第96話 報酬の分配と強襲(残念)

▽第九十六話 報酬の分配と強襲(残念)

 報酬はタンマリでした。

 そこそこの規模と難易度のダンジョンです。それを走破したのですから、これで美味しくなければダンジョンコンテンツは無意味になりますよね。


 アトリは新しい指輪を手に入れました。

 ああ、ちなみにギースから奪った指輪は使っていません。性能がピーキー過ぎて彼以外では扱えないでしょう。一回使ったら壊れるとか、クールタイム一ヶ月とか、使ったら永久に火傷するとか、そんなのばかりです。


 またギースの手に渡るのも面白くないため、破壊してしまいました。


 新しい指輪のステータスは、こうなっております。


 魔指輪【ズーマーの反輪】 レア度【レア】

 レベル【56】

 スキル【異常活性】【ダメージ3%カット】


 この指輪を装備時、状態異常になるとステータスが上昇するようになります。沈黙などのデバフをあえて喰らってバフにしたり、不利状態を少しだけマシにできたりします。

 もっと良い装備があれば乗り換えますが、性能は面白い感じですね。

 指輪は二本までしか効果がないのです。


 さすがに【テテの贄指】を外すことはありません。


 まあ、効果を使い終わった後は外しても良いんですけどね。ですが、なくしては一大事です。


 他に入手しためぼしいものはマジックバッグでした。

 太ももに装着できるホルスターのような感じです。そこに小鎌やポーションを収納しておくことが可能になりました。


 容量は少ないですが、戦闘アイテムをより使いやすくなりましたね。


 あと目的だったゴーレムコアもふたつ手に入りました。今回、ジャックジャックと潜る条件として「ゴーレムが出やすいダンジョン」というモノがありました。

 嘘は吐かれなかったようです。

 その他、コア作成用の素材も入手できて最高ですね。


 自力でもいくつか作れそうです。性能は低めですが。


 あとミミックからドロップした仮面です。戦闘用のアイテムではなかったので使わないかもしれません。便利そうではありましたけれど。


「ふむ、面白いアイテムは手に入ったが……」


 とジャックジャックは悔しげに俯きます。

 何も入っていない袖が風に揺れています。彼がダンジョン探索を望んだのは、回復禁止の呪いを解除するためのアイテムでしたからね。


 それがなければ悲しむのも当然です。


 まあ、お金はたくさん入ったので、市場で探しやすくなったでしょう。中々に出回らないそうですけれど……


 溜息です。


「……アトリ、ジャックジャックにこれを渡してあげてください」

「はいっ! ジャックジャック、神からアイテムを授かった。受け取ると良い」


 アトリが手渡したのは呪い解除用の人形でした。

 それを胸に抱くだけであらゆる呪いは、代わりに人形に肩代わりされます。かなり貴重なアイテムですし、高価でもありました。


 かつて闇精霊ミリムとの戦闘時。

 精神攻撃などへの対策として魔女から購入したアイテムのひとつです。じつのところ、ダンジョンに侵入する前から解呪アイテムは持っていました。


 忘れていたわけではありません。


 私が大事なのはあくまでもアトリです。

 ダンジョン内でアトリが呪われては困りますからね。対策アイテムを他人に譲るなんてあり得ませんでした。


 しかし、まあ、ここに至ればよろしいでしょう。


 もう帰るところですし、ジャックジャックの腕があったほうが安全でしょう。


 受け取ったジャックジャックが、言われた通りに人形を抱き締めます。すう、と人形が朽ちていきました。

 私が売ったハイ・ポーションを飲み干します。


 世界樹の葉を使った回復ポーションですよ。腕くらいは生えます。ただし、一日に何度も飲めば中毒になるので気をつけましょう。

 見る間にジャックジャックの腕が生えました。


「おお! ありがたい! アトリ殿、ネロ殿、感謝しますじゃ」

「神様は慈悲深い」

「ですな」


 ジャックジャックは確認するように腕を振ります。問題はないようです。今回のダンジョン探索で理解しましたが、彼はかなり強力なNPCのようです。

 その彼が不覚を取り、あまつさえ呪いを受けて逃げ帰る敵。

 ちょっと気になりますね。


 しかし、ジャックジャックのクエストに乱入するつもりはありません。やはり、こういうゲームにはそれぞれの物語がありますからね。

 無駄に掻き乱したくはありません。


「さて」


 ジャックジャックが咳払いをします。


「この解呪アイテムの支払いは後ほど。まずは脱出を優先いたしましょう」

「うん。帰って神様にたくさん褒めてもらう」


 そのような予定があったのですね。

