第155話 第三回イベント開始のお知らせ

   ▽第百五十五話 第三回イベント開始のお知らせ

 私が吉良さんと話している間、ようやく目的の情報を持っている方の準備が整ったようです。現れたのはエルフの老人でした。

 ツルツルの頭部ながら、その顔立ちは整っています。

 彼が長老と呼ばれるNPCのようですね。この《学者の村》でもっとも知識が深い人物であるとのことです。


 低くも品のある声が耳朶に触れます。


「歓迎しよう、アトリ。我のことは長老、あるいはジイジと呼ぶが良い」

「解った長老」

「ふむ……さてアトリ。ジイジとしては無料で情報くらいやりたいところだ。ジイジとしては。だが、情報をただで渡すほどに、我らは浅い集団では在れない。ジイジがすまぬな」

「良い。ボクたちは物乞いじゃない」

「ふむ」


 殺して奪うという選択肢はあります。

 ですが、そのような悪漢プレイを過度に行うつもりはありません。常識的な範囲でならば、我々はクエストを行う覚悟があります。


 無理難題の場合、プランB(殺してリアニメイト)に移行しますけれど。


「アトリには我らが運営している学園にて、講師兼学生として赴いてもらいたい」

「講師? ボクは算数しかできない」

「ふむ。……向かってもらうのは【アルビュート国立戦闘学園】だ」


 戦闘学園。

 まあ、この世界に於いて魔法学校なんかはないですよね。だって、使える魔法って研究するほど深みはないです。アーツを覚えたら使えるようになるわけですしね。


 そして、覚えていなければ学んだところで使えないのです。


 ゆえにこそ戦闘学園。

 魔物の脅威に日々脅かされる中、強者を作り出せるならば国が出資する価値もありましょう。どのようなことを学ぶのかは不明ですけれど。


「戦闘学園なら講師となれるだろう?」

「うん」

「また生徒としても学ぶが良いよ。キミの戦いは遠目ながら確認した。魔法というのはもう少し自由自在だ。もっと強くなれるだろうとジイジは確信している」

「もっと強くなる」


 こくり、とジイジが頷きます。

 すると、彼は肩を落として寂しそうに呟きました。


「しかしながら、あの魔物の群れは残念だった。動きが奇っ怪だったのでサンプルがほしかった。それに我らが村を襲う暴漢共に使う予定だった研究成果も試せず終い……大人しく我の細菌兵器を使えば良いものを。みな、それぞれの研究成果を試したい試したいと……」


 ぶつぶつとヤバいことを呟く長老。

 こほん、と咳払いをして長老が気を取り直します。


「生徒を鍛え、そして守ってほしい。とある生徒が……おそらく近いうちに魔教に襲撃される」

「魔教ってなに?」

「魔王の勝利を願うイカれた集団だ。……それ以上の情報は教えられぬ。また別の方法で支払わせねばならぬからな。何より彼奴らの情報は持っているだけで害だ」

「知ってるほうが対策できる」


 長老が首を左右に振りました。


「奴の予知に巻き込まれかねないのだ……知って対策するだけで利用される。奴を想定して動いてはならぬ」

「?」

「ただ魔教の先兵を退けるだけで良い。奴らとの本格的な戦は別の者に任せるべきだろう。アトリが守っている間ならば、こちらはゴース・ロシューを動かせるのでな。ギースに頼まずに済んだのは幸いだ」

「?」

「説明できず申し訳ないな。されど、これはアトリのためにもなる依頼だ。あの子が現時点で魔教に捕まれば、魔王が増えかねないからな」


 この前、悪魔ルルティアが話題にしていましたね。


 情報乞食をするつもりはありません。

 どうしても気になるならば、吉良さんに訊けば教えてもらえるでしょう。あの人は教えたがり屋さんですからね。


 悪魔のスキルだけは訊いておきたいところ。


 我々の行動方針が決定しました。

 ゴース・ロシュー……掲示板で最強候補に挙げられている人物ですね。【筆頭魔術師】の二つ名を持っている、このゲームのNPCで最も魔法の扱いが上手なキャラです。


 たしか固有スキルを持たず。

 特殊な武器も持たず。

 ただ圧倒的な魔法の扱いだけで最強クラスの実力を持つのだとか。


 今は特殊な称号と武器を持ったため、さらに手が付けられないとか。


 そのゴースが魔教を叩いている間だ、アトリは戦闘学園で教師兼生徒をやるようです。魔法の扱いも教えてもらえるそうなので、わりの良いお仕事かもしれませんね。

 ついでに魔教と戦うくらいは良いでしょう。

 いずれ戦いそうな連中ですしね。


 今はゴースの準備が終わるまで待機とのこと。


 少し暇な時間ができそうだな、と考えていた私の元にメールが届きました。それは吉良さんからの連絡でした。


(笑)‥イベントが発表されたねー。キミはどっちに参加するのかなー。

ネロ‥今から確認します。

(笑)‥これは私見だけど、このイベントが失敗したらゲームのサービスが終了するよん。


 なんかとんでもないことを言いますね。

 私はちょっと呆れながらも、ザ・ワールドからの連絡を確認しました。



【祝】第三回イベント・開催のお知らせ【だよお】【パンパカパン】

1‥ザ・ワールド

 やあやあ、みんなのアイドルぅー、ザ・ワールドだよお!


 今回のイベントはとっても重要なのだ。

 というのも、みんなには過去の世界に行ってもらって、とある防衛戦に挑戦してもらいたいんだよね。


 ここで負けたら大問題。


 本来なら負けてたんだけどね、今回は特例中の特例なんだって! ザ・ワールド的には上手くやったから魔王ちゃんたちの勝ちでも良いと思ったんだけど……噛み合っちゃったね。

 ドンマイだよお!

 ちなみに、今回のイベントは「死」あり「消費」ありだから気をつけてね。イベントでロストしたら復活できないよ。ロストだね。


 あと現地で拾ったモノは持ち帰れないよ。貴重なアイテムを手に入れても……残念なのだ!

 嫌だって子たちは「バーベキューイベント」に参加しようね!! 最高だよお!


 美味しいご飯を食べてね。

 そっちは「死」なしだよ。消費はあるから気をつけてね!


 じゃあじゃあ。

 第三回イベント「天軍防衛戦」行ってみよー!

 あと「バーベキュー大会」だああああああ! そっちには魔王ちゃんも参加するって!

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