第171話 学校の準備

   ▽第百七十一話 学校の準備

 私たちは第三フィールドの魔女の家にて、アルビュート王立戦闘学園へ入学するための準備をしておりました。


 魔女は相変わらず全裸にて、面倒そうにセックが淹れたお茶を飲んでいます。湯気を立てるカップの向こう、困っているやら嬉しそうやら判然としない、整った少女の顔があります。


「なんであちしの家で準備してんだ……べつに良いけどな」

「おまえは便利」

「あんたなあ! ダチに便利はねえだろ」

「ダチ?」

「友達!」

「ダチ……」


 困惑するようにアトリが首を傾げました。

 アトリの人生には「敵」「味方」「師匠」「部下」くらいしかありませんでしたからね。ダチ……友人という関係は難しいでしょう。


 私も友達は少ないですからね。

 とくに教えられることではありません。

 ……おや。もしかして私のご友人ってゼロ?


 相変わらず、アトリが破壊した扉を修理するシヲを見ます。シヲとは気が合いますけれども、あくまでもゲームのキャラで友人ではありません。

 あと、シヲからはちょっと馬鹿にされていますしね。

 やはり私に友人はいないようでした。


「さて……準備はそろそろよろしいでしょう」

「はい、神様! どんな場面も作れる……です!」

「それは過言ですね」

「過言。です!」


 今回、魔女の家に寄った理由は単純でした。

 アトリは向こうで「実戦の教育者」として教鞭を振るいまくります。その際、魔女の道具があれば「色々な戦い」を生徒たちに経験させることが可能でしょう。


 アトリはやる気です。

 固有スキル【勇者】の効果にて、彼女の張り切り具合が私にも共有されるくらいです。


「最強の生徒を作る……です」


 グッと握られる拳。


 かつてアトリには生徒がいました。

 今は亡き新米戦士……ゼラクです。強いNPCではありませんでしたが、その意志はヨヨ討伐に欠かせないピースでしたね。


 今度こそ、アトリは自分の専属の部下や生徒を殺させないくらい、強く育て上げるつもりなのでしょう。

 まあ、このゲームの仕様上、中々に難しそうですけどね。


 幼女のやる気を削ぐ私ではありません。

 やるだけやって、手伝うだけ手伝いましょう。最悪、どんなにステータスが終わっていても、良い装備をあげれば中の中くらいにはできるでしょうしね。


「では、ルーシーを連れて第一フィールドに向かいましょうか」

「! 連れてくる。ですっ」


 パタパタとアトリが駆けていきました。

 ルーシー……それはゼラクの妹分の名でした。ゼラクが死亡したことにより、彼女は色々と困っていますからね。


 経済的な援助はアトリがお小遣いの範囲で、コッソリ行っていたようです。


 しかし、このような世界です。

 やはり最低限の強さはあってもよろしいでしょう。


 せっかくなので戦闘学園へ入学させてあげよう、という魂胆です。


 ルーシーにフィールドを渡らせる関係上、ゲヘナとヘルムートとは戦闘せねばなりません。ですが、今のアトリならば弱体化されたフィールド・ボスに負けるとは思えません。

 護衛に神器を持たせたシヲも付けます。

 最悪、ギースを呼びつけても良いですしね。


 アトリはシヲが直したドアを破壊して、外に駆け出していきました。魔女がぶち切れます。


「戻ってこい、おら! アトリ! てめえドアの開け方を一から十まで教えてやんよ! おーい! ちっ、おいシヲ! あちしら共同で難攻不落のドアを作んぞ!」

『――!』


 シヲが世界樹の素材を取り出し、かなり闘志を燃やした目を作ります。アトリでも突破できないドアを目指しているのでしょう。

 破壊された扉から、心地の良い風が通り抜けてきます。


 シヲと魔女がハイタッチしました。

 職人たちと破壊者の戦いが……開幕します。


 ということで……我々は準備を終えて第一フィールドへ向かいました。

 余談ですがドアは破壊されました。

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