第178話 劣等生劣等生優等生と邪神の使徒
▽第百七十八話 劣等生劣等生優秀生と邪神の使徒
「……」
授業を受けているアトリがうずうずしています。
生粋の肉体派の幼女ですからね。座学よりも実戦を試したいのでしょう。大人しく座っていることができる性格ではありますが、暴れるのもまたアトリの性格です。
私は膝の上に乗せられ、半ば抱きつかれるように鎮座させられています。心臓の音が聞こえてきますね。
基本、私は「役に立ちそうな授業」以外は流しています。
子どもの授業ですからね。
正直、かなり苦痛ではあります。無視して映画を観たり、本を読んだりしていますけれど……自由に動けないのは面倒です。
あまりにも暇なので【クリエイト・ダーク】を使い、アトリの髪を結んで遊んだりします。すると、アトリはこてんと首を傾げました。
「暇ですねえ」
▽
時は放課後。
アトリは通常の授業を受け、生徒に訓練を施す業務がございました。無論、同時進行的にヘレンの護衛も行っています。
一週間後の生徒同士のバトルに向け、秘密特訓をすることにしました。
集まったのはアルビュートの王子の一人ユピテル。
魔境に操られていたらしき桃髪縦ロールことサクラ。
それから魔法が使えない劣等生のヘレン。
この三人でした。
ユピテルは昨日にしっかりと【鑑定】したので、今回は他の二人を詳しく調べてみることにしました。
まずはサクラこと桃髪縦ロールから。
名前【サクラ・リリーマインド】 性別【女】
レベル【38】 種族【ヒト】 ジョブ【魔術師】
魔法【水魔法45】
生産【料理15】
スキル【話術56】【計算45】
【逃走術30】【詐欺術25】
ステータス 攻撃【190】 魔法攻撃【304】
耐久【190】 敏捷【190】
幸運【190】
称号【支配受けし者】
なるほど。
まったく、まったーく戦闘向けのNPCではありませんね。
基本、アトリは激戦地にて生きてきました。ゆえに、このような戦えないステータスを実際に見ることは初めてくらいかもしれません。
まあ、普通に魔法を使うことはできそうなので良いでしょう。
続いてヘレンです。
名前【ヘレン・フォナ・ルトゥール】 性別【女】
レベル【41】 種族【ヒト】 ジョブ【根源術士】
魔法【根源魔法1】
生産【絵画28】
スキル【詠唱短縮1】【詠唱延長1】
【属性活性】【破壊力上昇】
【剣術24】
ステータス 攻撃【328】 魔法攻撃【410】
耐久【328】 敏捷【328】
幸運【205】
称号【根源適応者】
固有スキル【ラタトスク】
……なんとも言えません。
まったく知らない属性の魔法です。
一応、《スゴ》の仕様として「あまりにも弱い魔法適正は【○○属性】として処理される」という設定があります。
それでも弱い属性攻撃魔法は使えるのです。
しかし、ヘレンの魔法はそれでもありません。
そもそも【根源魔法】が解りませんからね。普通でしたらNPCはアーツを自分の意思で取得することが可能です。
ヘレンは覚えられないようですが。
初期のアトリも取得方法を知りませんでしたが、それは周囲から教えられていなかったからです。教えたらすぐにできたことでしょう。
まあ、アトリのアーツは私が選び、私が取得処理をしていますけれど。
剣術については学園所属の精霊が覚えさせたとのこと。
メグミというNPCのようです。彼女は学園の生徒たちに憑き、最適なスキルを取得させる業務に就いているのです。
ヘレンについては剣で戦うしかないようです。
固有スキルである【ラタトスク】については不明の一点張り。これも北欧神話に登場する名詞ですが……関係は解りませんね。意味がないこともあり得ますし。
「劣等生が二人、という感じですかね。王子は優秀のようですが」
「一週間で強くする……です!」
「やってみましょうか」
「他の子どもも強くする、ですっ」
アトリは敵である生徒たちも強くするようです。
まあ授業ですからね。やる気ある生徒に指導をすることは当然ですが、受け持った生徒すべてを強くすることもまた業務。
まあ、数名の生徒はすでにアトリの授業から逃げています。
普通にキツいですからね、アトリの授業は。
貴族の子どもが「地面に何度も転がされる」経験なんてしたわけがありません。
ただし、慣れてきた生徒たちは目に見えて動きが良くなっています。殺す動きや勝つ動きではなく、負けない動きができるようになってきましたよ。
貴族というよりも冒険者の強さですけれど……
「授業の方ももう少し厳しくしていっても良いかもですね」
「解ったです! 厳しくする……」
「ほどほどに、ですけれどね」
敵への指導を頑張った挙げ句、負けたら負けたでしょうがありません。
アトリのメインの仕事はあくまでも「ヘレンの護衛」ですからね。教職をクビになったことが起因となり、ジイジから情報を得られなかったのならプランBです。
つまり殺して【リアニメイト】作戦ですね。
訓練が始まりました。
ユピテルは普通に強いです。統合進化スキルである【清流剣】が優秀です。【水魔法】と【剣術】の組み合わせですね。
水を帯びた剣が美麗に振るわれます。
斬撃に応ずるように水しぶきがあがります。その水にはダメージ判定があり、かつユピテルの意のままに動くようですね。
とはいえ、ユピテルの想像力が不足しているので水は「踏むと粘着質になって邪魔」くらいにしかなりません。
私がアトリを介して「創造」を指導させてもらいます。
サクラは必死に走り込んでいます。
セックが大量に召喚したアンデッド、魔道具による攻撃から逃げています。所有している【逃走術】を鍛えています。
できれば逃走しながら魔法で戦えるようになってほしいところ。
そしてヘレンは……シヲを相手に組み手をしています。
必死に剣で飛びかかり、それをすべてガードされるという悲しみの授業です。まだ近接武器に慣れていないようなので振るう感覚を掴むところからです。
ユピテル以外の未来は暗めです。
五分ほどで数十回は地面に転がされたユピテルは、泥だらけの顔を袖で拭い立ち上がります。水をまき散らすので泥んこなのです。
「……あのアトリ殿」
「なに?」
「シ、シヲ殿に関してなのですけれど。あの、もしも私が勝利した暁には、その……彼女とお食事など」
「?」
「い、いえ」
顔を真っ赤にするユピテル王子。
……なんてこったい。
ユピテルもシヲも同じ【木工】スキル持ちです。そこに共感を覚えたのでしょうかね? 正直、あらゆる意味でオススメできない恋ですけれど。
ユピテルの未来も暗くなってきたかもしれません。
前途は多難です。
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