第19章 戦闘学院編1
第170話 イベント報酬
▽第百七十話 イベント報酬
我々は第三フィールドのマリエラに帰還していました。
すでにここは故郷的な安らぎがありますね。
【理想のアトリエ】は一日に一度の限度があるため、気軽に出入りできないデメリットがあります。居住性と利便性は向こうが上なのですが。
「しんどいイベントでしたね」
「もっと強くなる……です。今度は一人で勝ちたい……ですっ!」
「ゆっくりいきましょう。いずれ勝てますよ」
「! 神様! ボクは強くなる……です。神様を守れるようになる! です! ボクが!」
終わってみればギリギリのイベントでした。
フィーエル一体で全滅する寸前でしたから。
あの場にあのメンバーが揃っていなければ……アトリはロストしていたことでしょう。
とはいえ。
唯一、アトリが参加して「死ななかった」イベントでもあります。
第一回も第二回も死んでいますからね。
ちなみにバーベキューイベントは大盛況だったとのこと。あちらは「消費なし、ロスト無効」だったので魔王がお腹が減って殺したキャラも、今頃は復帰できていることでしょう。
「さてアトリ……今回のイベント報酬なのですが」
「?」
愛らしく小首を傾げるアトリ。
あまりアトリは報酬に固執する質ではありません。何かもらえるよりも、私が褒めた時のほうが嬉しそうにしていますしね、何故か。
そもそも、今回のイベント報酬はアトリ自身にとっては微妙なものかもしれませんね。
今回は報酬をカタログから二つ選べるようです。
めぼしいのは「レベル上昇チケット」「スキル上昇チケット」「固有スキル取得チケット」などなど……そういう感じです。
中々のラインナップですけれど……
私が取得しようと考えているのは「固有スキル取得チケット」です。
これは「固有スキルを複数持っていない存在に固有スキルを取得させる」というチケットでした。2つ取得しているアトリには使えません。
つまり、固有スキルが0か1の存在にしか使えないチケットです。
また、私にしても固有スキルを取得する可能性はあるわけです。
であらば、どうして「固有スキル取得チケット」がほしいのか。理由は単純明快……シヲとロゥロに使うわけですね。
テイムモンスターに固有スキルを取得させたい場合、特殊なアイテムやスキルが必須となります。が、今のアトリにはそれを得る手段も余裕もありません。
ということで……今回のイベントで得たチャンスをモノにしたいわけです。
「アトリ。シヲとロゥロに使っても良いですか?」
「……はい、です神様。ロゥロに二つ使っても良いかもです……と思うます!」
「シヲにも使いましょうね」
「っ! はい……です。かみさま……」
「良い子ですね、アトリ」
闇で作った手で頭を軽く撫でました。
アトリは頬を朱色に染め、無表情ながら興奮の気配を湛えます。固有スキル【勇者】の効果もあり、その歓喜がダイレクトに伝わってきます。
歓喜の色が濃すぎて、ちょっと抱えられる限度を超えているかもしれません。
覚悟がなければ、感情がオーバーフローして嘔吐していた確率も残滓します。
「では、まずはシヲから行きましょう」
アトリはシヲを嫌っていますからね。
彼女的にはロゥロに二枚使ってほしいところでしょう。ですが、やはり純粋なタンクは便利なのでシヲに固有スキルを覚えてもらいます。
呼び出したシヲとロゥロに「固有スキル取得チケット」使います。
名前【シヲ】 性別【無】
レベル【71】 種族【パンドラ・ミミック】
魔法【土魔法42】
生産【木工90】
スキル【擬態68】【奇襲58】【拘束57】【行動阻害耐性】
【音波64】【鉄壁59】【触手強化74】
【盾術43】【技巧補正】
【重装23】
ステータス 攻撃【71】 魔法攻撃【71】
耐久【710】 敏捷【710】
幸運【71】
固有スキル【相の毒】
このような感じになりました。