 まあ、今回の探索は得られるモノも多かったですし、アトリの技術面も向上しました。褒めるのは良いでしょう。


 我々は帰宅を目指しました。


       ▽

 第六階層まで駆け抜けました。

 ほとんど止まることなく、すべての魔物は鎧袖一触。降りていく度に弱くなっていきます。共に敏捷値特化の二人には追いつけません。

 アトリの胸に抱えられた私も、適宜【プレゼント・パラライズ】で支援していますからね。


「はあはあ……アトリ殿、この辺りで一度、休憩、しませぬか……?」

「先生は体力がない」

「これでも儂はカンストじゃぞ……アトリ殿のほうこそどうなっておるのじゃ」

「ボクは神様のためなら休まないし寝る必要もない」

「お主、前から思っておったが本当に人類種か?」


 ジャックジャックがクタクタになってしまったようです。

 ご老人ですからね。

 世界観説明によればエルフが老化するのは、相当な年月が必要のようです。ハイ・エルフの場合は死ぬ寸前まで若い姿を保つとか。


 羨ましいことです。


 またもや焚き火をします。

 じつは《スゴ》は野営必須のゲームとなっているようです。NPCは寝なければいけませんからね。


 ですが、アトリは基本的に寝ません。

 謎の理論で眠りません。身体への影響などは見受けられませんけれども、ステータスやスキルなどを駆使して不眠です。偶に、私が心配して添い寝してあげるくらいですね。


 それゆえ、私たちは野営の経験が少なかったのです。


 正直、アトリの生態には助けられております。NPCの睡眠に合わせてログアウト・ログインを繰り返すのは効率的に面倒ですからね。

 しかし、偶には野営も悪くありません。

 もう少しアトリを寝かせてやるべきかもしれませんね。いくらゲームのキャラクターといえども、私はアトリのことを気に入っていますから。


 私が【クリエイト・ダーク】で小屋を作っている最中でした。


 シヲが触手を振り上げました。それは敵襲の合図。しかも、挙げたのは右腕――すなわち人類種の接近を知らせる合図でした。


「アトリ」

「はい……です、かみさま」


 ご機嫌な様子でジャックジャックが作るシチュー鍋を覗き込んでいたアトリが、すうと立ち上がりました。

 手には大鎌。

 すぐに敵たちがぞろぞろと集まってきました。


「ようやく見つけたぜ、ガキと爺」


 見たことのある顔でした。

 我々がダンジョンに入る前、ギルドで因縁を付けてきた獣人たちです。カウンターに立っていた店員までいます。


 全員で二十名は超えている大所帯でした。


 彼らの背後には闇精霊がひとり憑いているようですね。

 しかし、彼らは全員が大したことのないように思われます。何かしら特殊な固有スキルでもあるのだろうか、と【鑑定】していきます。


 結果、あまり脅威を覚える敵ではありませんでした。


 そして闇精霊の名前が判明しました。

 闇精霊のミリムです。ミリムというのは、かつてスタークというNPCと契約していたプレイヤーです。


 大規模な盗賊クランを作ろうとしていたため、私たちが潰したのです。


 リアルで私に殺害予告をし、実際にマンションの下まで包丁を持ってやって来た人物でもあります。まあ、私が雇っていた陽村という人物に見つかり、アッサリと捕まりました。


 五六発殴ったら白状して、血塗れで帰ったとのこと。

 あとえっちな動画も撮られたとのこと。


 いくら同性とはいえ、陽村が捕まりそうです。

 まあ、捕まるなら捕まるで構いませんけれどもね。私の知ったことではありません。

 リアルでの殺害を諦め、ゲームでの勝利にシフトしたのでしょうか? 忘れがちですけれども、リアルで殴られたら痛いですからね。


 ミリムが【顕現】しました。


「やっぱてめえらかよ。べつに良いさ。数打ちゃ当たるだろうし、何より私はもう何も失うもんはねえからな――殺せ!」


 ミリムの号令に従い、二十名が一斉に仕掛けてきます。

 狭い洞窟の中ながら、二十名が襲いかかってくる分には十分な空間がありました。狭い空間で二十名からの強襲。


 意外と厄介です。


 アトリは【ケセドの一翼】を使用。

 自身とジャックジャック、シヲに【リジェネ】を付与しました。さあ、いざ戦闘が開始される――という寸前でした。


 敵の大半が吹き飛びました。


 アトリが閃光魔法【ボム・ライトニング】を起動したのです。私が【シャドウ・ベール】で隠匿しておいたものです。

 たった一撃で敵は半壊してしまいました。


「は、はあ!? どういうことです!?」


 ミリムが錯乱したように叫びます。

 残念な敵ですね、本当に。鬱陶しいだけです。

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