第74話 公式チート
▽第七十四話 公式チート
魔女から購入したアイテムを使用していきます。
各種耐性薬、魔女が世界樹素材を利用して作成した身代わり人形……思い付く限りの防御策を施していきます。
また、新たな【天使の因子】アーツも展開済みでした。
一ヶ月ほどのスローライフ中。
戦闘こそ少なかったですけれど、【天使の因子】は常時展開しておりました。お陰でスキルレベルも30を突破、もうじき40に至りそうなくらいです。
新アーツは【ホドの一翼】となっております。
このアーツの常時バフは「デバフへの耐性」となっております。完璧な耐性ではありませんが、かなり状態異常に掛かり辛くなっていますね。
使用状態では「周囲のあらゆるバフ・デバフを固有スキルでも関係なく強制解除」できます。
自身へのバフも消してしまいます。ですから、他の【天使の因子】アーツとは相性は悪めですね。翼や天輪も消去されますから。
とはいえ、念には念を、です。
敵が使っているスキルが、もしかするとバフ扱いかもしれません。問答無用の削除効果は、今回に限っては切り札となるでしょう。
じつは【ビナーの一翼】と迷いました。
こちらは常時バフが「消費MPの減少」です。そして使用状況が「一度だけ敵のアーツを無効化する」というチートアーツでした。
ただ、敵の固有スキルが乱発可能だった場合、意味がないので取りませんでした。
なるべく【天使の因子】の使用は控えたいですからね。常時バフが消えるのはもったいないでしょう。
可能な限りの準備を終えた私たちは、声を殺して大広間へ忍び込みました。
▽
狂乱、と呼ぶべき惨状が繰り広げられています。
ろくに入浴もしていないような荒くれたちが、ほとんどボロ布だけを身に纏い、好き勝手に振る舞っているようです。
女性を嬲り、飽きれば酒を浴びるように飲み。
地べたで鼾を上げる男、喧嘩をしている者、明らかによくないお薬を摂取している者、そういった最悪のパーティが開催されているようでした。
悪しき酒池肉林です。
まったく、このような光景をアトリに見せるのは、私の教育方針とは大幅に異なります。もっとアトリには花や蝶を愛でる少女に育ってもらいたいモノです。
……積極的に盗賊を殺させましたけど。
いつだって理想とは、もっとも現実から遠いところにありますね。
「アトリ、ゆっくり狙ってください。敵は気づいていません……あの弱そうな青年、彼がこの集団の首魁――スタークです」
「……」
こくり、とアトリが首肯します。
スタークと呼ばれる青年は、この《脱落会》を率いているようです。単独での戦闘能力は乏しく、推定レベルは40に届いていないとのこと。
ですが、強力な固有スキルを持っているようでした。
この《スゴ》は時折、公式チートと呼んで過言でない固有スキルが生み出されます。アトリの【殺生刃】も強力無比ですけれど、デメリットもあるスキルでした。
しかも「刃を強化する」というシンプルな効果です。
聞くところによれば「目を閉じている間、あらゆるダメージ半減」だったり「瞬間移動」「触れたモノを爆発させる」なんてチートスキルもあるようです。
もはや異能力の領域でしょう。
そういった公式チートに匹敵する、怪しい固有スキルを持っている様子。
「しかし、現代異能力バトルのお約束。異能力者の弱点は狙撃です」
どのような強力な力を持っていようが、狙撃で殺してしまえば問題ございません。狙撃に対応するタイプの
大人しく、死にましょう。
アトリの大鎌の先端が閃光し、【スナイプ・ライトニング】が迸ります。その光の弾丸は刹那のうちにスタークの頭部を貫通していきます。
ばさり、とスタークが力なく倒れます。
じわり、と遅れて血液が頭部からぴゅーぴゅー噴き出してきます。その様を目撃した盗賊たちは、一様に動きを硬直させているようですが……優秀そうな者が戦況を立て直します。
攻撃行動を取ったので、すでに【シャドウ・ベール】は解けています。
「あいつを殺せ!」
「死神さま! さっさといつものくれえ!」
盗賊の一人が叫んだ瞬間、彼らの肉体が闇色に飲まれていきます。あれは闇精霊の特殊なバフスキル――【ダークネス・バーサーク】でしょう。
付与対象の理性を奪い、その身体能力を異常に強化します。
涎を垂らした男たちが、一斉にアトリへ殺到します。その様だけ見ればゾンビ映画の詰み場面にも見えますけれども――ここはVRMMOの世界!
死神幼女が瞳を闇色に染め、悠然と一歩を踏み出しました。
理性なき戦士なんてくだらない。
振り下ろされた拳を、ひらりと体術で回避。掬い上げる軌道で首を両断し、返す刀で迫った槍使いも斬り殺します。
刃には【死導刃】が付与されています。
強制的なクリティカルにより、人体は容易く切断されていきますね。このアーツは対人の時が一番恐ろしい。
数人の後衛が矢を放ってきます。
もう【ケセドの一翼】は使用状況です。仮に矢が頭部を貫いたとしても、今のアトリは通常ダメージに変換してしまえます。
五分以内に引き抜けば問題ございません。
アトリだってチートみたいな強さがあるわけですよ。
蹂躙劇。
幼いアトリの肉体が舞う度、血飛沫と臓物が撒き散らされます。その【神楽】スキルも利用した舞踏は、さながら死をもたらす風のようでした。
五秒と掛からず、六人を斬り殺します。
アトリは無表情で淡々と死を振りまいていきました。さすがに盗賊たちも恐怖したようで、何かを喚いております。
何人かのプレイヤーが【顕現】しました。
ですが、いくら【顕現】したプレイヤーが強くて無敵だろうが、その契約者が竦んでいるようでは意味がありません。
普通にNPCを斬り殺せば良いだけでした。
「まったく」
と丸い球体状のプレイヤーが【顕現】しました。
スキル【顕現】にはいくつか種類があります。そのプレイヤーが纏うエフェクトを観察する限り、勝負を賭ける時に用いる【決戦顕現】ではありません。
むしろ、その逆。
長時間【顕現】できる代わり、ステータスにバフが乗らない、世界を歩くための【顕現】でした。
戦闘中に使うアーツではないです。
しかし、あえて使ったということは、何かあるということ。アトリも理解しているようですが、プレイヤーにダメージは与えられません。
「まったく、だ。狙撃で死んでしまうなんて……これは今後の課題としようかね。【致命回避】のスキルを後回しにするべきではありませんでした。まあいい……起きろや、スターク」
闇精霊が【アイテムボックス】から取り出したのは――蘇生ポーションでした。
私が錬金術で作ったものではなく。
あのイベントで手に入れた時の、完全バージョンの蘇生薬でした。スタークたちは第三陣ではありますが、この一ヶ月の間に第三フィールドにやって来たイベント参加NPCから強奪したのでしょう。
距離的に止められません。
スタークに蘇生薬が振りかけられます。アトリはすでに妨害を諦め【スナイプ・ライトニング】を詠唱しているようでした。
しかし、射線上に【顕現】したプレイヤーが立ち塞がります。
「……ああ、最悪の気分だぜ、死ぬってのはよお! なあ死神」
「だから、死神じゃねえって言ってんだろ。やるぞ」
「おう」
ならず者どもたちの
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