第17章 第三回イベント編

第156話 防衛戦の準備

   ▽第百五十六話 防衛戦の準備

 ゴースの準備が整うまでの間、待ちは確定のようでした。ですが、第三回イベントが告知されたことにより、私たちに暇な時間はなくなったようですね。

 我々はイベントの準備をするべく、第三フィールドへと帰還することにしました。


 ……合流予定でしたギースを完全に忘れて。


 まあ、べつに私たちって仲良しこよしではありませんしね。ギースには強く生きてもらいましょう。

 第三フィールドに帰還したのは、やはり世界樹の存在が強くあります。


 移籍計画はまだ完了していませんからね。


 また、第三フィールドには魔女もいます。彼女の作ってくれる魔女の道具は便利ですし、アトリに不足している絡め手対策にもなります。

 私が留守の間、魔女にはよくアトリの面倒を見てもらっています。

 久しぶりに挨拶もしておきましょう。ということで龍の素材もいくつか持参しております。ジャックジャックと潜ったダンジョンでのボス素材ですね。


 マリエラにある普通の住居のひとつ。

 それが私たちの協力者である、Bランク冒険者――魔女です。本名はとうの昔に捨てたとのこと。


 アトリが扉をノックします。

 魔女は現れません。アトリの知る限り、魔女が住居を留守にしていることはないようです。しょうがなくアトリが木の扉を破壊しました。


 中からボサボサの髪の少女が飛び出てきます。

 例によって全裸です。ボサボサの髪の毛がなければ、そのすべてが私の目に刻まれていたことでしょう。忘れがちですけれども、魔女はかなりの美少女なのですよね。


「またあちしの家を壊したな!」

「出てこないのが悪い」

「出ようと思ってたさ! 明日くらいには……」

「神様を待たせることは許されない」

「あちしがそんなこと知るかってんだ。まあ良い、入れ」


 疲れた様子の魔女が、諦めたように手をひらひら振ります。お茶の準備のためにキッチンへ向かったようです。

 アトリは勝手知ったる他人の実験室。

 どうどうと室内のソファに腰掛けました。うしろではシヲが扉を直しています。もう何度も直しているらしく、いずれアトリが破壊できない扉を目指しているようです。


 そのうち世界樹素材を使いそうですね。


 魔女がティーセットを持ってきました。美味しそうなお茶の香りです。


「吸血鬼以来だな。話は聞いているぞ。あのヨヨをあんたが倒したんだって?」

「そう」

「あいつが死ぬとはな。驚いちまう」

「知り合い?」

「いや、そういうわけじゃねえけど。あいつは四天王を殺した一人だからな」

「?」


 ティーセットをローテーブルに並べるべく、魔女は形の良いお尻を突き出してきます。私はつい目を背けます。

 白いお尻なんて見ていませんよ。

 湯気を立てるティーセットを前に、魔女はホッと息を吐きました。


「ノックスハードを倒したのは、アシュリー・ロー・ユグドラとヨヨ、あとはあいつらの配下だったからな。元々、ノックスハードを狙ってたヨヨが戦闘に乱入して共闘した形だな」

「へえ」

「アシュリーは強えがノックスハードを殺せちまうほどじゃねえ」


 ノックスハード。

 かつて魔王四天王の一人だったという悪魔です。二つ名は《契約殺戮》でしたね。


「んで? 今日は何をしにきた? まさか、あちしに茶をたかりに来たわけじゃねえだろ?」

「イベントの準備」

「イベント……ああ、精霊関連か?」

「神様以外はそう」


 魔女が肩を持ち上げます。

 おそらく、故ヨハンを除けばアトリともっとも仲の良いNPCです。神様トークの邪魔をしても無駄、と心得ているようですね。

 私も粗が露呈せずに済むので熟知に感謝です。


 アトリが魔女にイベント内容を説明しました。

 すると魔女はティーカップを取り落としました。零れたお茶が無防備な肌にかかり、裸の魔女が「あちゃあちゃ」と踊り出します。


 落ち着いた後、肌を布で拭って話します。


「天軍防衛戦って……まさにノックスハード関係じゃねえかよ。てか、あの戦で天使どもが負けたのって、てめえらが乱入したからかい。リタリタだけじゃ無理だって思ってたんだよな」

「リタリタ?」

「神器【世界女神の譲渡ザ・ワールド・オブ・ヒュミリティー】の持ち主だな。その戦いで戦死しちまった奴だ。ああ、奴が使ったんだな」

「?」


 ハッキリ言っとく、と魔女が真剣な目をアトリに向けました。


「あの戦は地獄だぜ」


       ▽

 魔女が説明するには、今回の敵は天使の大群とのことです。悪魔ノックスハードが殺された時の保険として用意していた策のひとつ。

 天使の大群をおびき寄せ、人類種の要所を破壊する……という作戦です。


 悪魔のノックスハードの死を起因として、天使の軍勢が一斉に動き出す。目的地は、他の悪魔の根城とのこと。

 ノックスハードという楔が消えたので、両者が自由に動き出すのです。


「そのちょうど中間地点こそが《エイスス砦》なんだ。そこは人類種が戦う上で必須の地。そこを抑えられたら人類種の運送が終わる。物資や兵糧のない戦争が始まるわけだな」


 神器使いを防衛に専念させていたのです。

 人類種にとっては相当な要所だったのでしょう。


「【天使の因子】を使っているあんたなら知ってるだろ? そのスキルは全アーツが固有スキル並の力を持つ。一日に一度の縛りだって、軍で押し寄せてくるわけだから関係なしさ」


 それは考えたくありませんね。

 まだアトリには取得させていませんが【ケテルの一翼】なんて激やばです。


「ま、あちしも準備の手助けはしてやるさ。あんたから買った世界樹素材はおもしれえし、瓶や薬草、消耗品の補充にだって助けられてる。あちしが全力で一肌脱いでやんよ」

「もう全部脱いでる」

「……物理的な意味じゃねえぞ」


 とりあえず魔女が物資面で協力してくれるそうです。彼女はセックのように「スキルレベルだけが高い生産職」とは違いますからね。

 色々な知識や技術で以て、スキルレベル以上の能力を有しています。


 協力してもらうにあたり、魔女を【理想のアトリエ】へ招待することにしました。

 さあ天使対策です。

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