第179話 現実のゴタゴタ
▽第百七十九話 現実のゴタゴタ
最近の《スゴ》はちょっとだけ面倒なプレイ中です。
成人男性たる私にとって「子どもの学校」は中々に退屈ですからね。とくにお勉強が面倒で面倒で……しかも歴史とかもあるわけです。
ゲームの歴史設定なんて、考察班ではない私にはまったく興味が抱けません。
何か気になることがあれば吉良さんに訊けば良いことですしね。私は他者に借りを作ることが嫌いなので質問とかしたくありませんが……彼は別です。
あの人は情報を喋りたくて仕方がない人ですからね。
ということでずる休みです。
私にとって《スゴ》は業務的なところもございます。これで金銭を得ていますからね。あとはアトリと(で)遊ぼう……くらいのゲームです。
スマートフォンには夥しい「神様」コールが来ていますが。まあ、てきとーな理由を作って今日は放課後までお休みしましょう。
私は早速、アトリにチャットを送ります。
「私はちょっとお昼寝します……と」
理由を送れば、アトリから即レスが来ます。
『神様と一緒に寝たいです』
『神様』
『神様はボクの夢を見てくれますか』
『神様神様』
云々。
私はてきとーに「お休みなさい。夢で会えたら良いですね」とだけ返しておきました。ぴこんぴこん鳴るスマートフォンを置き、私は大きく背伸びをしました。
久しぶりに現実世界でネットを見れば、なにやら大きな出来事が発生したようです。
なにやら「魔教」を名乗る過激派テロリストが暴れたようですね。すぐに捕まったようですが、何人かは銃撃戦の末に死亡したようです。
よもや日本で銃撃戦とは。
凄まじいこともあるものです。
しかも魔教が狙ったのは《スゴ》の有名プレイヤーが開いたオフ会のようです。
かなりのプレイヤーが殺害されたようですね。
世も末です。
少しお隣さんが心配でしたが、彼女はオフ会とか参加できるタイプではないでしょう。オフ会を開く人でもないでしょうしね。
私は《スゴ》では身バレしているのが恐ろしいところ。
私には陽村と彼女が運営している警備会社がついているので普通の人よりは安全……かもしれませんけれど。
「関係ないでしょうけど」
私は久しぶりに外食をすることにしました。
▽
食事はイタリアンにしました。
私の知っている店の中でも、野菜を美味しく食べさせてくれるお店です。勝手についてきた陽村が、やはり勝手にメニューを決めてくれます。
まあ、私は野菜さえ食べられればそれで良いのです。
自炊で野菜って結構な手間なんですよね。昔、ピーマンを食べようとして虫が入っていたとき、しばらく野菜に触れなくなったことがあります。
美味しく野菜をたくさん食べる。
それが本日のコンセプトとなっております。
「ロキくん……久しぶりのデート、だね?」
「いつから『久しぶり』の意味が変化したのでしょう? したことないですよ」
「これは誰がどう見てもデートだけど」
「私以外の審美眼なんて参考になりませんよ」
「それはそうだね」
やがて食事がやって来ます。
この店の良いところはコースではないところです。
コース料理は素晴らしいモノですが、食べたいものを食べたい時には向きません。
並べられたのは、どれも私が食べたかったものばかり。やはり、こういう時の陽村は役に立ちます。
フォークでブロッコリーを突き刺し、もしゃもしゃと緑を食みます。
すっきりした味のソースがよく絡んでいますね。美味です。
「そういえば」と肉を口に運びながら陽村が言います。「魔教って知ってるかな?」
「さっきニュースになっていましたね」
「アレ、けっこう邪魔。私が数匹を片付けたけど……ロキくん、狙われてるよ」
「ゲーム反対派の人なんですか、魔教って」
「さあ」
私も陽村から最低限の護身術は習っています。
結論としては「動きは綺麗だけど、実戦には使えない」という評価のようでした。つまり、私が頑張ったところでどうしようもない問題。
死ぬときは死ねば良いでしょう。
変な団体に狙われるなんて、今更なお話でもありました。
