第15章 学者の村へ編
第147話 第一フィールド観光
▽第百四十七話 第一フィールド観光
我々、邪神一派(掲示板ではもっぱらそう呼ばれています)は第一フィールドを観光していました。厳密には、ギースが言う《学者の村》とやらへ向かっている最中です。
途中まではギースも旅に随行します。
どこかで離脱するとのこと。交渉する時に居てくれれば良いので構いません。
彼は馬車型の魔道具を駆り、どうにかシヲの速度に追いついているようですね。
私とアトリは悠々自適の馬車旅です。
この馬車は木製ではありますが、世界樹の素材で作られた最高級です。また、高い【木工】スキル持ちたるシヲが創意工夫をこらし、なおかつ色々と旅にベストな付与効果がついています。
この効果であれば、第二回イベントに出品しても上位入賞間違いナシでしょう。
私は課金で持ち込んだセットによりアニメを見ています。すでに五時間もぶっ続けて観ているので疲れてきましたね。
「そろそろお昼ご飯にしましょうか、アトリ」
「! はいです、神様! ご飯、ですっ!」
シヲに止まってもらいました。上等なる馬車は急停止にも対応しておりますが、今回は快適に緩やかに止まってくれました。
遅れてギースの魔道馬車も停止します。
中から疲労した様子のギースが出てきます。
「……ったく、姐御。馬車で休憩なしの五時間は狂ってますぜ……」
「?」
「ずっと操作してるこっちの身にもなってくだせえや」
すっかり下っ端口調の似合うようになったギースが、どかりと地面に座り込みました。その後からは少女が出てきます。
ジャスティンに誘拐されていたお嬢さんですね。
まだギースへの襲撃は続いています。
置いていけばまた誘拐されてしまう可能性は高いです。ということでギースに付きっきりになっているようですね。
お嬢さんもまた疲労した様子です。
もう少しこまめに休憩を取るべきでしょう。
仕方がありません。私は【理想のアトリエ】を展開してセックを呼び出しました。来る際、他のゴーレムから【料理】スキルをコピーさせてきました。
私が事前に準備しておいた食材を用いて、セックが料理をテキパキと作っていきます。
生み出されたのは大量の唐揚げ、エビフライ、コロッケにとんかつでした。上質な油がたくさん手に入ったんですよね。
ソレを使っての揚げ物フィーバーでした。
あとは課金で取り寄せたお米、パンなども用意しました。
サラダも現代産です。
やはり品種改良は神です。人間が食べる専門に作られていますからね。とはいえ、この世界の最高レベルの素材は現代のクオリティを遙かに超えてくるそうですが……
ドレッシングもセックが作ってくれました。
広げられたシートの上、ギースがサラダに手をつけて目を丸くしています。
「な、なんだコレ!? これが野菜かあ!? て、手が止まらねえだと……?」
凄まじい勢いでギースがサラダを貪ります。
料理スキル100の効果でしょう。
その他の付随スキルも伴い、現在のセックは料理の上手さが世界でも五指に入ることでしょう。ただのサラダでさえも、彼女の手に掛かればミラクル至高の領域です。
「ギース」
「なんです、姐御。今の俺様は止まらねえですぜ」
「行儀が悪い」
「? 行儀ぃ?」
ギースはサラダを手づかみで食べ、口元をドレッシングでべたべたにしています。眼鏡を掛け、燕尾服をビッシリと着こなすギースは知的な紳士風です。が、作法や言動、品性などがどうにもチンピラから抜け出さないのです。
アトリはフォークを指さします。
「それで食べるのだ……神は食事に品格を要求する」
「……わーかりました」
不服そうながらも、姐御の言うことは絶対。
渋々といった様子でフォークを握ります。恐る恐るフォークで食事を取りますが、かなり苦手そうですね。
元々、彼はスラムの育ちということでした。
あまり食事作法のお勉強はしてこなかったのでしょう。ジョッジーノに入ってからも、誰もギースの行儀に苦言は呈せなかったようですしね。
アトリに行儀を教えられる姿は、大きな弟のようにも見えます。アトリへの「姐御」呼びもまんざら見当違いでもなくなりつつありますね。
お隣のお嬢さんも同様でした。
「お前も」
「っち。解ったよ、アトリ姐さん」
アトリは誰よりも行儀良く、お手本を見せるように食べます。しかし、その速度は尋常ではなく、あっという間に大量に用意された食べ物たちが消えていきます。
ギースたちもアトリの食べる量には驚愕したようです。
が、彼らにとって十分な量は食べられたようですね。
私も定期的に出している、アトリの食事風景が撮れて満足しました。
フードファイターとしての人気も高くなってきたアトリです。まあ、コメントでは「ゲームのキャラクターの大食い見てもなあ」という意見も多く見られますが。
実際に食べることのできる《スゴ》では、存外にアトリのすごさは伝わるようです。
反論コメントも多いですね。
私としてはコメント欄で喧嘩しないでほしいのですけど。
ギースが立ち上がって背伸びをします。と、その時に気づいたのでしょう。信じられないという目をセックに向けてきます。
「なんだ、この感覚。疲労が全部ぶっ飛んでるし、バフも……料理スキルいくつだよ!?」
「ワタクシは完璧なゴーレムです。無論、100に決まっております」
「こ、こいつもやっぱり化けもんかよ……」
「化け物ではなく、完璧なゴーレムです」
「ゴーレム」
「完璧な、が抜けています、ギース」
完璧なゴーレム、とギースは何度も繰り返し言わされました。セックが手を叩く度、ギースは死んだような目で「セックさんは完璧なゴーレムです」と連呼させられます。
凶悪なマフィアの用心棒たる、最強の一角は形無しでした。
ギースは理解しているのでしょう。
セックに逆らってはならない、と。まあ、彼女の機嫌を損ねた場合、食事のクオリティを意図して落とすことくらい平然とやられるでしょう。
自称完璧なゴーレムは、やや心が狭いようです。完璧に。
食事の後は軽く腹ごなしです。
剣を持ったギースとお嬢さんを相手取り、アトリが縦横無尽に動き回ります。苦手意識で剣を使わなかったギースですが、じつは【暴虐】と剣の相性は悪くありません。
ギースが取った【剣】アーツ【カタストロフ】は強いアーツです。
武器が確定破損する代わり、大火力のダメージを叩き込めます。そこに【自爆攻撃】も加えれば、その破壊力は途方もないでしょう。
固有スキルで【カタストロフ】を使っても武器は壊れません。
また、剣で斬撃を飛ばすアーツも使えば、遠距離線も多少はできるでしょう。
ギースのジョブである【デスパレート】は魔法は苦手です。MPが少ないので大魔法は発動できず、魔法攻撃力も低いので魔法に使うよりも、剣アーツのために温存したほうが良いですね。
ひいひい言いながらギースたちは剣の修行に励みます。
その最中。
警戒していたシヲが合図を送ってきます。すると、地平線より大型の馬車が五台ほど駆けています。その後を追い立てるように、馬に乗って武器を振り回す集団が見えます。
おそらく山賊に襲われている集団でしょう。
「攻撃がちっとも当たらなくてムカムカしてんだ」
ギースが拳を鳴らし、山賊どもを睨み付けます。
「八つ当たりさせてもらうぞ、なあ!? ど雑魚どもおおお!」
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