第125話 タタリ村の神器

       ▽第百二十五話 タタリ村の神器

 その声は唐突でした。

 アトリが濃密な気配を帯びて「宣言」した直後、そのアナウンスは始まりました。


【個人アナウンスを開始します】

【プレイヤー・ネロの契約者であるアトリが神器【世界女神の救恤ザ・ワールド・オブ・チャリティー】の装備条件を満たしました】

【条件一、勇者メドの血筋であること】

【条件二、ナノマシン型神器、、、、、、、、世界女神の救恤ザ・ワールド・オブ・チャリティー】を一定の間隔以内で十年以上、体内に摂取していること】

【条件三、一定のレベルとスキルレベルを超えていること】

【条件四、魔王の討伐を決意すること】


 なんだか驚きの情報が羅列されていきます。私が【魂痛】に耐えている間にも、システムアナウンスは停止してくれません。

 ちょっと今は理解が追いつきません。

 前回の【神威顕現】よりもかなり痛いんですよね。おそらく、今リアルに帰還すれば暴れて背骨とか折りそうです……


 もう【神威顕現】は二度と使いたくないかもしれません……


 アトリの手前、格好つけて平然ぶっていますけど……中々にいっぱいいっぱいです。そのような私に追い打ちするように情報が溢れていきます。


【プレイヤー・ネロの称号【偽る神の声】による概念変更により、【世界女神の救恤ザ・ワールド・オブ・チャリティー】関連の名称を変更しました】

【名称を【黒の聖典ネロ・ビッビア】へと変更しました】

【契約者・アトリに固有スキルを贈与します】

【今後も救世を深くお願いいたします】


 凄まじい情報を流し込まれましたが、私はすぐに気を取り直します。正直、状況はよく理解できていませんが、弱くなることはないのでしょう。

 ならば良しとしましょう。

 よもや本当にどうにかしてしまうとは思いませんでした。


 やはり、こういうイベントは悪くありませんね。

 ようやく私はアトリを【鑑定】しました。


名前【アトリ】 性別【女性】

 レベル【76】 種族【ハイ・ヒューマン】 ジョブ【聖女】

 魔法【閃光魔法63】【光魔法75】

 生産【造園80】

 スキル【孤独耐性88】【鎌術82】【口寄せ61】

    【神楽73】【詠唱延長60】【月光鎌術59】

    【天使の因子55】【狂化】【聖女の息吹】

 ステータス 攻撃【206】 魔法攻撃【601】

       耐久【407】 敏捷【581】

       幸運【520】

 称号【死を振りまく者】

 固有スキル【殺生刃】【勇者】


 どうやら固有スキルに【勇者】が増えたようです。内容はハッキリとしませんけれども、何らかのプラス効果はあるようですね。

 しかし、問題は使えるという神器についてです。


 たしかナノマシン型の神器との話。

 予測に過ぎませんけれども、アトリの村は神器を守る村であった疑惑がありました。そこでいつの間にか神器を手にしていたようです。


 アトリをもう一度だけ【鑑定】すれば、神器――邪神器とされています――の情報が与えられました。


 邪神器【黒の聖典ネロ・ビッビア】 レア度【ジェネシス】

 レベル【76】 制作枠【2】

 攻撃【380】 魔法攻撃【380】

 耐久【380】 敏捷【380】

 幸運【380】

 スキル【レベル成長】【疑似神器作成】【選定】


 邪神器の効果はなんと「疑似神器」を作ることのようです。正確には既存のアイテムのレアリティを「ジェネシス」まで引き上げるようです。

 これらの情報が揃ったことにより、ようやく「タタリ村」の全容が判明しました。


 あの村は神器を守る村として「不自然」なところがありました。


 一、神器がない。

 これはそもそも「視認できない神器」だったが正解でしょう。


 二、神器を守る村なのに低レベルのアトリに皆殺しにされてしまうほど弱い。

 これは「タタリ村の人間がレベルを上げると神器に適合しかねない」「守る必要のない神器」だったことが原因でしょう。


 三、謎の風習「神様のモノなので10年は殺せない」……アトリが魔物の子認定されて殺されなかった理由ですね。これも「神器の適合条件に10年」が必要だから村の風習として根付いたのでしょう。


