第68話 世界樹のタネ

       ▽第六十八話 世界樹のタネ

 邪世界樹の弱点は、イベントの時に判明しております。あの時と同様にアトリは翁果実に向け、【玉兎の伐ぎょくとのばつ】を起動しました。

 HPをMPに変換し、いつもよりも多めに回っております。


 かつてよりも遙かに強化されているアトリです。

 如何に邪世界樹がレイド級ボスといえども、この火力には耐えきれなかったようですね。


『我は! 我が!』


 断末魔を上げ、邪世界樹が枯れ果てていきます。

 けれども、それがフェイントであることはご存じの通り。朽ちていった樹から、見る間に蔦製のドラゴンが編み上げられていきます。


 これは火力試練。


 アトリは躊躇なく、全ライフストックを消費した【死神の鎌ネロ・ラグナロク】を準備しております。

 膨大な闇を湛えた大鎌が、一息で薙がれます。


「万死を讃えよ【死神の鎌ネロ・ラグナロク】……クロス!」


 クロス!

 指輪【テテの贄指】を使うことにより、アトリはライフストックの消耗をなかったことに。二発目の全力をぶち込みます。

 十字の一撃により、蔦ドラゴンの大半のHPが消し飛んだご様子。


「……む。足りなかった」

「首がありませんでしたからね、しょうがないでしょう」

「はいです! 神さま!」


 中途半端な状態にて、蔦ドラゴンが起き上がりました。

 前回はこの状況になると同時、ジャックジャックが仕留めてしまいました。我々も何かをされる前に仕留めてしまいましょう。


「再召喚――【ロゥロ】」

『ガラららら! ら! ら!』


 ロゥロは耐久度が低い代わり、【アンデッド補正】によって復活速度が早くなっております。消費MPは多めなので、多用はできませんし、一日に呼べる回数にも限りはありますが。