「あと」
陽村が美しい黒髪を揺らしました。ほのかに香水の香りが漂います。
「
伊井塚美理。
それは要するに《スゴ》のプレイヤーたる闇精霊のミリムのことでした。いわゆる本名という奴ですね。
「伊井塚さんが味方だからなんなのです?」
「あれは変な力を覚えたみたい」
「変な力とは?」
「大したことないけど。私なら戦えば殺せるから。アレと私が魔教を減らしていくから、たぶん、ロキくんが魔教と絡む必要はないと思う。から、安心して私とデートしよう」
「しませんが」
「安心して! 私が守るから」
「安心できませんが」
「……はあ」
フォークとナイフをゆっくりと置き、陽村が大きな溜息を吐きます。肩をすくめ、分らず屋な子どもを諭すような口調で語られます。
「私は生粋の和姦派。だからこの年まで我慢できた。でも、私がアラサーになった時、私は理性とプライドを捨てるつもりだよ? 強制和姦しちゃうんだよ」
「……国語下手です? 私は後輩に手を出すつもりはありませんよ」
「出すしかないんだよ? 仕方がないんだよ? 私が何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も告白してるのに断るから。意味が解らないよ。私がいなかったらロキくんは誘拐されて生きていけないよ? 使い潰されるよ? それを防いでいる私に報酬がない理由が解らないんだよ。ロキくんは私の愛で生きているんだよ? なら、全部を受け止めてくれても良いんじゃないかな。お金なんていくらでも手に入れられるし、そんなの求めていないって解るよね? 子作りして結婚くらいしても良くないかな。常識じゃないかな。ロキくんが私と愛し合ったとして、何か失うものってあるかな? ……ロキくん」
「うわ、このパスタおいしー」
「うん、そうだね。美味しいね。一生の思い出になるね……」
幼馴染みとしては、ちょっとだけ可哀想ではあります。
ずっとこうです。
私は正直なところ、性的なことが嫌というわけではありません。陽村はルックスこそ幼いですが美少女ですし、私だって普通に男性ですしね。しかしながら、昔から陽村を拒絶し続けた結果、今更そういうことを彼女にしたいとは思えないんですよね。
あと単純に怖いですし。
陽村がまともな恋愛をできるようになるのは、いつになるのやら。
私は正直諦めていますし、面倒くさそう……としか思いませんが。遠くを見つめる私に、陽村はジト目を向けてきます。
「ロキくんの好感度、もう少し上げておこうかな……アトリのことだけどね。アレ、致命的に駄目だよ」
「貴女がそう言うならそうなのでしょう。どこが駄目なのです?」
「動きが完璧すぎて読める。ステータスさえ勝ってたら何も怖くない。そもそも大鎌自体が取り回しの問題で弱いよ」
「今更、メイン武器は変更できませんよ」
「サブウェポンを取るべきだよ。それだけでバリエーションが増えて読みづらくなる。魔法は近接戦闘で上手く使えるとは限らないからね」
「解りました、検討しましょう。ありがとうございます」
「……ふふ」
陽村は私に匹敵する才能を持っています。
つまり、陽村の言うことは私が喋っていることも同様です。こと武の面に於いて陽村を疑うという選択肢は私にはありませんでした。
正直、彼女に言われなければサブウェポンを取ることはなかったでしょう。
スキル枠がもったいないですからね。
外技でどうにかなるなら、という希望もありました。雑魚戦では活躍する外技ですが、たしかに強敵相手には役に立ちません。
もっと磨く時間があれば。
あるいはジャックジャックが存命ならば……とは思いますけれど。
ともかく、今回の外食は悪くありませんでした。
野菜を摂取できて健康にも良く、シンプルに料理も美味しく、陽村からは良い情報を手に入れることができました。
現実はゴタゴタしているようですが……私には関係ないことですしね。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます