第175話 魔法の可能性
▽第百七十五話 魔法の可能性
すでに魔法学院に入り、数日が経過しております。
寮の部屋も一人きり、その他の時間も私と二人きり……という思ったよりも不充実の生活となっていますよ。
今日もアトリは授業に出席していました。
魔法の教師は杖を振り、生徒たちに教鞭を振るいます。
「つまりだね、魔法とは思いの外自由に扱えるわけです。たとえば」
教師が宙に浮かべたのは水の針でした。
「これは水のアーツ【アクア・ニードル】です。では、これを一手で十や百を生めばどうなることでしょうか」
天井に無数の【アクア・ニードル】が展開させました。
同じ魔法ではありますが、数が増えることにより、その意味合いは大きく変貌しています。そのまま教師は針を一纏めにし、壁に向けて発射します。
すると壁には巨大な穴が開きました。
「同じ魔法ながらに、まったく違う効果を生むことができますでしょう。これが魔法の自由度です」
他にも魔法が実演されていきます。
たとえば発射速度を変化させてみたり、同時に三つ生み出しながら発射にラグを生み出したり、敵の真後ろから針を出現させてみたり……という感じでした。
いくつかは私が自然にやっていたことでした。じつは高等技術だったようですね……私のイメージ力はハッキリ言って突出しているので難しいことをしている自覚がありませんでした。
一気に生み出すのも、アトリは私を見て覚えたようですしね。
おお、と生徒やアトリが感嘆の声をあげます。
すぐにでも試そうとする生徒もいる中、教師は首を左右に振りました。
「純近接にはオススメしない手法です。というのも、テクニックを交えた際、どうしても数瞬のタイムラグが生じてしまいますからね。その隙は致命的です。が、いざという時、このテクニックを喰らわぬためにも覚えておきましょう」
中々に面白い授業でした。
教師の指示によって、生徒たちは魔法アーツを操作しようと試みます。アトリは【シャイニング・スラッシュ】の発射にラグを持たせようとしています。
フェイントに使えますね。
まあ、アトリはあまりフェイントを使って戦うタイプではありませんけどね。
純魔法使いには必須のテクでしょう。
このゲームの純粋魔法使いはやや劣勢です。私の知り合いではヒルダがそうでした。あとは知り合いというのは烏滸がましいですけれども「大天使みゅうみゅさんのところのノワール」もそうでしたね。
他の精霊も純魔法使いは多いようですが。
ともかく、魔法のテクニックを理解しました。
「思ったよりも優秀ですね、生徒のみなさんは」
生徒たちの中には、魔法の同時発動に成功した人も見られます。発動準備に時間がかかり、なおかつ発動後の隙は中々のもの。
近接戦闘中に発動できるテクニックではなさそうですね。
アトリも【シャイニング・スラッシュ】をラグ発動させる方法を会得しました。
みなが好調な中、唯一難しそうな顔をしている少女もいます。ヘレンでした。彼女は腕を前に突き出し、むむむ……と唸り声だけを上げています。
魔法のコントロールはおろか、魔法が発動する様子さえもありません。
「この世界で唯一、魔法が使えない存在……ですか。どういう原理なのでしょうね」
「……気になるです、か? 神様」
「不自然ですからね。そして、そのような存在が魔教から狙われている理由も不明です」
「む」
アトリがジッとヘレンを見つめます。
すると、ヘレンはバツが悪そうに舌打ちを零し、教室から出て行ってしまいました。
すると生徒の一人がアトリに近づいてきます。
桃髪縦ロールの女の子でした。ニッコリと微笑んで桃縦ロールは言います。
「ヘレン様は気難しい方なのです。しばらく一人にして差し上げてくださいまし、アトリさま」
「神様……この女、ボクを騙そうとしている」
「おや……ヘレンを追いましょう」
アトリは【勇者】で害意を見抜くのです。
そのアトリが桃縦ロールの発言に「悪」を感じた以上、彼女の言うとおりにすることは危険なのでしょう。
「シヲ、その変な髪を拘束。ボクは行く」
『――』
急に出現し、触手で桃縦ロールに絡みつくシヲ。
桃縦ロールは必死に暴れますけれど、さすがにシヲを突破できる能力はないようです。クラスメイトの男子たちが、生まれて初めて目にする触手プレイに性癖を破壊される中、アトリが教室外に飛び出しました。
なお、教師は事情を理解してくれています。
シヲが拘束する桃縦ロールに向け、魔法教師は油断なく杖を向けていました。
ヘレンを追いかけます。ですが、さっき出たばかりだというのに、ヘレンの姿も形も見えないようでした。
ただし、そのようなことはすでに対策済み。
ヘレンには予め魔女から得た道具をつけています。いつでも彼女の位置を把握することが可能でした。
道具によれば、ヘレンは学校の外に飛ばされているようです。
「【ヴァナルガンド】!」
融解する校舎からアトリが飛び出しました。
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