第139話 突入直前
▽第百三十九話 突入直前
殺したNPCを《劣化蘇生薬》で復活させました。
ヨヨ戦後に素材を集めてセックに作らせたため、在庫はあるていど復活しています。それでももったいない、という気はします。
しかし、プレイヤーに恨まれるのって面倒なんですよね。
ミリムのような面倒プレイヤーは一匹で十分です。NPCとは違って排除できないのが面倒極まりありません。
「固有スキル発動――【レッサー・レイズ】」
と言いながら、戦闘に気がついて帰還したセックが《劣化蘇生薬》を使っていきます。私は《劣化蘇生薬》を秘匿しています。
理由は単純。
情報乞食やクレクレ対策です。
携帯できる上、量産できる《蘇生薬》……こんなモノは全プレイヤーがほしがります。現状、私たちしか作れないので……露呈すれば面倒です。
私へのメリットゼロなのに「情報を出せ」「薬を作れ」「世界樹を全員が使えるようにしろ」「平等にしろ」うんぬん言われるのは自明の理です。
だからセックの固有スキル、という嘘を吐きます。
我々はいつもセックを連れ歩いているわけではありませんし、固有スキルならば「クレクレ」をされるリスクはありませんからね。
携帯できる蘇生が問題なわけです。
蘇生されたNPCやプレイヤーたちは逃げていきました。
▽
我々はすでに動き始めています。
ジャスティンの様子を見た限り、遅れれば遅れるほどにリスクが上昇していくからです。ギースを殺す前に、あの女の子のほうを殺害することも考えられます。
すでにペニーより、ジャスティンのステータス情報は得ています。
名前【ジャスティン・ブラック】 性別【男性】
レベル【72】 種族【ヒューマン】 ジョブ【暗殺者】
魔法【闇魔法65】
生産【伐採65】
スキル【取得経験値上昇】【敏捷補正】
【拷問術100】【罠術55】【奇襲強化】
【斧術65】【短剣術28】【回避力強化54】
ステータス 攻撃【360】 魔法攻撃【360】
耐久【360】 敏捷【576】
幸運【576】
称号【独善】
こういうステータスとなっております。
ある程度の《スゴ》プレイヤーが見れば、このステータスは弱いと思われることでしょう。実際、ちゃんと戦えばアトリは負けません。
契約者不在の、弱いNPCの特徴としてスキル構成が終わっています。
固有スキルもないようでしたからね。
ですが……このステータスでそこそこ名が知れていて、あのような性格破綻者なのに
何かがある、と見るべきでしょう。
その何かはギースやペニーでさえ知りませんでした。
可能性としてステータス偽装系のスキルや称号、装備の存在も懸念しています。私自身、ステータス隠匿称号持ちですしね。
ジャスティンはあらゆる意味で油断ならない相手でしょう。
けれども、受けた以上、負けるつもりなんて皆無ですがね。
夜のスラム街。
魔法建築によって積み重ねるように建設された摩天楼。その屋上には四つの影がありました。月夜を背景にアトリ、シヲ、セック、ギースが地上を見下ろしています。
荒廃と退廃で乱れた町々からは、深夜だと言うのに喧噪が届きます。
「探せ! ギースは弱ってる!」
「あいつにろくな遠距離攻撃はねえんだ! ぶち殺せ」
「五百万でご馳走だあ!」
もはやイベントですね。
燕尾服を綺麗に着こなしたギースは、忌々しそうに眼鏡を中指で押し上げます。
「マジで面倒くせえ奴らだ。……だがお嬢の奪還には邪魔だな」
「神は言っている。殺すのは面倒」
「ちっ、俺様的には殺すほうが楽なんだがな。だが、今回は俺様が頼んだことだ……流儀はそっちに任せるわ」
廃教会までの距離は、ここから一キロ程度。
アトリたちの視力でしたら、すでに確認できている距離でした。まあ、それは敵も同様でしょう。
敵の動向については、やや距離を取ったペニーが監視しています。
「あいつは」ギースが言います。「何人か殺し屋を雇ってる」
ギースはギラギラした目で地上を睨み付けました。だらり、と舌を出して凶暴に言いました。
「そいつらは全員、俺様が片付ける。あんたはジャスティンを頼むぞ。が……奪還を優先してくれ」
ギースは自分でやりたいようですが、それが難しいとは自覚しているご様子。やることが【自爆攻撃】ですものね。
人質ごと爆殺しそうです。
そもそもジャスティンが逃げれば追いつけないようですしね。
素の敏捷値ではギースは勝っているようです。
ですが、ジャスティンには【敏捷補正】と装備による強化があるようです。ギースの弱点のひとつとして防御系に装備が特化しすぎている点もありますね。
「ま、行ってくるわ。陽動の手伝いよろしく」
ギースが歩き出します。
屋上から平然と落下します。ポケットに手を突っ込んだままのリラックスした姿勢です。風圧さえも無効化し、一息で地面に降り立ちます。無傷で地上に降り立ったギースは、包囲されたまま凶暴に嗤います。
「ど雑魚どもが……一回でも寝たらてめえらなんて壁にもなんねえよ」
「ぎ、ギース!」
ギースが爆発しました。
かなり派手に動いてくれるようですね。
その様子を見てセックも動き出します。彼女は無数のアンデッドを生み出して、戦闘できそうな人物たちに次々とぶつけていくようです。
取得させた【属性強化】により、アンデッドの質が目に見えて変化していますね。まあ、セック自身のレベルもカンストして、召喚できる魔物の位階とレベルも大幅に上昇済みです。
今のセックでしたら、並みの精霊憑きNPCよりは強いでしょう。
箒を指揮棒のように振るい、縦横無尽に召喚魔物たちを指揮しています。
ギース狙いの賞金稼ぎやマフィアたちは、これで乱入してこないでしょう。少女を奪還した後、ギースに無事に引き渡す必要があります。
ギースに死なれては困りますからね。
あとはセックに任せて、アトリはゆっくりと仮面を装着します。
「……良い感じです」
かつてジャックジャックと走破したダンジョン。
そこでミミックより手に入れた仮面でした。その仮面の効果は「装着時、常時MPを消費する代わりに容姿と装備品の見た目を変更する」です。
今のアトリは何処にでも居る、妙齢のシスターとなっております。服装ももちろん軍服風のワンピースではなく、修道女が着るような衣服に変わりました。
軽くその場でジャンプして、仮面の使用感を確かめます。
どうやら手足が伸びたことによる違和感は、すぐに排除できたようですね。
「すぐに片付ける……です」
夜のスラムをシスターが駆け抜けました。
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