第134話 ジョッジーノ・ファミリー

   ▽第百三十四話 ジョッジーノ・ファミリー

 到着したのは第一フィールドでした。

 道中、山賊からの襲撃、魔物からの襲撃、野良ドラゴンからの襲撃、老婆……と思いきや山賊からの襲撃、吸血鬼の残党からの襲撃、など細々したイベントがありました。


 単純な話、今のアトリには苦にもなりません。


 近づいてきた瞬間、【殺生刃】と【詠唱延長】【聖女の息吹】を乗せた【シャイニング・スラッシュ】で全滅したからです。

 忘れがちですけれど、【聖女の息吹】は回復量増加と光魔法の威力上昇があります。


 おそらく【勇者】のスキルの効果なのでしょうが、今のアトリは「自分へ害を与えようとしているかどうか」を判断できる力があるようです。それゆえに老婆山賊にもとびっきりの報いを躊躇なく差し上げられました。


 容易いですね。

 唯一、ドラゴンの時は数発ほど【シャイニング・スラッシュ】を放ちましたが。


 それでもシヲが止まる必要さえもありませんでした。


 ボス級のドラゴンでない限り、もうアトリの敵にはなってくれないようです。

 まあ、新スキルの効果もあるでしょう。


名前【アトリ】 性別【女性】

 レベル【80】 種族【ハイ・ヒューマン】 ジョブ【聖女】

 魔法【閃光魔法65】【光魔法77】

 生産【造園81】

 スキル【孤独耐性90】【鎌術83】【口寄せ65】

    【神楽75】【詠唱延長64】【月光鎌術60】

    【天使の因子58】【狂化】【聖女の息吹】

    【光属性超強化15】

 ステータス 攻撃【214】 魔法攻撃【637】

       耐久【427】 敏捷【613】

       幸運【544】

 称号【死を振りまく者】

 固有スキル【殺生刃】【勇者】


 新スキルは【光属性超強化】でした。

 このスキルは【聖女】の【光系魔法】持ちの限定スキルです。通常の【属性強化】よりも方向性が限定されている代わりに、強化率が大幅に上昇しています。


 この【光属性超強化】は魔法だけでなく、【月光鎌術】や【混沌付与】の火力も上昇させてくれます。とくに【混沌付与】については効果が高いです。

 このスキルは常に光と闇が拮抗するので、光の威力を上げれば闇の威力も上がるのです。


 また、【光属性超強化】は威力だけが上がるのではなく、効果も上昇しているようです。


 光の範囲、操作感、出の早さや後隙も減少しているわけです。ウィキの初心者ガイドで【属性強化】が推奨される所以です。

 私も【属性強化】を取りましょうかね。

 ただし、【属性強化】は持ち主の属性が強化されるだけのようです。アトリの【混沌付与】くらいにしか効果がでません。


 とはいえ、【クリエイト・ダーク】や【ダーク・オーラ】は強化されます。


 悩みます。

 スキル選択で悩めるのも、このゲームの面白さのひとつですがね。ただし、選択を誤ればかなり取り返しがつかないのも事実です。


 まあ、私のスキル選択なんて皮算用でしょう。

 まだ【神威顕現】で失ったレベルも取り戻せていませんからね。


「しかし、第一フィールドも変わりましたねえ」

「?」

「まあ、アトリはあまり気にしませんよね」


 じつは素材集めの一環として、第一フィールドに戻ってきたことがあります。長居はしませんでしたが……今のここは雰囲気が一変しております。

 草木は枯れ果て、気味の悪い魔物が我が物顔で徘徊しています。


 もはや初心者向けのフィールドではなくなりました。

 とはいえ、人類種もさる者。

 攻められなかった村や町を拠点に、次々と占領された土地を奪還しているようです。アリスディーネが守護する王都はまだまだのようですがね。


 我々が辿り着いたのは、人類国家アルビュートのノイズ伯爵の領地のひとつ。魔都市アマルという場所でした。

 街ひとつが丸々スラム街。

 悪、という一方向で団結した、不気味で退廃した街でした。


「……汚い、です」

「ええ、あまり長居したい街ではありませんね」

「神様にこの街は似合わないです……ボクがすぐにギースを倒す、ですっ」

