第173話 アトリの授業
▽第百七十三話 アトリの授業
生徒たちをぞろぞろと引き連れ、アトリはグラウンドの一つに辿り着きました。今回は合同授業らしく、一気に数クラス分の子どもたちがやって来ました。
誰もが貴族としての教育を受けており、なおかつアトリの危険性をご存じです。
基本的に舐めた態度を取る人は少ないのですが……何事も例外はあり、外れもございます。貴族は教育されている。
では、平民は?
この戦闘学院では「優秀な平民」も呼ばれるのです。
しかも、優秀な平民は「陣営に加えるべく、貴族たちからチヤホヤ」されています。実力でのし上がっている、という実感もありましょう。
ということで……平民上がりは増長していました。
おかっぱ頭の眼鏡をかけた少年が、頭のうしろで腕を組んで唾を吐きます。
「ガキじゃねえか。本当にゴース先生と同格なのかあ?」
「?」
「てめえに言ってんだよ、アトリセンセ」
思い浮かべるのはギースです。
ギースも身なりだけは清潔で品がありますが、その本性や仕草、雰囲気は何処までもスラムのチンピラでした。
こういう輩は叩きのめすのみです。
アトリが首を傾げた瞬間、おかっぱの子どもが手に炎をまといます。
「【業火魔法】……【イグニス・ランス】」
放たれたのは【火魔法】の上級属性――【業火魔法】でした。火力が高く、範囲も広い凄まじい魔法攻撃です。
弾丸のような速度で放たれた凶弾に、生徒たちが悲鳴を上げますが。
一瞬でした。
まず【イグニス・ランス】が大鎌で切り払われ、距離を詰めたアトリが容赦なく少年の顔面を石突きで破壊しました。
鼻が顔の奧に引っ込んじゃいました。
「ぎゃああああああああああああああああああああああああ!」
「うるさい」
靴でおかっぱくんの顔を踏み、強制的に黙らせました。
ちなみにスカートの中身が丸見えになりそうなので、【クリエイト・ダーク】で黒を入れさせてもらいました
なんとブルーレイ版では見られるそうですよ。
アトリはすこぶる可愛いので、これ目当てに再犯されても困りますからね。
絶叫しようとするおかっぱくんに、私は【プレゼント・サイレント】を付与します。子どもが大口を上げて無音を発します。
容赦ない折檻を見せられ、周囲の子どもたちがぺたん、と尻餅を着いていきます。中には粗相をしてしまった子もいるようでした。
しょうがないので私が【クリエイト・ダーク】で誤魔化しておきます。
アトリが言います。
「こいつには強さが足りなかった。殺意も足りない。ボクを殺す気なら一発撃って満足していてはいけない。死ぬまで殺すことをやめない」
「――!」
「鼻がなくても魔法は使える。神様が沈黙させる前に、お前はまだ戦うことができた。何故、戦うのを辞めたの? 死ぬだけなのに……」
おかっぱくんが漏らします。
当然、アトリが放尿攻撃を食らうわけがありませんでした。咄嗟に身を後ろに飛ばし、こくりと頷きます。
「敵が嫌がることをするのは悪くない。攻撃を続けるのだ……」
この時。
生徒全員が思い至ったことでしょう。
――アトリはヤバい。
「今から」
アトリが大鎌を振り上げます。太陽光に反射する、近未来的なデザインの神器……それが禍々しく照り輝きます。
グルグルした目がグラウンドを睥睨しました。
生徒たちが気温の低くなった世界に、身体をガタガタと震えさせ始めます。
「全員を叩きのめす。起き上がらねば死ぬだけ。ボクにダメージを与えられたら終わる」
生徒たちが悲鳴を上げて逃げ出します。
しかし、まあ、アトリから逃げられるならば学校になんて通う必要もなく。アトリが動き出そうとした時、私は軽く窘めました。
「アトリ、彼らは冒険者ではありません。あまり派手にやり過ぎると不登校になりますよ」
「不登校、です、か……?」
「授業に来なくなるわけです。心が折れかねません」
冒険者であれば、それもまた良しなのです。
アトリの修業で心折れるような人は、いずれ惨たらしく魔物や賊に殺されるだけ。ならば、早めのうちに引退するのは悪いことではありません。
まあ、諸説ありますけど。
少なくとも私はそういう立場ですからね。
ですが、学園はまた違います。ここで折れてしまうのはデメリットしかありません。
困ったようにアトリが首をこてん、と傾げました。
「? どうすればですか……かみさま」
「タッチにしましょう」
鬼ごっこが始まりました。
一時間後、タッチされすぎて動けなくなった生徒の山を前に、アトリは困惑したように棒立ちしておりました。
「難しい、です」
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