第152話 蹂躙の聖女さま
▽第百五十二話 蹂躙の聖女さま
数百を超える魔物の軍勢に、幼女が一人だけ対峙しております。
魔物たちの移動だけで、大地が地震のように震えております。誰もが絶望する中、アトリと私だけが冷静に経験値たちの襲来を歓迎します。
アトリが杖を魔物たちに向けます。
「【カーネイジ・ライトニング】」
それはアトリが新規で取得した【閃光魔法】のアーツでした。
アトリが構えた杖の先端から、真っ直ぐに光線が伸びています。それは驚異的な切断力を有し、遠距離から杖を振るうだけで、魔物たちの肉体が両断されていきます。
MPが持続する限り、真っ直ぐな光線を放つ魔法です。
死が連続していきます。
【ネロがレベルアップしました】
【ネロの再生がレベルアップしました】
気持ち良いですね。
ストレス解消ゲームのようです。アトリが光線でなぞるだけで、ぐんぐんと魔物の軍勢が消えていきます。
「ただ違和感もありますね」
「? 違和感です……か?」
「はい。これだけ殲滅されておいて、敵が一向に逃げないんですよね」
この《スゴ》は敵にもAIが搭載されている説が濃厚です。知能は魔物によってまちまちですけれど、少なくともあれだけの数の魔物がすべて愚かだとは考えられません。
何かによって追い立てられた、ということも考えられます。
「さて、そろそろ良いでしょう」
アトリは【カーネイジ・ライトニング】で軽く数百体を葬りました。
今もなお倒れていない魔物たちは【カーネイジ・ライトニング】を耐えた個体たちです。かなり高レベルなのでしょう。
あるいは魔法に対する防御手段があったのか。
MPは【再生】するとはいえ有限資源です。
強い敵と対峙するのでしたら、無駄遣いはしていられません。
「シヲ。シヲは防衛」
『――』
大盾の邪神器を持たせたシヲを防御に回し、アトリは単独で魔物の大群へと向かっていきます。その数は百体ほど。
大量虐殺に強い【カーネイジ・ライトニング】ですけど、遠距離への命中力は高くありません。普通に外している敵も居たのでしょう。
数は多めです。
何人か引き留める住民もいますが完全に黙殺。
アトリが飛び出しました。
いつものように初手はロゥロに任せます。出現した巨大などくろに、背後の村人たちが錯乱しますけれども、気にせずにロゥロが腕を回します。
イメージはボウリングでした。
ロゥロが腕をなぎ払えば、魔物たちが面白いように吹っ飛んでいきます。ですが、がしゃどくろの天下は長く続きません。
初手で十数体を灰燼に帰しましたが……ロゥロが二回被弾して消えました。
しかしながら、ロゥロが暴れている間に、アトリの接近は終了しています。
先頭を走っていた魔物が、獲物の到来にニヤリとします。その笑みのまま、魔物の頭部が宙を舞いました。
無表情のアトリが大鎌を振った姿勢で、ピタリと停止します。
「神は言っている」
急激にアトリが動き出します。紅い瞳が残す残光だけが視認可能です。
疾風のようにアトリが乱れ踊ります。
大型のゴブリンの首がはねられ、オークの棍棒が振られるより先に光が脳を貫き、狼の顔面を踏みつぶし、魔法を唱えようとしたドクロに小鎌を投げ、二足歩行の熊を真っ二つに切り裂きます。
血、腸、骨。
一瞬で鮮血に染まる戦場は、すでに死神幼女による処刑場。
「お前たちは全員、経験値……です」
暴れるアトリの隣、私だって働きますとも。
すでにアトリに【ダーク・オーラ】を付与しています。集団のただ中にある今、アトリの周囲の敵がバタバタと倒れていき、MPもまったく減る様子がありません。
目につく巨大な敵に対し【プレゼント・ポイズン】を。
遠距離攻撃を【クリエイト・ダーク】で逸らします。置き【ダーク・ボール】で敵の接近を拒絶していきます。