「ありがとうございます、アトリ」

「!」


 ふへへ、とアトリが嬉しそうにします。ちょっと喜び方が陰気なのもアトリの良いところです。


 吐瀉物や虫、動物の死体が当然のように転がる町並み。

 そこそこに広い都市ですが、利益を追求するように上へ上へと増築された建造物たち。高い建物が日光を遮り、昼間だというのに闇が道を濡らしています。

 タバコや薬物の煙で汚れた空気。


 道行く人々は目が死んでおり、時折、思い出したように欲望で濁るようです。


 この街を支配しているマフィアこそが、ギースの所属する《ジョッジーノ・ファミリー》なのでした。


       ▽

「ジョッジーノ・ファミリーのアジトはどこ」

「し、知らねえ、知らねえです!」


 アトリは絡んできた中年男性の足を斬り飛ばし、早速のように尋問を開始していました。中年男は『お、女じゃん。ガキだけど具合は良さそうだな、げへへ』とほざいたお口で命乞いをしています。

 手にしたナイフもすでにへし折られ、私の毒と出血とで徐々に死へ近づいています。


「知らないなら良い」

「ま、待ってくれ! 死んじまう! このままじゃ死んじまう! 助けてくれっ!」

「助けても別の人を襲うだけ」

「この町は誰だってそうだ! そうしなきゃ生きていけねえ! 俺は悪くねえ! でも、あんたはこの町の人間じゃないよな!? 助けてくれるよな!? 良心が痛むよな! なあ!」


 アトリは無視して歩き去ります。

 なぜならば、それこそがこの街の流儀だからです。誰かを襲っても良い、奪っても良いならば、自分がそうなっても仕方がないということ。


 自由を尊重するアトリは、敵の死ぬ自由も容認するのです。


 アトリが完全に歩き去る寸前、さきほどの中年男性の絶叫が聞こえてきます。おおよそ動けない中年男性を誰かが襲ったのでしょう。

 まあ、スラムあるあるです。

 弱った奴から食い散らかされてしまうのです。世の無常さが潤沢に物語られます。


「お嬢さん、お嬢さん」

「?」


 アトリが歩いていますと、ローブを被った男性に呼び止められます。彼は周囲をキョロキョロと見回し、誰も居ないことを確認しました。

 酒に焼けた声。


「あんた《ジョッジーノ・ファミリー》を探しているのかい?」

「そう。知ってる?」

「知っているともさ。俺はこの町で知らないことは何もない」

「教えて」

「良いさ。だが、まずは金だ。なんてことはない、ちょっとしたお小遣いでけっこう。金貨2枚でどうだい? こっちも危ないマフィアの情報を売るんでね、危険なのさ。でも、お嬢さんの強さに鑑みて、これくらいならばお小遣いだろう?」


 かみさま、とアトリが私のほうを窺います。


 私はこくり、と精霊体を上下に揺らしました。


「それくらいでしたら買いましょう。世界樹素材の前では大した額ではありません」

「解った、です! ……神は言っている。金貨二枚で情報を買う」


 私が【クリエイト・ダーク】を使って金貨を渡します。男は驚いたようですが、すぐに適応して金貨を受け取ります。大切そうにローブのポッケにしまい、億劫そうに口を開きます。

 指を五本、立てています。


「五秒後、爆発する。その音のところに行きな」

「?」


 五秒後。

 街の一角で爆音が轟きました。続くのは激しい戦闘音。どうやらジョッジーノ・ファミリーと誰かが争っているようです。


 ちょっと騙されましたね。

 こんなに目立つならば、教えてもらわなくても向かったことでしょう。


 アトリの【勇者】は「アトリへの害意」を見抜くようです。

 ですが、世の中には害意抜きで害を与えてくる者がたくさんいるわけです。

 これを早めに体験できたこと――理解はしていましたからね――は大きな情報となりました。ある意味、金貨2枚以上の得をした気分です。


 アトリも同様のことを思ったのでしょう。


 軽く騙されましたが攻撃するようなことはしませんでした。

 早速、争いに混じりに行きましょう。

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