第159話 襲撃の天使?

   ▽第百五十九話 襲撃の天使?

 あ、と【顕現】した(笑)さんが零しました。にへら、と微笑んで空を見上げます。


「あと三分くらいかな? 天使たちが来るよん」

「大変みゅん! 配信の準備をしなくちゃ……全員、配置に! 打ち合わせが不十分な分は、書記係さん掲示板に書き込んで。各部隊のサブリーダーに通達。散開みゅん!」


 即座に大天使みゅうみゅさんが的確な指示を出し、私たちは持ち場に向けて駆け出しました。

 城壁の上に誂えられた、迎撃のための足場。

 すでに百名ほどの遠距離攻撃班が、ずらりと照準を空に合わせていました。


 しかし、全員の表情にあるのは困惑です。

 まだ空には何もいませんからね。ただし、私により【ケテルの一翼】を知らされているプレイヤーたちは全員が真剣な面持ちです。


 緊張する人々のうしろを通り、ピエロの化粧をした少女がぱたぱたと近づいてきます。


「楽しみ、アトリ? 戦争だね、アトリ? あとでうしろから撃って良い、アトリ? だめ、アトリ? いやかな、アトリ? 死なないよね、アトリ? 回復するんだよね、アトリ?」

「うるさい。お前はギースのところ」

「怖いな、アトリ? 嫌だな、アトリ? 戦わないの、アトリ? 魔法使うの、アトリ? 弓は嫌い、アトリ? 私は弓好きだよ、アトリ?」

「ギースのところへ行け」

「代わってもらったの、アトリ? だめかな、アトリ? こっちが良いな、アトリ? 私のこと嫌い、アトリ? 私は好きだよ、アトリ? 負けるの、アトリ? こっちの景色が良いの、アトリ?」


 少女の名は【命中】の二つ名を持つNPC……ルーでした。

 アトリがよく解らない言葉責めを受けている最中、突如として砦に悲鳴が木霊しました。NPCたちが睨むのは頭上。


 森の向こうから押し寄せてくる、大量の――ドラゴンでした。


「あれが【ケテルの一翼】なの、アトリ? 怖いね、アトリ? 楽しみだね、アトリ? 全部殺すよね、アトリ? 私がたくさん殺して良い、アトリ?」

「好きにしろ」

「優しいね、アトリ? 勝とうね、アトリ? 勝負する、アトリ?」


 無視してアトリが杖を構えました。

 今回、シヲには神器を持たせていません。代わりにアトリが使用する杖を神器化しています。ベースは相変わらず【万物、厭忌の朽枝】ですよ。


 正直、もっと良い杖は作れます。


 しかしながら、中々に理想のアイテムが作れていない現状です。持ち慣れているモノを使ってしまう段階ですね。ただし、まあ神器化すればすべてが一線級でしょう。


邪神器【朽ちぬ世界の新芽】

 レベル【82】 生産枠【3】

 攻撃【410】 魔法攻撃【410】

 耐久【410】 敏捷【410】

 幸運【410】

 スキル【レベル成長】【生成の種子爆弾】【樹龍作成】【魔法攻撃力超上昇】


 アトリが杖の先端から種を発射します。

 その種が地面に埋まった瞬間、巨大な邪世界樹が出現しました。続けざまに二発を撃ち込めば、新たに邪世界樹が二体増加しました。


 邪世界樹が暴れ始めます。

 これがこの杖のスキルとなっております。要するにレイドボス級を三体まで使役する、というスキルですね。


 しかも周囲が森なので、より邪世界樹が活躍できているようです。


 敵対するは数百ものドラゴンでした。

 以前、悪魔・ルルティアと交戦した時に使われた【バチカルの一翼】……あれが影の巨人なのに対し、【天使の因子】ではドラゴンを呼ぶことが可能なのです。


「撃て!」


 アトリの号令に従い、NPCやプレイヤーたちが遠距離攻撃を放ちます。夥しい破壊の雨嵐。幾体ものドラゴンが落下していき、邪世界樹に捕らわれて確キルを入れられていきます。

