第97話 戦争へのお誘い

▽第九十四話 戦争へのお誘い

 現在の私のステータスを表示しておきましょう。


 正直、レベルはまったく上がっていません。最近は強敵との勝負の機会に恵まれませんでしたからね。ギースはレベルが低かったですし。


名前【ネロ】 性別【男性】

 レベル【62】 種族【ダーク・スピリット】

 魔法【闇魔法70】

 生産【錬金術75】

 スキル【再生70】【鑑定31】

    【クリエイト・ダーク72】【ダーク・オーラ52】

    【敵耐性減少】【アイテムボックス31】

    【逆境強化】【致命回避】【敏捷強化55】

    【罠術15】

 ステータス 攻撃【295】 魔法攻撃【295】

       耐久【295】 敏捷【295】

       幸運【295】

 称号【偽る神の声】

 固有スキル【神威顕現】


 新スキル【罠術】を取得しました。

 このスキルは罠の効果を上昇させる効果があります。見つかりづらくなり、破壊力や妨害性能が増加します。


 アトリの【ボム・ライトニング】による罠も、このスキルによって火力を増しています。


 たったの一撃で敵は半壊しました。

 その隙を見逃すアトリではありません。爆風の中、大鎌を片手に走り出します。余った片腕で小鎌を投擲し、一人を殺害しております。


 ジャックジャックも動き出しております。


 私が作り出した【クリエイト・ダーク】モード・スモークで視界は最悪。その闇に紛れて暗殺特化型のNPCが駆け抜けます。

 悲鳴。悲鳴。断末魔。

 焦ったように冒険者たちが叫び出します。


「こんな強えなんて聞いてなかったぞ!」

「強いのは爺だけじゃなかったのかよ! てか、ミリムはイケるって言ってたのに!」

「話が違う!」

「ガキはテイマーじゃねえのか……なんで近せ――ぎゃあああああ!」


 阿鼻叫喚です。

 というよりも、ミリムはどういうスタンスで「イケる」なんて口にしたのでしょう? イケるわけがありません。

 いえ、おそらくはこのNPCたちは捨て駒なのでしょう。

 あるいは嫌がらせ。


 しかし、ミリムのプレイスタイルはちょっと感心してしまいます。【鑑定】した結果、判明したのが彼らは一様に精霊憑き、ということでした。

 あまりにもスキル取得が上手く行っています。

 この世界、精霊と契約しないNPCが取得するスキルはランダムです。それはシナジーなんてまったく考慮されていない構築になりがちです。


 ですけれども、彼らのスキル構成は整っていました。


 おそらくですが、ミリムはこの二十名全員と契約しています。精霊は一人としか契約できません。けれど、契約の解除も再契約も簡単なのです。

 つまり、ミリムはNPCがスキルを取得する寸前に契約し直しているのでしょう。

 そうすることにより、擬似的に何人とでも契約することが可能。


 どうやらミリムは数打ちゃ当たる作戦を決行しているようです。


 完全に私たちとゲームで敵対する姿勢を取ってきていますね。面倒極まりありません。しかし、それが彼女のプレイスタイルというのなら否定はできません。

 ただ掲示板にそれとなく晒すだけです。


 あっという間に敵はミリム、それと現在契約しているNPCだけになりました。

 なんと酒場の店員でした。


「てめえら……ギルド関係者をこんなに殺してただで済むと思ってんのか!? ダンジョンに潜る前に記帳しただろ。全部、ギルドが管理してんだよ。お前らが犯人だってバレてるぞ」

「ふぉふぉ、Aランクの儂らがどうして低級を狙う必要があるのじゃ」

「状況証拠が揃ってんだよ」

「構わぬわ。むしろ、それを懸念するのじゃったら、貴様を生かして帰すほうが危険じゃろうて。状況証拠よりもマズいじゃろ? そもそもダンジョン内で死ぬことなど珍しくもない」