 出現したロゥロがドラゴンの首を握ります。


『ガララララ』


 眼球のない眼孔に闇色の光が灯ります。

 ぐしゃり――という音がして蔦ドラゴンが地面に倒れ伏しました。そこにロゥロが執拗に攻撃を加え初めまして、やがて――


【ネロがレベルアップしました】

【ネロのクリエイト・ダークがレベルアップしました】

【ネロのダーク・オーラがレベルアップしました】

【ネロの再生がレベルアップしました】

【ネロの敏捷強化がレベルアップしました】

【アトリがレベルアップしました】

【アトリの鎌術がレベルアップしました】

【アトリの月光鎌術がレベルアップしました】

【アトリの造園スキルがレベルアップしました】

【アトリの光魔法がレベルアップしました】

【アトリの閃光魔法がレベルアップしました】

【アトリの神楽がレベルアップしました】

【アトリの口寄せがレベルアップしました】

【アトリの天使の因子がレベルアップしました】

【シヲがレベルアップしました】

【シヲの擬態がレベルアップしました】

【シヲの奇襲がレベルアップしました】

【シヲの拘束がレベルアップしました】

【シヲの音波がレベルアップしました】

【シヲの鉄壁がレベルアップしました】

【シヲの触手強化がレベルアップしました】

【ロゥロのレベルがアップしました】

【ロゥロの攻撃上昇がレベルアップしました】

【ロゥロの破壊術がレベルアップしました】


 勝利したようです。

 まだ死体に攻撃を加え続けるロゥロ。アトリは【口寄せ】スキルでロゥロを消してしまいます。

 報酬まで破壊し尽くすのがロゥロですからね。


 破壊力だけは高いのですが、それ以外は壊滅的です。あらゆる意味で。どうにか素材は残ったようです。

 重要アイテムは【アイテムボックス】に自動で転送されたようですしね。


「ちょっと面白そうなアイテムを入手しましたよ」


 手に入れたアイテムは【世界樹のタネ】というようです。

 一切の詳細は不明です。どういうアイテムなのかも解りませんけれども、これは攻略サイトにも掲載されていないアイテムのよう。


 未ドロップなのか、秘匿されているのか。


 個人的には後者であれば嬉しいですね。秘匿必須のアイテムのほうが強力でしょう。


 鑑定したところ、世界樹のタネだということだけは理解できました。これで世界樹を育てることが可能になるのかもしれません。

 世界樹の素材は良い錬金術の素材になります。

 いよいよ、私の錬金術が実用段階に至るかもしれませんね。


 そう考えれば期待が持てます。

 我々は軽く探索してから、報告のためにギルドへ向かいました。


       ▽

 ギルドマスターの部屋にて、アトリは座ることもせずに報告を終えました。さっさとご飯に行きたいようです。

 マスターは嫌な顔ひとつせず、うむうむと頷きました。


「ほう。レイド級のボスか。それは面白いな……報告ご苦労だったね」

「うん」


 どうやら任務クリアのようです。

 我々としてはレイドで遊べただけで十分な報酬でした。ですが、今回はそれに増してクエスト達成の報酬まで得られるようです。


 まあ、現金と功績値ですけど。


 討伐されたボスなどは、しばらくすると復活するようです。攻めてくることがなくなるので、地元の人たちからすればありがたいようですね。

 あの邪世界樹は動くことはできずとも、無限に配下を生み出せるようでした。


 一般人から見れば脅威だった……かもしれません。


 まあ、あの地下からどう出てくるのだ、という問題はありますけれど。


「アトリ、例の件を訊いてください」

「神が言っている。土地がほしい」

「土地かい?」とギルドマスターが首を傾げました。


「その歳で定住、安定はつまらないが……まあ、そういう冒険者は一定いるし、ギルドとしては強者の定住は助かるのだろう。どういう土地がほしい。Aランク冒険者のためならば、あるていどの融通は利かせる」

「良いの?」

「うむ。問題行動を起こさぬA級ならば、の話だ」

「……ボクはけっこう問題児」


 アトリは優等生だとは言えません。

 闇奴隷商人の時はクエスト内容を変更させ、臨時教官はクビになりましたからね。


 ギルドマスターが微笑みます。

 まるで幼子に慈愛する教育者のような笑みでした。


「問題を起こす奴は、うちらに何も気づかせない。その点、あんたは自身の権限を行使しているだけに過ぎないし、場合によっては報告もしてくれる。本当の不良はクエストの内容に口出しせず、勝手に自己判断する者だな」

「ボクは優秀」

「そう。まあ土地についての希望を訊こうか。掛けたまえ」

「良い。すぐご飯に行く」


 それから、私たちはマリエラで土地を購入する件について詰めました。


       ▽

 私たちが購入したのは、マリエラから一時間ほど先にある、森の奥地でした。人類が勝手に設定した領地的に、ここはマリエラの持ち物らしいですね。

 城壁内でないのは、私たちが「住む」目的で土地を購入していないからです。


 アトリが召喚したロゥロが、周囲の環境を破壊していきます。


 弱い魔物や樹木、岩などを拳で砕いてくれました。


 ロゥロを消した後、土地に出現した空白地帯に立ちます。ほどほどのスペースが確保されましたね。

 私の前には麦わら帽子を被ったアトリが居ます。彼女は購入したばかりのオーバーオールを着て、首からは真新しいタオルを掛けています。


 私のふわふわした精霊体も、一応、お揃いの麦わら帽子を被っています。


「では、さっそくタネを植えてみましょう」

「はい! ……神様、スキルが使える……ですっ!」

「何の……もしや【造園】ですか?」

「さすがは神様です! 最初から知っていたのです、か」

「ええ、も、もちろんですとも」


 どうやら【世界樹のタネ】を植える作業も、アトリならば通常よりも上手くやれるようですね。皆様、意外に思われるかもしれませんが、生産系スキル【造園】は大鎌強化スキルではなかったようです。

 計算通り、でした、おそらく。


「植える、です!」


 アトリは【クリエイト・ダーク】で作成したスコップで穴を掘ります。そこに慎重にタネを安置した、その時でした。


【システム・メッセージです。契約者アトリが世界樹のオーナーに登録されました】


「?」


 首を傾げるアトリから、ぽさりと麦わら帽子が落ちます。それを【クリエイト・ダーク】で受け止め、頭に乗せてやりながら頷きます。


「世界樹の管理者になった、ということでしょう。メリットは不明瞭ですけれど。ともかく、このタネを生長させていきましょう。しばらく留まりますよ、アトリ」

「! ずっと一緒、です!」

「私がこっちに留まるではなく、アトリがこの土地で待機するという意味ですよ」

「……?」


 アトリには難しかったようです。

 しかし、まあ、アトリが居るということは、私もここに留まるということではあります。すでに【クリエイト・ダーク】で家は展開済みです。


 この土地にしばらく留まることは、決して不可能ではありません。


「家の飾り付け、やっていきましょうか」

「はい! 神さまとボクのお家、です!」


 私が【クリエイト・ダーク】で作成した家は、あまり活気がございません。照明とかもありませんから、別途、お店で購入したモノを配置していく必要がございます。

 課金で入手したソファ、ベッド、棚なんかを設置。

 入浴施設的なモノもございますけど、これの使用には大量の水が必要です。毎日の使用は難しいでしょうね。


 アトリは土仕事での汚れを落とし、着替えてからソファにぽふんと腰掛けます。

 私はその横に安置され、じっと読書の時間を過ごしております。なお、周囲の警戒はシヲと【弱蔦犬】たちが行ってくれています。


 蔦犬は弱いですし、なんの役にも立たない……ように見えて死ぬ仕事がありました。彼らが消えれば、何かが迫ってきた証ですね。

 ゆったりと時間を過ごします。

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