 また、アトリの隣でわちゃわちゃしていたルーも動き出しました。


「たくさんだね、ドラゴン? 全部殺すね、ドラゴン? 痛いよね、ドラゴン? 苦しいね、ドラゴン。ごめんね、ドラゴン」


 ルーは背負っていた矢筒を宙に放りました。

 それは空中でひっくり返った形で停止します。収納量的にあり得ない量の矢が降り注いできました。雨の如く。

 道化化粧の少女が、口を割るように微笑みます。


「手始めだよ、ドラゴン?」


 ルーは二本の弓を双剣のように振るい、落ちてくる矢をすべて弾きます。途端、矢は射出されたような威力を持ち、すべてが自動追尾ミサイルのようにドラゴンたちを襲います。

 すべての攻撃が目玉や鼻穴、鱗の隙間……弱点だと思われる箇所に炸裂しました。


 これこそが絶対【命中】のルー。


「次だよ、ドラゴン?」


 ルーがすべて指の間にそれぞれ弓を構えました。その数は左右で合わせて八挺。舞い踊るようにして、道化メイクの少女が矢を弓でぶっ放していきます。

 瞬間で数十、数百もの矢が放たれる。

 距離次第ではアトリも殺せるであろう弾幕ですね。


 ドラゴンが目に見えて減っていきます。


「アトリも行きましょう」

「はいです、神様!」

「では――」


 私は次々と【クリエイト・ダーク】で狙うべき敵を指し示します。基本的に雑魚は他プレイヤーやルーの弾幕で足止めできています。

 ゆえにアトリが相手すべきは、それらで止まらない強いドラゴンです。


「【スナイプ・ライトニング】……です」


 ヘッドショット判定のある閃光魔法です。

 今のアトリは【聖女の息吹】【詠唱延長】【光属性超強化】【魔法攻撃力超上昇】……神器装備によって高まったステータス、あらゆる要素が絡み合い、あるていどのドラゴンなら一撃死させる火力がありました。


 私の【鑑定】が通じない敵をアトリには狙わせます。

 次々に落ちていくドラゴンたち。ですが、我々の蹂躙はここまででした。斥候を担当しているNPCが叫びます。


「ドラゴンブレスの射程に入った! 防御班!」


 十数体のドラゴンが同時にブレスを放ってきます。

 アトリは実のところ、あまりブレス攻撃が得意ではありません。【再生】なんて関係なく一撃死させられますからね。

 避けるしかありません。

 防ぐ方法もありませんしね。


 魔血龍テスタメント戦の時は、メメが上手く働いてくれていました。


 とはいえ。

 今回もメメはいるんですけどね。後方で高らかな叫びが聞こえてきます。


「行くで――【世界女神の忍耐ザ・ワールド・オブ・ペイシェンス】」


 完全無敵化が発動することにより、ドラゴンブレスが無効化されました。しかし、少しだけ遅れて第二撃が放たれようとしています。

 続くのは、狐帝きつねみかどの神器使いリタリタでした。


「やはり良いな、その神器! 少し借りるぞ――【世界女神の譲渡ザ・ワールド・オブ・ヒュミリティー】! 寿命! 発動であるぞ!」


 メメの無敵化が切れた瞬間、今度はリタリタが無敵化をばらまきました。それによってドラゴンブレスの大半を無効化します。

 一斉砲撃を凌ぎました。

 しかし、まだ散発的にブレスが放たれています。


 それに関しては、盾職たちが必死に防いでいるようですね。


「すぐにヒールする! 盾職は一発受けたら下がって予備役と後退!」

「こっち一人瀕死!」

「最悪の場合、精霊が交代で【顕現】して防げ! 順番はみゅうみゅさんが決めた通りに!」


 ブレスの連撃はしのげたようですね。

 全員対全員。

 大天使みゅうみゅさんのお陰ですけれども、連携がかなり取れています。ちょっと運動会の大縄飛びのような感じがあります。


 あまり運動会は楽しくありませんでしたけれど(ミスった人が責められる時間って見ているだけでしんどいですよね)、ゲームでの大縄飛びは嫌いではありませんよ。


「天使が直接、乗り込んで来るぞ! 近接部隊!」

「待ってたぜええええ!」


 何人かの近接特化のNPCが城壁から飛び降りました。守っていれば良いと思われがちですけれども、天使には【コクマーの一翼】がありますからね。

 魔法を一日に一度だけ、大幅強化するアーツです。

 アレを使われれば、誰もがお手軽に大規模殺戮が可能です。城壁に近づけるだけで終了させられかねません。


 こっちから近づいて数を減らさねばならないのです。


「アトリは引き続きドラゴンを撃ち続けましょう」

「はい……です、神様。狙う練習……する、ですっ」

「セックはアンデッドで天使たちを牽制。シヲはタンクの補佐を。あと適宜ロゥロを呼んでくださいね」


 邪世界樹たちも盛り上がっております。

 数体のドラゴンを倒しているようですね。まあ、一体ほど天使に仕留められましたが……まだ二体もレイドボスは残っているのです。


 さあ、楽しい防衛戦を続けましょう。

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