていきます。ですが、さすがに防御特化、対アトリに特化したゴーレムは沈みませんでした。


 全身をズタボロにされながらも、拳を強引に振り下ろそうとしています。


「神は言っている。――お前はさっさと片付ける」


 が、すぐさまアトリは【狂化】を解除。

 すぐさま【コクマーの一翼】を使用しました。放つのは【殺生刃】180パーセントでの――【シャイニング・スラッシュ】です。


 大魔法が今度こそ巨大ゴーレムを沈めました。


【ネロがレベルアップしました】


 唖然とする生徒たちを振り返り、アトリは首を小さく傾げました。なんてことないように口が開きます。


「怪我はある?」

「……いやいや、あるわけないでしょ。あんな一瞬で」ユピテル殿下が引き攣った笑みで返してきました。

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