第69話 日常

▽第六十九話 日常

 晴耕雨読、という言葉がございます。

 晴れの日には畑を耕して、雨の日にはじっくり読書する様を言います。また、その生活様式をこそ称賛し、悠々自適だ、とする言葉ですね。


 元々、私は自由と社会からの解放を目論んで《スゴ》を開始しました。

 アトリも似たようなモノでしょう。


 その私たちにとって世界樹栽培に関する活動は、じつに小気味が良いモノでした。


 この辺りでここ数日の、私たちの活動を列挙していきましょう。


 朝、アトリが世界樹の世話をします。周囲の魔物を駆除したり、防壁を作ったりするのです。また、世界樹以外の植物も栽培しておりますよ。

 昼、着替えたアトリに勉強を教えていきます。スポンジのように知識を吸収していくアトリは、教え甲斐があって楽しいところです。すでに小学六年生の勉学は一通りこなします。

 夜、アトリとボンヤリします。私は読書したり、映画を観たりしていますね。基本、アトリは私を膝に乗せてニコニコしていました。また、一日の終わりには一緒にお風呂に入ったりします。


 入浴の概念ってゲームでは軽視されがちのようですね。


 無駄にリアル志向として疫病とかもあるようで気をつけたいところです。

 やはり、衛生って最強の疫病対策です。

 アトリにはよく洗うように言い付けていますが、それを守って永延と身体を洗ってしまいます。洗いすぎも良くないですし、何時間も入浴されていては「時間を無駄にさせた」気になりますからね。


 私が洗うことにより、どうにか調整しております。


 こういう時、便利なのが【クリエイト・ダーク】ですね。さいきんは栄養状態も改善されてきて、アトリの肉付きも年相応になりました。

 昔のようにガリガリのあばらを、痛ましく思うこともございません。


 幼女を洗ってるって、何らかの犯罪でしょうか……ゲームだしセーフ、ですよ、ね? 当方、邪神ですけど。邪な気持ちとかこれっぽっちもないです。

 信じてほしいですね。


「……神様」

「どうしました、アトリ?」

「良い感じ、です!」

「それは良かったです。こういうのも悪くないですね」

「です! はい!」


 アトリもスローライフの良さを知りつつあります。幼女が知る楽しみではないような気もしておりますが、いずれ知る喜びでしたら今知っても問題ないでしょう。


 読書に疲れたので、私はベッドで横になります。


 アトリも追いかけてきて、私をぬいぐるみのように抱き締めます。彼女は小さなルックスに反して温かいです。眠くなりますね。どうせ眠るならばリアルで……とは思いますけど。まあ、趣味・昼寝ならばVRでもよろしいでしょう。


 寝ました。


       ▽

 起きた我々は、気分転換に外に出ました。ロゥロが暴虐の限りを尽くした土地ですが、今や活気を取り戻しつつあります。

 草木が生え、世界樹に関してはすでにアトリの腰くらいの高さがあります。


 世界樹、なんて言っても現在は普通の樹木ですね。強いて言うなら欅に似ているような……それでも未知の植物ではあります。

 これが成長すれば邪世界樹のようになるのでしょうか?

 顔とか出てきたら嫌ですね……どうにか美少女にならないでしょうか。アトリのような美幼女が【造園】スキルも駆使して育てているのです。


 来い、美少女の果実!


「それにしても魔物があまり来ませんね」

「です。神様のお力……ですか?」

「いえ、これは世界樹の影響かもしれませんよ」


 当初、この森には大量の魔物がございました。それらを間引きし、魔物除けのアイテムなども駆使して生活していましたが……世界樹が育つにつれて敵が減少傾向にあります。

 良いことでしょう。

 アトリはやろうと思えば睡眠なしで活動可能です。高い【再生】と【孤独耐性】、HP増強手段である【天使の因子】による効果でしょう。


 しかし、やはり成長期の幼女でもあります。

 寝る時間は確保するに超したことはないですね。あくまでもNPCなので成長とかあるのかは不明ですけど、栄養状況でルックスが変化するのだからあるでしょう。


「これ、レイドボスになる、です?」

「あり得ますね。ですが、さすがに【オーナー】を攻めないでしょう」


 アトリは正式にシステムから【世界樹のオーナー】として認知されていますからね。それを攻撃してくるようでは、いったい、オーナーってというお話になってまいります。


 私が作成した【クリエイト・ダーク】製の鋏で、世界樹の幼木の剪定に掛かります。小さな枝をカットし、より良く成長するように仕向けるのです。

 アトリの【造園】スキルが活躍します。

 小枝を【鑑定】してみれば、どうやら【錬金術】の素材になるようです。数日の作業で数も揃ってきたので、そろそろ私の生産も開始して良い頃でしょう。


 設備は持ってきていますからね。


 私は世界樹の素材を使い、錬金を始めることにしました。


       ▽

【アトリの造園スキルがレベルアップしました】

【ネロの錬金術スキルがレベルアップしました】


 下品な表現をお許しください。

 馬鹿上がりです。アトリの【造園】スキルも、私の【錬金術】スキルも馬鹿みたいに上昇していきます。


 この世界樹は、どうやら生産系にとって重要のようです。

 素材としてのレベルが高すぎます。何回も失敗しますが、失敗の度にスキルレベルが上がっていく始末。


 しかも素材は取り放題(多分)です。


 あまりにもスキルレベルが上がっていくので、私は面白くなってしまいました。今や【錬金術】のスキルは69となっております。

 効率が良すぎます。

 また、不完全ながらに「蘇生薬」さえ完成いたしました。


「いつでも死ねる……です」

「あまり死なないようにお願いしますね、アトリ」

「はいです! 神様! 死んだら神様のところへいけますか?」

「アトリはいつでも私のところですよ」

「お……おお!」


 アトリが興奮して目をグルグルさせ始めます。

 今回の蘇生薬の効果は、一日につき一度きり、死後30秒ならば使用可能とのこと。蘇生された人物はHP1となり、またバッドステータス【瀕死】が与えられます。


 これは一週間、HPが1から増えなくなるデバフですね。減りはするようです。


 また、かなりの痛みも襲ってくるようです。基本、戦闘中に使うアイテムではないようですし、これを使う場面はもう負けと変わらないでしょう。

 ですが、さすがに高値で売れるはず。


「これ、ドロップアイテムではなく、生産アイテムだとバレたら面倒そうです。市場に降ろす時には気をつけましょう」

「はい! です。便利なアイテムたくさんです」

「ええ、面白いアイテムばかりですね。爆弾は攻撃手段にもなりますし、酸なども特殊な敵には有用そうです」


 素材の問題でポーションや爆薬などしか作れません。

 どうやら極めればホムンクルスなども作れるようですけど。今のところ、プレイヤーでホムンクルスを作成した人は居ないようです。

 まあ、秘匿しているだけかもですけど。


 ただ、ゴーレムは素材さえあれば作れるようになりました。

 楽しみです。

 私たちが生産職チートをするのも、もはや時間の問題でしょうね。……ちなみにシヲも世界樹を利用して木工スキルを上げていますよ。ベンチを作ったようです。暇な時間、シヲは無表情で座り続けております。


 ……かなり気にいっています?

 デザインを改良しようと提案しましたら、全力で無視されてしまいました。


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