第138話 集団対人戦
▽第百三十六話 集団対人戦
武装した集団が殺到してきます。
その様子はペニーが水晶で見せてくれました。
「アトリ。クエスト中なので守ってあげましょう」
「はい……神様!」
『雑魚ばかりなので大丈夫ですよー』
ペニーは知った上でジャスティンの映像を優先したようです。
まあ、知らされていたところで襲撃は許さざるを得ませんでした。
そもそもペニーは、これくらいで動揺するような人物とは組んでもくれないのでしょう。アトリは奇襲されて平然としています。
その様子を見て蝶は嬉しそうにぱたぱたと羽根を動かします。
ペニーはペニーで化け物です。
アトリは大鎌で屋敷の壁を切り裂きながら、一直線にギースのところへ向かいました。ギースの命は守らねばなりません。
ピティの情報を知っている人物を紹介してもらいたいからです。
情報自体は殺して【リアニメイト】でも良いのです。
ですが、あくまでも「紹介」してもらわねばならないわけですからね。ギースが死んでいては交渉になりません。
ギースの死体を操って交渉も不可能です。ピティを知っているような人物が「アンデッド化」に気づかないわけがありませんからね。
情報提供者を殺して【リアニメイト】も、やってることヨヨ並なので最終手段ですし。
ギースが眠っている部屋に飛び込みました。
そこで行われていたのは、一方的な遠距離攻撃でした。弓を持ったNPCが叫びます。
「ギースは遅え! 外から攻撃を続けろ! 近づかれたら逃げれば良い! 足場を奪え!」
「数撃ちゃあ、どれかは抜けるかもしれねえぞ!」
「てか、こいつシヲって奴じゃねえか!?」
そう。
アトリと映像を見るために、ギースの護衛はシヲにお任せしました。守るお仕事はアトリよりも得意なのがミミックたるシヲなのです。
しかも、今回のシヲはひと味違います。
手にしているのは近未来的なデザインの大盾。
邪神器【大いなる災いの蓋】でした。その効果のひとつ「全身を盾判定にする」によって、今のシヲは触手の一本一本が盾として機能します。
『――』
シヲの触手に触れただけで、NPCたちが吹き飛ばされています。おそらく【シールド・バッシュ】を食らってノックバックさせられたのでしょう。
NPCたちが魔法を放ちますが、シヲの肉体の表面に薄く傷をつけるだけです。
「こんなのどうやったら倒せるんだよ!」
シヲはゆっくりと前進を続けます。
数名のNPCを触手で絡め取っているようです。暴れて逃げだそうにも、神器級の触手を破壊できるほどの実力者はいないようです。
仮に居ても、捕まっている状況。
自分もただでは済まないでしょう。
ギースはすうすうと寝息を立てています。
アトリが戦場の中央に乱入しました。すでに【ダーク・オーラ】をまとっているため、強者ではないNPCは次々に麻痺や毒で倒れていきます。
一応【ダーク・オーラ】は発動者が付与可能な状態異常をすべて与えます。私とリンクしているアトリが与えられる状態異常も範囲内でして、敵には【混沌】や【回復禁止】なども付与されています。ちなみに大鎌がデフォルトで所持している【即死】はオフにしてあります。
殺したいわけではないですからね。
床にバタバタと倒れていくNPC。
しかし、彼らは意外なことにも自力で立ち上がってきます。どうやら彼らの中に光の精霊と契約している人がいるようです。
「ま、待ってくれ!」
と【顕現】した光精霊が宥めるように手を振ってきます。
「俺たちはアトリやネロと戦う意志はない! ただギースを狙ってるんだ」
掲示板では「ギースの命」にリアルマネーで五百万円の賞金がかけられています。有名な商人プレイヤーのマニープリーズさんの営業を邪魔した罪のようです。
四六時中、ギースが攻められている理由のひとつですね。
アトリは【魔断刃】を準備しながら、静かに殺気をまといました。
「ギースは後で殺せば良い。今はお仕事中」
「はあ!? もしかしてギースにつくのか? 守るのか?」
「神は言っている。今はクエスト中」
「……ギースを守るクエストってことか? 期限はいつまでだ? こっちも五百万が掛かってるんだ。が、アトリと戦ってロストするつもりも――」
光精霊が喋っている最中、べつの精霊が【顕現】しました。
「――殺せ! 精霊は死なない! アトリも囲めば殺せる!」
「そ、そうだ!」
次々に精霊たちが【顕現】していきます。