 神器の仕様は解りませんけれど、おそらく同時に適合できる人間は一人のはず。

 勝手に神器所有者が増えては困るのでしょう。


 どのような形かは不明ですが王国が管理していた……可能性はあります。ちょっとあの行商人や通っていたという奴隷商が怪しいですね。

 ともすれば定期的に来ていた行商人については、他の条件を満たしていた者の可能性もあります。


 まあ「神器を作る神器」の所有者なんて下手に生み出せません。

 国や貴族が偉くあれるのは――それらが強力無比な力を有するからです。無論、神器所有者を配下にできれば良いのですけど……そもそも王国は神器を所有していますからね。


 強力な配下を複数持つのは、国としては良くないのかもしれません。

 要するに秘匿されていたのでしょう。あるいは最初は秘匿され、徐々に失伝したということもあり得るでしょうね。


 ただし、まだ不可解な点はあります。

 国が把握していたなら、村の近くで守る人くらい配置しておくべきです。それがアトリの乱に介入しなかった……そこが不可解です。

 やはり失伝ルートでしょうか?


 まあ、バックボーンはこの際に至って、どうでもよろしいでしょう。


 大事なことはひとつだけ。アトリが神器所有者になりました。


       ▽

 血まみれの【死を満たす影】を握り締め、アトリが目を見開きました。彼女の周囲にバグったようなノイズが迸ります。

 アトリの存在感が一気に増加しました。赤い瞳に光が灯ります。


「邪神器解放――【黒の聖典ネロ・ビッビア】」


 大鎌が変化していきます。

 徐々に【死を満たす影】が近未来的なデザインに変化していきました。それは要するにビームサーベルのような形ですね。

 刃の部分が真っ白のエネルギー刃となっております。


 生まれた神器の名は。


 邪神器【死に至る闇】 レア度【ジェネシス】

 レベル【76】 ライフストック1500

 攻撃【380】 魔法攻撃【380】

 耐久【380】 敏捷【380】

 幸運【380】

 スキル【魂喰らい】【ヴァナルガンド】【レベル成長】【混沌属性付与】


 これを以てヨヨとの決戦を開始します。


       ▽

 アトリは、ヨヨの屋敷より戦場のど真ん中に降りていきます。

 私が【クリエイト・ダーク】で生み出した階段を、アトリはゆっくりゆっくり進んでいきました。


 戦場が完璧に停止しています。


 誰もが突如として出現したアトリの、その圧巻の威圧に飲まれていました。固唾を呑んで見守られながらも、アトリは平然とした様子を崩しません。


 戦場の温度が一気に冷えていくようでした。


 アトリがまとう風格は――最上クラスの強者のものでした。

 戦慄させる紅の瞳が戦場を睥睨します。ぐるぐるとした狂信の目でした。

 地上では星を受けきったヨヨが、満面の笑みで腕を広げていました。


「至ったのであるな、アトリ殿! 我ら《最上》の領域へ……!」

「お前を殺す」

「この場に居た誰もが理解しているのである。貴殿が至った瞬間……戦場は停止し、誰もが背に死を感じた。この場に居ない同格たちも、違うフィールドに居ようが貴殿の誕生を察知したはず。至るということはそういうことであるな」

「遺言は紙に書くと良い」

「ふはは、同格の誕生はいつも心躍るのである! 今の貴殿であれば余を屠ることも可能であろう」


 もっとも、とヨヨは全身に業火を纏い、亀裂するように嗤いました。


「余のほうが強いのであるがな」


 言い切ったヨヨの隣には、一体の闇精霊の姿がありました。【鑑定】した結果、その精霊の正体がミリムであると判明します。

 姿を【顕現】させてミリムが嗤います。


「あはははははあ! 残念でしたぁー、ネロ! アトリ! てめえらは今からヨヨに殺されんだわ! すでに部下をぶち殺されてっから悔しくて悔しくて堪んねえだろ!? あたしの気持ちの一端くらいは理解したかあ!?」

