第148話 賊狩り

  作者からのお知らせ

  予約投稿の日付を間違えていました。


  ▽第百四十八話 賊狩り

 襲いかかる山賊たちに向け、ギースが駆け出しました。

 ですが、それよりも早くアトリが動き出します。放つのは無数の【ハウンド・ライトニング】でした。


 追尾性の【閃光魔法】が無数に解き放たれます。


 本来、アトリのステータスは純魔法型。それが色々と噛み合った結果、大鎌による近接戦闘が得意になりましたが……彼女は魔法を使っても一線級なのです。

 むしろ、【光魔法】の攻撃特化上位魔法を操るアトリは、無数の雑魚相手には魔法を使ったほうが殲滅力が上がるまであります。


 今も山賊たちは次々と閃光で頭部を貫かれています。


 牙を剥き出しに駆けていたギースは、徐々に歩幅を狭めていき、終いにはとぼとぼと歩いています。がっくりと落とされた肩。

 振り向いた眼鏡の紳士が言います。


「姐御……そりゃねえですぜ」

「暴れたかったら、ボクより先に倒せば良い」

「そりゃ、そーですけど」

「風魔法は速度にバフが掛けられる。覚えると良い」

「うす」


 ギースが頷いたのを合図とするように、追われていた馬車が停止しました。ギースはまったく警戒していないようですが、アトリとシヲは敵を警戒しているようです。

 いえ、一応お嬢さんも警戒していますね。

 暢気なのはギースだけです。まあ、彼には【暴虐】による半完全防御があるので、安心しきっている、というのが真実でしょう。


 ギースを遭遇戦で突破は中々に難しいですからね。


 馬車から出てきたのは、中年の女性でした。

 表情には怯えと疲労感。焦燥感。かなり過酷な旅を強行しているようですね。


「た、助けていただき、ありがとうございます!」


 女性がギースにお辞儀します。が、彼は手をひらひらと軽薄に振り、アトリのほうに顎をくいと向けました。


「俺様は何もしてない。あっちの姐御だ、てめえらを助けたのはな」

「え、こ、子ども……?」

「ガキでもレベルが高けりゃあ強えのが世の理だろうがよ」

「いや、でも、あんな子どもが強いわけがないでしょう。しかも、赤目と白髪って」

「あ゛?」


 ギースが女性の腹を躊躇なく打撃しました。

 ぐえ、と呻き声をもらして女性が地面を転がります。その顔面を踏みつけ、ドスを利かせた声でギースが喚きました。


「てめえ、助けられておいて一丁前に差別意識全開かあ!? 神様か、てめえはよぉ!? おいおい、神様を踏んづけてる俺様はじゃあなんなんだ!? てめえらを追っかけてた奴らのほうが正義だったのかよ、やっちまったな! おい!」

「だ、だすけ」

「黙ってろ、ど雑魚!」


 ギースが女性の頭部を吹っ飛ばそうとする寸前に、シヲが触手でギースを宙吊りにしました。ギースは味方にしても敵にしても、その気性の荒さが面倒ですね。

 空中でジタバタと足をもがいている間、アトリが女性に【リジェネ】をかけます。


「もう行くと良い」

「あ、えっと……その」

「ギースも黙れ。冗談でも神様を愚弄するなら殺す」


 つ、とギースが足掻くのを辞めてそっぽを向きました。小さな声で「すんません」と返す様はマフィアの縦社会を痛感させます。

 年下の上司、人によってはキツいらしいですね。

 まあ、ギースは率先してアトリを格上扱いしています。アトリ自身は気にしないでしょう。ただギースはアトリに恩義を感じているし、単純に実力が負けているからこその格上扱いでしょうね。


 この状況でアトリを同列、格下に扱うことこそギースのプライドを損なうのでしょう。


 地上に降ろされたギースが、中年女性に向けて中指を立てます。


「姐御の慈悲で命拾いしたなあ、女あ! 次、俺様が個人的にてめえを見つけたら即殺そくさつしてやるから楽しみにしてろや」

「ギース」

「すんません、姐御」


 本場の恫喝は、一般人には効果絶大だったようです。中年女性は屈み込んで謝罪を繰り返す人形にジョブチェンジしました。

 慌てたように複数の馬車から人が降りてきます。


 腰の曲がった老人が深く頭を下げます。


「助けていただいたのに申し訳ない。私がこの村……だった避難民の長ですじゃ」


 謝罪をしてくる村長に向け、アトリは背を向けて馬車に乗り込みました。ギースも同様にお嬢さんを連れて自分の馬車に戻ります。

 出発しました。

 とくにクエストの臭いもしません。

 魔王軍四天王が一翼たるアリスディーネの侵攻によって、現在の第一フィールドは壊滅的なダメージを受けています。


 ギースのような強者が居ない場所は、魔物の脅威に飲み込まれているようですね。

 推測に過ぎませんけれども、彼らはそういった脅威によって村を奪われた集団なのでしょう。可哀想ではありますが、悲しいかな助ける義理とメリットが皆無でした。


 アトリが馬車についている窓から後を覗きます。


「神様……ついてくる、です」

「ですねー」

「神様の魅力に人類種は逆らうことはできない……です」


 それは違うと思いますねー。


「放置で構わないでしょう」


 彼らは我々の庇護を得たいのでしょう。

 しかしながら、初手を間違えたので止まってやる必要性をまったく感じません。変な女性に交渉を任せてしまった判断力がよくありませんでしたね。


 アトリが馬車に用意してある狭間から杖を出し、前方に向けて【スナイプ・ライトニング】を発射しました。

 それは合図です。

 要するにギースたちに向け、止まるな、という指示を与えたわけですね。


 我々は突っ走りました。

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