一瞬の衝突で十体ほどの敵を屠りました。
ふ、とアトリが小さく息を吐いたその時です。
象型の魔物の背後から、片手剣を持った緑の小柄な影が飛び出してきました。目を剥くアトリ。瞬時に十を超える斬撃が迸りました。
数多の銀閃。
出現したゴブリンとアトリが拮抗した剣舞を見せます。
ゴブリンが炸裂するように笑います。アトリの大鎌で片目を刻まれ、涙のように紅い血液が顎から滴っています。
おそらくゴブリンの固有スキル持ちでしょう。
しかも、かなり強力な……
アトリが【死に至る闇】を握り直そうとした刹那、上空を魔方陣が覆い隠します。降り注ぐのは岩の槍。それが豪雨のようにアトリを襲います。
「【ケセドの一翼】発動」
あらゆるクリティカルダメージを通常ダメージに変換するアーツです。
アトリは降り注ぐ魔岩を避けることなく、真っ向からゴブリンとの戦いに集中しました。ゴブリンの肉体は透過しますが、アトリの頭部や肩、腹には容赦なく岩が突き刺さっていきます。
ちょっとグロい。
私は【クリエイト・ダーク】で岩を摘出しながら、周囲の敵をCCで止めていきます。
『【ぐあがっがあ】!』
ゴブリンの剣が瞬き、次の瞬間にはアトリの腹を横一文字に切り裂いていました。それと同時、ゴブリンの首に大鎌が炸裂していました。
僅かな肉と骨の抵抗。
首を切り落とします。飛んでいくゴブリンの頭部は満足げでした。
血しぶきの雨の中、アトリは一人で悠然と佇みました。白い髪が風に揺れています。すでにゴブリンにつけられた傷は癒えています。
カッと目を見開き、アトリが処刑場を駆け抜けました。
▽
二十分も掛からずに魔物たちを殲滅しました。
正直、アトリでなくば死んでいた場面もありましたね。【ケセドの一翼】はたいへんに便利なアーツとなっております。
やはり、エンドコンテンツ並と言われる王城付近の敵です。
もっと近づけば、さらに危険度は増すことでしょう。
このレベルになれば魔物もガンガン固有スキルも使ってきます。いくつか初見殺し的なモノも放たれましたが、後半以降は【
途中で【テテの贄指】で効果時間を延長したりしましたね。
血まみれになりながら、アトリは油断なく周囲を観察しています。どうやら全滅したようですし、第二陣もやって来ないようです。
それなら【ヴァナルガンド】も使えば良かったですね。
実戦で練習しておきたかったところ。
「終わった……です!」
「よくやりましたね、アトリ。私もたくさんレベルアップできて嬉しかったですよ」
「! 神様が嬉しい……ボクも嬉しいっ、ですっ!」
魔物! 倒す! です! とアトリが山に走り出しかけたので制止。
いささか凶暴すぎます。
難民キャンプに帰還させました。
▽
「うおおおおおおおおおおおおおおおおお!」
「俺たちの天使様だああああ!」
「聖女さまのご帰還だあ!」
「ありがたやありがたや」
住民が口々にアトリを称賛し、かなりの人数が涙を流しながら跪きます。英雄扱いです。いえ、普通に英雄ですけどね、今回の戦果。
神を見たことはありますか?
いま見た。
そういう感じです。
アトリはあまりもの騒々しさに、私にしか解らないくらい顔を顰めています。小さな声で「ボクはお前たちのモノじゃない。神様のモノ」と反論を試みています。
どうやら私のアトリさんだったようですね。
難民キャンプを救いました。
それはともかくとして……逃げない魔物は不自然でしたよね。何か裏があるのか、あるいは単純にこの付近の魔物は逃走しないのか。
謎は深まるばかりです。
とりあえずセックを呼んでアトリを綺麗にしてもらいましょう。血だらけです。
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