「うるさいのである、ミリム。余は貴殿の能力は評価しているが、その気質はくだらぬ」

「はあ!? 黙れよ、ヨヨ。あたしが色んなとこ回って吸血鬼の侵入手助けして? 色んな才能のある奴のスキル構成をグチャグチャにして? 情報もそっちに流してやっただろうが! てめえと契約した精霊の中でもっとも有能だったのも私でしたよねえ!?」

「ふむ。アレでダディもテスタメントも信念はあったのであるがな。しかし、貴殿には何もない。ただ余の力となる名誉だけ得ておくが良い」


 仲悪いですね。

 しかし、ミリムのことはあまり侮れません。何故ならば、


名前【ミリム】 性別【女性】

 レベル【62】 種族【ダーク・エレメンタル】

 魔法【闇魔法51】

 生産【錬金術32】

 スキル【再生34】【顕現56】【鑑定24】

    【ダークネス・バーサーク】【敵耐性減少】

    【致命回避】【アイテム・ボックス11】

    【属性強化】【消費MP軽減】【渾身強化】

 ステータス 攻撃【310】 魔法攻撃【310】

       耐久【310】 敏捷【310】

       幸運【310】

称号【奈落の悪意】

固有スキル【悪夢再発トラウマ・ビジョン


 かなりの強敵でしょう。

 敵の魔法アーツ次第ではありますが、私の上位互換の可能性もあります。途中まで私のフォロワーっぽいのが厄介ですね。


 かなりレベリングをしてきたようです。

 まあヨヨが本命の契約者だったのなら当然でしょう。かなり強引なパワーレベリングをしてもらっても良いわけですからね。


 認めるのは癪ですが、ミリムは強力な敵です。そのミリムを伴ったヨヨの脅威度は尋常ではないでしょうね。


 さて、対峙したヨヨが朗らかに頷きます。


「ネロ殿よ。此度の戦にてアトリ殿は死ぬ。その際、此方と契約してほしいのであるな」

「はあ!? 何を言っているのですか、ヨヨ!」

「ミリムの目的は復讐であろう? アトリ殿を殺した時点で終いである」

「てめえが勝手に決めないでください!」

「アトリ殿、すまぬな。戦士としての余は品がない。他者のモノを奪いたくて奪いたくてしょうがない。そういう悪癖があるのである。いつもは抑えるのであるが……アトリ殿ほどの強者を屠ったならば、王として戦士に褒美をやらねばならぬ」


 ヨヨが寒気を感じさせるような、狂気的な嘲笑を浮かべます。


余に奪わせるのだ、、、、、、、、、アトリ殿。寛大な心で余を許せ」

「そうやって先生から奪ったの?」

「先生?」

「ヨハン・アーガート」


 アトリの言葉を理解したヨヨは、抑えきれぬとでも言うようにニタリと嗤いました。その品のない顔を手で覆い隠しています。


「心はままならぬ。人は痩せたいと本音で口にしながら菓子を頬張る。目的と欲求はいつだってあべこべであるな。余とて人類種である。あのような美しい光景を見せられれば……戦士の余は奪わずにはいられない」

「殺す」

「ふはは、楽しみなのである」


 ヨヨの威圧をものともせず、たった三分でヨヨと同格に並んだ死神幼女は対等に応じます。


 それにしても思わぬ勧誘を受けてしまいました。

 私の【神威顕現】を受けておきながら、よくもまあ誘えますよね。そのメンタルだけは評価しますけれどもお断りです。


 じつは私……ジャックジャックも気に入っているので。

 アトリとジャックジャックを傷つけ……アトリの仲間を殺したようなゴミクズには愛着が持てません。なによりも……ヨヨはここでロストするのですから。


「さあ、行きますよアトリ」

「はい、神様! 神罰の時間……です」


 アトリと私。

 ヨヨとミリム。


 かなり類似した性能を持つ者同士……戦闘が始まります。

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