固有スキル【相の毒】はMPを消費することにより、「相打ち状態」を自身に付与する固有スキルとなっております。
要するに、受けたダメージと同じダメージを相手にも与える状態ですね。
ただし、シヲのMP総量はかなり少ないため、連発することは不可能です。敵の大技をあえて受け、そのダメージを相手にも返す……という使い方になるでしょう。
まあ、大技で倒されてはカウンターはできないのですが。
次はロゥロです。
ロゥロも新たに固有スキルを得ました。ですが、その能力を得た瞬間の変化があまりにも劇的でして……ちょっと困っています。
まずはステータスを見ていきましょう。
名前【ロゥロ】 性別【不明】
レベル【53】 種族【がしゃどくろ】 ジョブ【デスペラート】
魔法【無属性魔法0】
生産【石像1】
スキル【暴力補正】【攻撃上昇48】【握撃】
【アンデッド補正】【浄化耐性】
【破壊術38】【致命回避】
【格闘術10】
ステータス 攻撃【795】 魔法攻撃【0】
耐久【0】 敏捷【265】
幸運【265】
称号【亡者の群衆体】
固有スキル【
固有スキルの名は【
現れたのは……十八才くらいの綺麗な少女でした。
頭には王冠を被り、手にはグロテスクなぬいぐるみを抱き締めております。纏う服はゴシックロリータ。
髪の半分が青、もう半分が白の少女。
少女……おそらくロゥロは自力で歩くことができないらしく、ぺたんと地面に座り込んでいます。
きょとん、と上目遣いに私たちを見上げております。その瞳は塗り潰されたかのような漆黒。ちょっと怖いですね。
『が……らららららら』
なんというか。
ビックリですね。
この《スゴ》は行動や諸々によってAIが最適な判断を下してくれるという噂が蔓延しております。固有スキルなどはその最たるものでして、プレイヤーの性格や行動に影響されて取得されるようなのです。
私周りが北欧神話のロキ関連なのは、おそらくそういう理由でしょう。
あるいはザ・ワールドの悪戯と遊び心でしょう。
ロゥロが取得した【
「まあ、検証は学園で行いましょう。準備が済んでいませんからね。それよりもロゥロは制御できているのですか?」
「できない……です、神様」
ぶんぶん、とアトリはロゥロを見て首を左右に振ります。
大人しい感じですけれど、相変わらず、敵を見つけるや襲いかかるのでしょう。見た目は大人しそうなのですけどね。
「そういえばアトリにも北欧神話周りの説明をしておきましょうか。今後、また関係してこない、とも言えませんからね。知っておいて損はないでしょう」
「神様の神話です……か!」
目をぐるぐるさせ始めたアトリに「違いますよ」と言えば、途端にしゅんとします。私の神話は今のところ「幼女を騙した」くらいしかありません。
「まず、北欧神話とは――」
私が軽く北欧神話のロキを説明しますと、アトリはシヲを見ました。ぼそりと勝ち誇ったような呟き。
「シヲは関係ない……です」
「あー、まあどうでしょうかね」
ロキには三人の子がいる、という設定があります。
長兄・フェンリル。またの名をヴァナルガンド。
次兄・ヨルムンガンド。
そして長女のヘル。
一見、シヲにはなんの関係もないようですけれど……ヨルムンガンドの有名な逸話は「相打ちの毒」なんですよね。
北欧神話最強たる雷神トールに毒を喰らわせて相打ちにまで持っていった、という大蛇です。
そしてシヲの固有スキルが【相の毒】……
まあ、アトリには言わないでおきましょう。
軽い概要説明だけでシヲは理解したようで、面倒そうに肩を竦め、私に目配せをしてきました。苦労をかけますね、シヲ。
せっかくですし、シヲには大蛇形態も用意しましょう。
今までの行動的に「スレイプニル」のほうが合っている気もしますけどね。まあ、スレイプニルは敵ですけど。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます