第80話 文化祭の準備

       ▽第八十話 文化祭の準備

 スキル【狂化】はとりあえずオフしておきます。

 やはりアーツが使えないのはデメリットですからね。ずっと使っていて強いスキルというわけではございません。


 ちなみに【殺生刃】はスキルなので【狂化】中も使えたりします。

 武器スキルも同様です。


 あくまで使えないのはアーツだけなので。

 アトリが順調に壊れてきました。普段はリジェネタンクなのに、切り替えで超攻撃型アタッカーにもなれる……良いですね。


 相手が使ってきたら嫌ですが、アトリは私サイドなので問題ないです。


 私たちは現在「文化祭島」にやって来ております。

 イベントの準備期間中、ここには自由にワープできます。会場の島は中々に広く、ちょっとした街規模があるようですね。


 いくつかサーバーが分けられているので、人でギチギチというわけではないです。


「私たちは黒クラスですか……これ、他のクラスの妨害もできるみたいですね」

「敵を倒す、です!」

「それもアリですね。敵クラスへの襲撃は可能のようですから。返り討ちにあってロストさせられれば、イベントへの参加資格を失うようですけれど。一度だけロストできるのは安心ですね」


 イベント中は、敵を警戒しておきましょう。


 シヲは常時展開していますが、彼女の【音波】スキルはまだまだ育成途中ですから。ロゥロを敵陣に呼び出して、延々と嫌がらせしても良いのですけど……恨みを買うのは後でよろしい。

 そこまで必死に勝ちに行く必要もありませんし。

 今回のイベントは「個人順位」と「クラス順位」がございます。前者はスキル構成的に勝てませんし、後者も個人で頑張るのには限度がありますからね。


 私とアトリは展示で頑張ります。


 私が「錬金術アイテム」と「彫刻」部門で出品します。前者はともかく、後者に関しては百%優勝なのは固いでしょう。

 絵画や音楽なども出して良いですけど、あまり活躍するのもズルいですよね。


 アトリは【造園】で「文化祭島」に花壇を作るようです。それも出品扱いになるそうで、この島にも良い彩りが灯ることでしょう。


 庭仕事に励んでいるアトリが、不意に振り向いてはにかみます。


「終わったら神様にお花、捧げる……ですっ!」

「楽しみにしておきましょう」

「はい。です!」


 興奮した様子で庭に向き直るアトリ。どれも素材としてはレアものばかり。そこそこに苦労して手に入れた種子たちです。

 見て良し、使って良しですね。


 シヲは何か作るようです。

 ジト目を浮かべながらも、ご機嫌に木材にヤスリがけしております。ロゥロは壊すことしかできないのでとくにございません。


 ワープ先である黒組の教室から、私たちは外に移動します。

 花壇スペースでアトリが【造園】に励みます。それを横目に彫刻を始めます。未知の素材でした。削り心地がまったく解らないので、とりあえず五百万円分くらいで遊んで……いやいや、私の良くない癖が出てきておりますね。


 私はかつて稼いでおりました。


 しかし、その稼ぎをすべて仕事で失うという……客観的にアホな生態をしています。弘法さんは筆を選ばなかったようですけど、だから筆を誤るのですよ。

 道具、素材、環境、題材、あらゆる面で妥協をせぬがゆえ――まあ、よろしい。

 私はテキパキと謎素材を削っていきます。


「ちょっと手元が納得いきませんね。ここは【神威顕現】の切り所でしょうか……ですが、今回のイベントは消費アリなんですよね。レベル10と【魂痛】を考えれば……使えて一度くらいでしょうか。そもそも、この素材がどういうモノなのか……魔女から購入してみましたが。知らない素材の誘惑に抗えませんでした。もっと素材の性質も取り入れたいところです」


 私が【アイテム・ボックス】から取り出した爆薬で、素材を爆破していると、三階の窓から私たちを見下ろす幼女がいました。

 真っ白の髪をした、血のような目色の美幼女です。


 おそらく、アトリよりも幼い、正真正銘の幼女ですね。

 嘘のように美しい、夜空を彩る月のような美貌。子どもの姿だというのに、そこには妙な色気さえ感じられます。


 僅かに感じるのは、寒気。


「何をしておる、そこの黒いの」

「誰でしょう?」


 私の声は他のNPCには届きません。

 アトリが作業の手を止め、三階の美幼女を睨み付けています。「黒いの」呼ばわりがトリガーに触れたのでしょう。

 アトリの睨みは恐ろしい。

 ですけれども、美幼女は気にした風もありません。


 窓から上半身を乗り出すようにしています。お澄まし顔ですね。


「のうのう、黒いの。其方は精霊じゃろ? 精霊はこちらの住民と契約できるのじゃろ? そこな幼子を殺し、此方と契約せぬか? 世界の半分をやろうぞ」

「神様は精霊じゃない。世界は元から神様の」

「変な幼女に嫌われてしもうた。ゲヘ――」


 美幼女が何かを言うよりも前に、黒髪のエルフの美青年が乱入してきました。

 目深に学生帽を被り、服装は学ランです。今時、リアルでも珍妙な風貌ですが、ファンタジーゲーム内では殊更ですね。


「――だめっすよ、お姫様! 今回は遊びに来てるんすから。せっかく招待してもらえたんすし、ゆっくり楽しめば良いでしょう。バレたら面倒っすよ」

「殺せば良かろ? 此方は腹が減ったぞ」

「はいはい! 俺っち、うまい飯ぃ出す出店を知ってるっすわ。行きましょ」

「此方は幼女の柔肉を所望する」

「あいつはヤベえっす。殺されるっすよ、どっかの誰かさんみたいに」

「?」

「まあまあ、数百年振りに起きたからテンション上がってるのは知ってるっすよ。こういうのは俺っちに任せましょうや、ね、お姫様。やるなら黒組み以外っすよ」


 むう、と頬を膨らませながらも、美幼女は青年の後を続きました。

 よく解らないNPCたちでしたね。


 私の【鑑定】は弾かれました。

 まあ、スキルレベルが低いのでしょうがありません。あの歳でも相当なやり手なのか、そういう固有スキルやアイテムを持っているのでしょう。


 すでにアトリは興味を失い、庭仕事に戻っています。

 私も素材の爆破作業に戻りましょう。これが終わったら凍らせてみたり、燃やしてみたり、その他、色々と試してみましょう。


 さあ、この謎の鉱物はどのような色を見せてくれるのでしょうか。


 原石の才能を見出し、導き、育てるのは――芸術の基本で楽しみですよね。


――――

昨日の更新でのアトリの称号はミスです。

本当の効果は「生物への特攻+敵の数に応じて攻撃力微上昇」でした。こっちで修正せず、いつも書いているソフト上だけで修正していたようです。


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