第83話 ネロの敗北

▽第八十三話 ネロの敗北

 とても文化祭を楽しみました。

 体育館で催されたステージは、どれも面白かったですね。演劇は役者たちが超美形でしたし、脚本も「よくある青春学園スポ根もの」だったのが最高でした。

 異世界風の役者をわざわざ揃えて、それをやるのが面白かったです。

 ただし、NPCたちは「野球ってなに?」と首を傾げる一方でした。


 また、この世界にいる落語家のお話も良かったです。

 エルフの落語家でした。どうやらエルフには伝統的に落語に似た文化があったらしく、聞いたことのない演目でしたね。

 ちょっと違うのも、本当にこのゲーム内にそういう文化があるようでした。


 音楽については、微笑ましかったです。演奏しているNPCや【顕現】したプレイヤーたちが楽しそうで、本当に学園祭に来た気分を味わえました。

 一通りの楽器を弾ける私ですが、知らない楽器を見られたのは良かったですね。


 こういう感じでアトリと共に文化祭を謳歌しました。

 ずっと何かを食べながら、アトリは私を頭に乗せてご機嫌でしたね。お祭りなんか参加したことがないので、この集団限定での楽しみは殊更でしょう。


 私もあまりお祭りには参加してきませんでした。


 気の合うアトリとの文化祭は、思っていた以上に愉快でしたね。


 そんなこんなで一日目のステージが終わりました。

 いよいよ初日の「出品ランキング」のお時間です。私やシヲも出品物がありました。ある意味、この生産職イベントの本領です。


 出品された生産物で順位を決める、バトルですね。


「ソレでは発表いたします。【錬金術】部門、第三位は――ネロ! この【植物超変異薬】ポーションはじつに見事です。ただし【錬金術】の腕よりも、素材が良かった面が否めません。それが減点でした」

「おお、三位ですか」


 私が世界樹素材で作ったポーションです。

 効果は、普通の草木を魔物に変化させる、です。しかも【超】の名の通り、ちょっとしたボスクラスの敵になりますね。


 いざという時、植物にかけて魔物という第三勢力を呼ぶも良し。

 魔物素材がほしい時に、ちょっと試して見るも良し、というポーションです。色々な素材がほしいらしい魔女的には大絶賛、絶対に一位間違いなし、世界中の魔女や錬金術師が求めてやまないポーションだ、と太鼓判をもらいましたが。