「わ……悪かった。助けてくれ」


 深く深く頭を下げる獣人。

 その首に向けてレイピアを突き出そうとしたジャックジャックに、【顕現】したままのミリムが固有スキルを放とうとしていました。


 ジャックジャックは復讐者です。


 トラウマしかないような人生のはず。

 トラウマを思い出させるというミリムの固有スキルは大敵です。攻撃が命中する直前、アトリがジャックジャックを庇うように前に出ました。


 ミリムの固有スキル【悪夢再発トラウマ・ビジョン】がアトリに炸裂します。


 闇精霊が舌打ちを零しました。


「っち、アトリかよ。でもまあ、おまえが悪夢にうなさ――」


 何かを言おうとしたミリムは、言葉を続けることさえできませんでした。何せアトリがミリムの契約NPCの首を平然と落としたからです。

 ミリムが慌てたように叫びます。


「どういうことです!? 貴女はトラウマが大きいはず。スタークがいないので動きを拘束まではいきませんが、動揺くらいはするはずですのに……!」

「神は言ってくれた。神様はボクを見捨てない。次に同じことをされて問題がなかったら、神様は一緒に寝てくれる! 寝るとき、耳にふうってしてくれる!」

「!? 天音ロキ! 幼女と寝るなんて、しかもおまえ――」


 ミリムの姿が消えていきます。


 最後のミリムの台詞は心にダメージを与えてきました。中々にやるようです。私たちの敵を自称するだけはありましたね。

 侮って申し訳ありませんでした。


 ちょっと前、暇そうにしていたアトリに悪戯したら気に入っちゃったんです。


 念の為に【顕現】していた羅刹○さんが言いました。


「さすがにドン引きだよ、ネロさん……」


 思わず【神威顕現】を切って言い訳しそうになります。すんでの所でチャットをすることを選択しました。

 闇精霊ミリム。

 恐ろしい敵です。


       ▽

 有象無象を皆殺しにした私たちは、改めて野営を始めておりました。


「そういえばアトリ殿」


 ジャックジャックが火に薪をくべて言います。


「戦争の件は聞いておりますかな?」

「戦争? 第一フィールドの?」

「否。第三フィールドで起こる戦争について、ですじゃのう。まだ開戦しそう、というだけですじゃが」

「聞いてない」


 どうやら第三フィールドにも戦争の波が来ているようですね。運営は意地でも戦争コンテンツを充実させたいようです。

 稼げるならやりましょう。

 詳細を尋ねます。


「第三フィールドには複数の支配者がおる。その中でも一等に強く、悪辣で害悪なのが……儂の復讐の相手である男――黎明都市ユグドラが領主、真祖吸血鬼のヨヨ・ロー・ユグドラですじゃ。あやつが戦争を仕掛けようとしております」

「先生の敵?」

「否、奴はもはや人類の敵でしょうな」

「?」

「かつて時空凍結が行われる直前。奴は戦えぬ人々に宣言した」


『余の配下とならば戦う力を与えよう。吸血鬼として戦線に参加せよ。さすれば戦えぬ者、守れぬ者は戦士となり守護者となれるだろう! 余も魔王にはほとほと困り果てておる。違う勢力とはいえども、戦える者はおおいに歓迎しよう! 余は貴様らを支配せぬ。個々人、好きに闘い、守り、抗うが良い!』


 そう宣言したのだ。

 その言葉を信じてヨヨの手で吸血鬼となったのは、どうやら三万人。


 ヨヨはその三万人に戦う力と守る力を与え、あとは個々人の好き勝手にさせる……そういう約束だったはずなのに。

 ヨヨは支配した吸血鬼たちに、自分の街だけを防衛させたのです。


 否、彼らが守りたいと言った人々は食料として奪わせたのだ。

 そのヨヨが此度の時空凍結解除にて動き出したという。もっと多くの軍勢を欲して、近くの街への侵攻を計画しているとのことです。


「儂は情報収集に動いておったのじゃ。しかし、奴のほうが上手じゃった。見つかり、ヨヨたちに腕を奪われたわけじゃのう」

「神様、どうする、です?」

「そうですね……」


 このイベントは受けておくのも悪くありません。

 ヨヨのスタンス的に魔王以外の新たな人類種の敵、という感じがひしひしとします。しかも、放置しておけば第三フィールドまで落とされる勢いです。


 第一フィールドが奪われ、第三フィールドまで獲られては遊ぶ場所が制限されます。

 下手をすればヨヨとやらが第二フィールドまで奪うかもしれません。ある意味、ヨヨ以外の人類種が全敗北してもおかしくないわけで。


「私たちも参戦しましょう、アトリ。このイベントは放置すれば、後に我々の楽しみを奪いかねませんからね」

「はい……ですっ神様っ! 先生、ボクも出る。神様のお楽しみを奪わせない……!」

「うむ、アトリ殿が出てくだされば百人力じゃ」


 ジャックジャックが言う。


「警戒すべきは四人と一人」

「? なにその分け方」

「一人はヨヨ本人。他はヨヨの三騎士と呼ばれる強者ども。そして、最後の一人は……アシュリーお嬢様。儂の――恩人」


 ヨヨに奪われた、儂の主ですじゃ。

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