光精霊だけが「あちゃー」とでも言うように頭を抱え、自分の契約NPCと共に逃げ出しました。
「アトリを殺せえええ!」
ぱちくり、とアトリが瞬きをします。紅の瞳が美しくも怪しく灯ります。
そうして超高速の戦闘が開始されました。
▽
槍使いの精霊が突撃してきます。
風魔法で加速した槍での突撃は、中々に驚異的だったでしょう。ですが、アトリは【神楽】と圧倒的なステータスでひらりと躱し、精霊の首根っこに鎌を引っかけました。
すくい上げ、上空に吹っ飛ばします。
上空に消えていく精霊を尻目に、他の精霊たちもアーツを放ってきました。
「【ハイ・スラッシュ】!」
「【ヘヴン・ストライク】」
「【砲斬】!」
「固有スキル【重重重撃】!」
四人の近接系精霊。
まず精霊の基本として、彼らは一レベル上昇する毎に全ステータスが「5」上昇します。上位属性の精霊になれば、もう少しだけ増えるようですが。
ともかく、敵のレベルがギースを倒せるレベルなので、推定60以上と見ましょう。
最低でもステータス「300」ですね。
そこに【決戦顕現】でステータスが5倍になって「1500」が彼らの最低攻撃値となっています。
そこにスキルやアーツによるバフ、装備のステータスも考慮すれば【顕現】したプレイヤーの危険性がよく理解できることでしょう。
相手にしない、が正解となってくるわけです。
どうせダメージも無効ですから。
ですが、アトリはそんじょそこらのNPCとは一線を画します。
「【
今やアトリの【死に至る闇】がストックできる死の量は、以前の比ではありませんでした。切り札だった攻撃さえも、今のアトリは連続で放つことができるのです。
固有スキル【殺生刃】と【魂喰らい】【死導刃】【吸魔刃】、その他にも【マジックブースト】【光属性超強化】や【混沌付与】【狂化】そもそも邪神器自体のステータスなども含め――圧倒的な破壊力を伴った一撃が振り回されました。
プレイヤーとアトリの攻撃が衝突し、そして……吹き飛んだのはプレイヤーたちでした。
「う、嘘だろ!」
吹き飛びながらプレイヤーたちが目を露出していました。
アトリは構わずに【ボム・ライトニング】を発動し、NPCたちの方に投擲します。慌ててタンク担当の精霊が守ります。
しかし、アトリは【ボム・ライトニング】を起爆しませんでした。
本命は。
「ロゥロ」と誰にも聞かれない声でアトリが呟きます。
瞬間、NPCたちの背後に巨大な影。ロゥロは「がらららら」と雄叫びを上げ、机の原稿を腕でなぎ払う漫画家のように人々をぶっ飛ばします。
骨が砕けるNPCたち。
一応、ギースと戦えるNPCですからね。如何にロゥロが攻撃力お化けといえども、一撃を食らったていどでは死なないでしょう。
……いえ、何人か死んでいます。
ロゥロって意外と強いんですよね。いつも初手で砕かれているイメージが強すぎました。
まだ動ける精霊が魔法を連打してきますが――アトリの【魔断刃】で魔法自体を切り裂かれていきます。
精霊たちはもう泣きそうでした。
「魔法を斬るってなんだよ! ムズいんだぞ、それ!」
「当たり前に全部を成功させてくる! キモいって!」
このゲームの魔法は打ち落とせます。が、じつは意外と難しいことで有名です。弾速に特化した魔法は本当に速く、乱射されれば何発かもらうのは常識でした。
また、攻撃の火力が魔法を上回らねば消せません。
精霊の魔法の火力は超火力。今まで相殺されたことのないプレイヤーもいたはずです。
ですが【月光鎌術】の【魔断刃】は魔法に対する強い特攻を有します。アトリが首を狩る際に【首狩り】で防御無視+ダメージ五倍にしていると似ています。
つまり、下手な魔法使いならば、アトリは絶対に負けないのです。
精霊たちが喚きながら、必死に魔法を放ち続けます。
弓スキル持ちはいないようですね。
まあ、精霊で遠距離攻撃をしたいなら武器スキルを取るより魔法を使うのが一般的です。居ることのほうが不自然だったでしょう。
「これ以上、ボクと神様の邪魔をするなら」
アトリは雨のように降り注ぐ魔法を切り裂きながら、
「全部、殺すだけ」
やがて雨がぽつりぽつりと小雨になり、最後にはすべての魔法が止みました。精霊の一人が悲しそうな顔で言います。
「ごめんなさい……許してください」
「うせろ」
今度は全員がアトリに従いました。
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