第158話 イベントチーム
▽第百五十八話 イベントチーム
持ち込んだ大量の地雷ポーションを埋めていきます。その箇所は随伴した下級ゴーレムがメモを取ってくれています。
これを砦の掲示板に貼り付ければ、参加者が死んでいくことを防止できるでしょう。
二時間ほどの作業を終えて帰還すれば、暇そうにしていたギースがやって来ました。と同時、彼の隣を漂っていた精霊が【顕現】しました。
「やあ、ロッキー。(笑)だよー」
「読みは『かっこわらい』なんですね」
「そうなんだ。でだね、今回はギースくんと一時的に契約してみたよん。彼が居たほうが勝率が爆上がりだからね」
吉良さんが言うには、本当はペニーも連れてきたかったとのこと。ですが、彼女は頑なに精霊と契約しなかった様子。
まあ、精霊って自由すぎますからね。
情報官としての仕事もこなすペニー的には、情報を盗まれて離脱される可能性もあるわけで。
「ま、ニーネラバが来てくれただけで良かったかなー。何よりもあの人が来るわけだし」
「他の強者はどうなっていますか?」
「クルシュー・ズ・ラ・シーが来てるよ。最上の領域じゃない《動乱の世代》だったら【命中】【楽園】【剣聖の弟子】が来ている感じかなー? あと【崩宝】」
「《動乱の世代》ですか?」
「アトリがその筆頭だよー。いずれ最上の領域に至る……と予測されている人たちさ。ま、もうアトリは至ったともっぱらの噂だけど」
「ほう」
中々の大物が揃っているようですね。
知っている人は居ませんでしたが。
ギースは怠そうに欠伸をしてから、ポケットに入れていた髪飾りを取り出します。
かわいらしい蝶々の装飾品ですね。
「これ、姐御が言ってた『麻痺無効』の髪飾りっすわ。デメリットとして毒の被ダメージと持続時間が倍になるそうですぜ……あと痛みも。まあ、姐御なら構わねえでしょうが」
「うん。神の使徒に痛みは無意味。超越している」
「……普通は毒の痛みの所為で麻痺食らうよりも、動けない時間増えるだけの雑魚装備ですぜ。俺様みてえな無効化でもなきゃ使えねえ装備だが」
ちょっと心配してくれるギース。
一応、装備したアトリに【プレゼント・ポイズン】をぶちかましてみます。ダメージは増えていますけれど、【再生】と【リジェネ】などで十分な黒字です。
ギリギリの戦闘をするなら、ちょっとだけ面倒……くらいでしょうか?
現時点でも回復能力はオーバースペックなので問題ありませんが。
痛みで動けない、というのもないようです。アトリはいつも通りでした。【解毒ポーション】を飲ませておきます。
「ギース、これ」
アトリがギースに大量のポーション袋を渡しました。受け取ったギースは首を傾げます。
「なんすか、これ? 俺様にポーションなんて不要ですぜ?」
「全員が必要な時に使えるように、配給場に置いてこい。どの薬か解りやすくラベリンクも。あとネロ様からの施しだとも書いておくのだ」
「……こ、この俺様が雑用だと?」
「文句?」
「…………いや、ねえっすけど」
「行け」
「うす」
眼鏡の位置を直したギースが、渋々ながら雑用に向かいました。すれ違う人々がギョッとしています。
有名なNPCですからね。
燕尾服の青年とすれ違うように、大天使みゅうみゅとその契約NPCノワールがやって来ました。ノワールがぺこり、と頭を下げます。
みゅうみゅはニッコリと天使のように微笑みます。
「アトリたん、ネロさんご協力感謝みゅん! お薬代は全員でお金を出し合って、先払いしておくみゅんな。貴重な素材とかも使ってるかもなので、アレだったらみゅうみゅとノワたそが狩りを手伝うみゅんな」
「ボクにコラボの意欲はない」
アトリには事前に伝えていました。
コラボ、という言葉も理解しているようですね。
まあ、大天使みゅうみゅさんは男性人気の高い女性配信者です。
リアルが男で確定している私とは、安易にコラボなんてするつもりはないでしょう。いくら対外的に出演するのがアトリのみでも、です。
わりとアイドル売りなのが大天使みゅうみゅさんとのこと。
チャンネル登録、高評価、SNS登録などなどよろしくお願いいたします。
もじもじ、と大天使みゅうみゅさんは太ももを擦り合わせ、朱色の頬で呟きました。
「べ、べつに裏でも……いや、なんでもないみゅん。ともかく、まだ準備期間で配信はしてないみゅんけど、今回も配信に映しちゃって大丈夫ですか? アレでしたらアレですけど……」
「それは構わない、と神は言っている」
「そ、そうですか。えっと……当日の配置ですけど」