 まあ、三位ならば十分です。

 満足する私を頭に乗せたアトリが、静かに【死を満たす影】を引き抜きました。


「あの審査員は間違ってる……です! ボクが殺しに行く、ですっ! 神様は一位! 一位一位一位一位……いちいいちいいちい」


 暴れ出しそうになるアトリをシヲが抑えます。

 アトリはシヲに怯えて動きを止めました。やはり、アトリのストッパーになれるのは、この世に私とシヲだけのようですね。


 アトリの正面に周り、その可愛い顔を覗き込みます。


「アトリ、私は三位を狙っていましたよ」

「! さすがは神様です……すべては神様の手の上です。神様はボクの一位だけで良い、です、ねっ!」

「ちなみに、私に手はありませんけどね」

「? はいです!」


 アトリには受けなかったようですね。

 シヲもジト目で睨み付けてきます。アトリではありませんが怖いですね。しばらく時間が経過し、いよいよシヲの【木工】スキル部門が始まります。


 シヲが作ったのは、木製の小型の宝箱でした。


 可も不可もなく、という感じでしたね。上位三つが発表されていきます。


「三位は野良の卵の【天界の椅子】だ。座れば病気が治るというのは素晴らしい効果ですね。二位は――」


 二位にもシヲは呼ばれませんでした。

 ですが、シヲはドヤ顔(たぶん、そういう感じの雰囲気があります)で腕を組んでいます。そわそわしたように指が増殖していますね。

 アトリは気づいて泣きそうになっています。

 そして【木工】スキル部門、第一位が発表されました。


「一位はククリの【アメジストの樹棚】だ! 収納した宝石の原石が自動で完璧にカットされ、しかもランクが上昇するなんて凄すぎる効果です。文句なしの一位でしょう」


 その凄まじい効果に、会場が湧き立つ中、シヲが触手を大量に増やしました。その指で審査員を何度も指さし、アトリに何か言っているようです。

 アトリが呆れたように肩を竦めます。


「審査員はいつも公正。お前のアイテムの出来が悪かっただけ」

『――!!』

「殺さない」

『――!!』

「拷問もしない」

『――!!!!』

「神に選ばれたボクは無能じゃない。お前が弱い」


 シヲが取っ組み合いを始めようとしたので、アトリが【口寄せ】を解除しました。シヲは【木工】のことになれば人格が変わりますね。

 しかし、シヲには悪いですけど、芸術家としては良くありません。

 現実は受け止めるべきです。芸術は己との戦い。そこから逃げるようでは、真なる芸術は完成しないのですよ。


「さて」


 いよいよ、本日のメインイベント。


 私の【彫刻部門優勝】の時が来ました。私は第三位、第二位を聞き流しながら、また世に私の作品が流れてしまうことを儚く思います。


 また歴史を変えてしまう。

 美術館たちの争いは醜い。私の作品を展示するために、すでに所持していた名画をオークションに出し、あらゆる神算鬼謀で以て政治を凝らします。


 その様が私は哀しいのですよね。


 今回の私の作品は――宇宙です。

 彫刻にて宇宙を作らせていただきました。立体的な宇宙そのもの。無論、既存の惑星を使うだなんてクリエイティブ性の乏しい表現はいたしません。


 架空の、それこそファンタジーの色取り取りの銀河系。

 素材の特色を十全以上に活かした、至高のかけ算。

 かつてヌードを禁止された彫刻家たちは、こぞって透明の羽衣を彫刻したものです。私はその応用として――、


「――そして第一位ルルティア・メリスの【耽美像】です。この像の前ではどのような不能も、一気に臨戦態勢。また持続性も高まり、そういう秘薬を求める王族なども多かった中、なんと見るだけ置くだけ。国宝にされてもおかしくない効果ですね」

「……アトリ、あの司会を殺しましょう」

「はい!」


 アトリが動き出します。

 会場に偶々いたユークリスやその他の実力者、さきほどの捕縛特化の人物などの協力によって、奇しくも芸術を解さない無法者は生き延びてしまったようですね。


 私が一位ではない?

 何が起きたのでしょうかね。


 とりあえず、ロゥロの耐久度を高めることは、私たちの課題のようです。


       ▽

 返却された【幻視の宇宙】を三年黒組のクラスに展示します。

 どうやら三年黒組は作品を展示する、という緩い集まりだったようですね。私の作品も受け入れてくれました。


 ……大繁盛しました。


 あらゆる人々が波のように押し入ってきて、アトリに「作品を売ってくれ」と懇願する有様でした。

 実際に貴族や王族もいる世界です。

 私たちの世界よりも芸術の重要度は高いようです。しかも、理解している人々も多いですね。まあ、この世界の人々は「宇宙」を知りませんけれども。


 第三フィールドの何処かの代表が土下座しています。


「余は、余はこのような神秘を目にしたことがない。頼む、国宝としよう。余はこれを手に入れずして、明日を生きていく自信がない」


 やはり高評価。

 どうして一位を取れなかったのでしょうかね。よもや「私が【彫刻】スキルがなかったので、作品になんの効果も付与できなかった」ことが問題だったのでしょうか?

 そんなわけないですよね。

 機能美は認めますけど、このクオリティを前に機能なんてどうでも良いはず。


 やはり八百長でしょう。

 あの司会者、次に見つけた時は確実に消しましょう。敵です。邪神敵です。シヲもこれには深く同意してくれております。


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