詳しく配置について話し合います。
今回のイベントは順位報酬などはないようです。クリアできるか、否か、というイベントですね。つまり、アトリが一人で無双するメリットはございません。
理想は安全にうしろで魔法を撃ち続ける、ことでしょう。
安全ですからね。
アトリの配置は東門となりました。
そこの城壁上にて魔法での狙撃を担当します。アトリは魔法使いとしても一級品ですからね。がんがん敵の数を減らす役割です。
「敵の強者が現れた場合、そっちはアトリたそと【楽園】さんにお任せするのだ。あっ、危険があったら遠慮なく応援要請よろみゅん」
「うん」
「じゃ、高評価、チャンネル登録、SNS登録、通知のオン! よろしくみゅん……じゃなく、よろしくみゅん! がんばろー!!」
北門はギースと【命中】のルー、【崩宝】のカルメロが。
西門はクルシュー・ズ・ラ・シーと【剣聖の弟子】メリーが守護するとのこと。
南側は湖なので特に守る必要はない、と仰っていますけど。
……天使って飛べるんですよね、たぶん。とはいえ、全員が飛べるわけではなく、予想では十枚羽の天使だけが飛行能力を有するようですけど。
それに【ケセドの一翼】もあります。
まだ天使についてはウィキでも情報が不足しています。秘匿していてもアトリが危険なだけなので、一応は掲示板に【天使の因子】について開示しております。
まあ、今のアトリはタネが割れたていどで負けません。
そもそも【ケセド】や【イェソド】なんかは知ったところで対処不能です。
その日の夜。
あるていどの打ち合わせを中心人物候補で行いました。大天使みゅうみゅが言うには、この即席軍隊のうち六割がみゅうみゅに従うとのことです。
化け物ですね。
残りの四割にしても、従っておけば勝てる見込みが高いのです。下手に逆らったりはしないでしょうし、独断で動く連中は放っておけばロストすることでしょう。
当日は臨機応変に動くべきでしょう。
ですが、あるていどの動き方、規則を決めることには成功しました。すると、話が終わったことを察知して、今回のサブリーダーが席から立ち上がりました。
「効率的な狩りを目指しましょ。あたくしたち誰も欠けることなく、ね?」
とウインクを寄越してくるのは、【呪獣】のクルシュー・ズ・ラ・シーです。御年80越えのお爺ちゃんとのことですが、ルックスは20代中頃の美人風の青年でした。
妙に色っぽい、大人のおねえさ……お兄さんです。
一見すれば妖艶な美女にも見えます。スレンダー系の。腹部と背中、太ももを大胆に露出したドレスが目に毒ですね。
男性ですけど。
正直、その美貌は女装させられた私に、ちょっと迫るモノがありました。
「もうスキンケアの時間なの。良い男は睡眠もしっかり取りたいしね? 知ってるかしら、徹夜って美容の大敵なの。ここには女の子もいっぱいいるけど、美容には気をつけてる? 戦ってるばかりじゃ駄目よ? 強いだけでは幸せは勝ち取れないもの。あたくし、じつは色々と良い商品を持っているので、あとで分けましょね?」
「うち、興味あるけどお金はあんまないで」とメメが手を挙げて発言します。それに甘くウインクをしてみて、クルシュー・ズ・ラ・シーが微笑みました。
「良いのよ、お・ご・り・よ。だってあたくしたち戦友になるじゃない? 若い子の笑顔だけでお爺ちゃん、もっと美しくなって若返っちゃうもの。むしろ、あたくしがもらいすぎかしらー?」
「ほんまにええん? うち、遠慮とか知らんけど」
「若い子が老人に遠慮なんてしちゃだあめ」
きゃぴきゃぴ、と女子とクルシュー・ズ・ラ・シーのグループが盛り上がりを見せます。アトリは無反応ですけど。
「中々に悪くない布陣ですね」
アトリを含めて最上レベルが2人。
ギースも最強の一角を担うには十分な戦力。
神器使いだというリタリタも戦ってくれることでしょう。
それにかつてのアトリレベルが数名もいる上、それ以上の上手さを持つメメも参戦してくれています。
あと大物特攻の《八壊衆》も来ていますね。……何人かロストしているようでメンバーは替わっていますけど。
もっとも大きいのは大天使みゅうみゅさんでしょうか。
このイベントは中々にぬるいかもしれませんね。魔女は「地獄」だなんて言っていましたけれども……このイベントもらいました。
喜ぶ私たちを天使たちが襲撃してきたのは、その三分後でした。
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