第41話 気高い、と思った
▽第四十一話 気高い、と思った
戦場が爆炎で包まれます。
エルフたちが放つ多様な属性の魔法によるモノです。
さすがのアンデッド王子も防戦でいっぱいいっぱいのご様子。意外と活躍しているのがレレレさんでしょうか?
彼女は持参したであろう魔道具で攻撃を仕掛けています。
ベタベタするお餅を射出する銃。
足場をヌメヌメにする水鉄砲。
触れると爆発する折り紙の鶴。
音を聴くと弱いバフの掛かるハーモニカ。
個々個々では地味ですし、なんで作ったのでしょうと首を傾げたくなる魔道具たちですが、集まれば地味に戦況に響きます。
こういうタイプは敵に回すと厄介でしょう。
実際、アンデッド王子は攻めづらそうです。
そこをアトリ、シヲ、セッバスの前衛組みが抑えています。
「【再生】スキルがある以上、敵のMPはぐんぐん回復しています。もっと火力を!」
「もっと! 神は言ってる!」
「全力ではありますが……」
アンデッドゾンビはしぶといです。
アトリの【殺迅刃】の効果により、おそらくアンデッドゾンビは敏捷値が半分くらいになっています。
それが理由で攻防で有利を取れています。
敵がカンストでも戦えている一番の理由です。このアーツはジャックジャックとの経験により、一番に厄介なのが敏捷で圧倒されていることだと学んだがゆえに取得しました。
足を殺せば、敵を殺したようなモノ。
まさしく【
ですが、敵は【再生】で状況を拮抗させてきます。中途半端な攻撃はまったく無駄、アトリと戦っている雑魚の気持ちがよく解りますね。
アンデッド王子がセッバスに貫かれながら、詠唱を完了しました。
『【ブラック・ボール】』
戦場に三つ目の【ブラック・ボール】が設置されます。どうやらクールタイムのある魔法アーツらしく、連射されることはないようですが……厄介です。
一応、切り札たる【
アトリが果敢に近接戦闘を挑みます。
神楽のアーツ【奉納・天降ろしの舞】により、彼女の敏捷値はアンデッド王子を上回っております。このアーツは一度発動しておけば、数時間ほど持続するバフです。
効果量は少ないのですが、持続が長く、他の敏捷バフと共存するところが強みです。
「【スピード・アップ】」
光魔法の【スピード・アップ】を使い、一瞬でアンデッド王子の後ろを取ります。鎌を片手で振るい、首を一直線に叩き落としにいきます。
ですが、それよりも早く、アンデッド王子の首が一人でに落ちます。
アトリの斬撃が空かされた時には、首は自動でくっついています。
しょうがなく、アトリは王子の背中を蹴り付けて距離を取らせました。この妙なテクニックによりクリティカルヒットを叩き出せない事情があります。
「こうなってはしょうがありませんね」
「面倒。ですっかみさま」
首を攻撃できない以上、アトリの役割はタンクになります。
しかし、後衛組のエルフたちが火力を出すためには、あまり前に出ていてもよくありません。巻き込まれてしまいますからね。
ソロに特化したアトリの悪いところが出ています。
「MPはすでに十分にチャージされたようですしね……持久戦に切り替えます」
「はい……【奪命刃】」
アトリが前に飛び出し、アンデッド王子と壮絶な斬り合いを始めます。お互い再生能力を頼りにした、真っ向からの斬撃戦です。
防御なんてしません。
首や心臓といった弱点への攻撃だけ、私がスキルで防いでいきます。
シヲやセッバスが時折、介入することによってダメージ差を埋めます。
三分間の殺し合い。
削り合い。
先に消耗戦に根をあげたのは、アンデッド王子のほうでした。
『ああああああああああああああああああああああああああ! 【ダークネス・プレッシャー】!』
「っ! 【玉兎の伐】!」
空中で自身の肉体を固定し、縦回転で攻撃するアーツです。
アンデッド王子の隻腕を両断しますが、それさえも敵は再生させてしまいます。再生スキルが育ったらこうなるんですね。
膨大なMPが必要そうですけど。
一瞬、再生で動きを止めた王子の首が、アトリの大鎌によって跳ね飛ばされます。【殺生刃】で九割のHPを削った、決定的なクリティカル・ヒットです。
斬撃後。
俯き加減だったアトリが顔をあげれば、真白の髪の下、紅の瞳がグルグルと狂信に回っていました。
「神さまの狙い通り。神様を信じて持久戦に耐えるくらい、ボクには簡単」
「さすがです、勇者さま! 詠唱最大! 【エンプレス・フレア】!」
王女殿下の爆撃魔法が叩き込まれます。王子の腹に大穴が開きました。
ようやくアンデッド王子が地面に足をつけます。
『ここで……終わるの、か。まだ……まだあ!』
おそらくMPが尽きたのです。
再生は回復した分、MPを失うスキルですからね。いくらアンデッド化してボスとなったからといって、リソースは無限ではありません。
『来い! 神器【
宝物庫、最奥。
鎮座していたはずの、台座に突き刺さった剣が一人でに引き抜かれました。引き抜かれた剣は眩い光を発しながら、その姿を変形していきます。
「アトリ!」
アトリがアンデッド王子に止めを指すよりも一手早く。
宝剣が変形を完了しておりました。
剣は姿を変化させて、巨大な鎧となっておりました。それがアンデッド王子に装着され、彼の肉体をアトリの大鎌から守りました。
鎌が弾かれ、蹈鞴を踏むアトリ。
ぐらり、とアンデッド王子の腐った目玉が揺れました。直後、アトリの腹に拳が深く突き刺さり、その内容物をど派手にぶちまけました。
「アトリっ!」
スキル【即死回避】が発動しました。
どさり、と床に捨てられるアトリを守るために、セッバスが薙刀を突き刺すように突進していきます。
しかし、アンデッド王子の拳は振りかぶられています。
おそらく【即死回避】系のスキルを持たぬセッバスでは――間に合わない。
「させません、お兄様!」
覚悟を決めていたセッバスの背が、とある少女によって突き飛ばされます。その少女の名は――レメリア・シュー・エルフランド。
わずかに怯える混じった瞳で、王女殿下が叫びました。
「させません。貴方にエルフは殺させません」
そうハイ・エルフのお姫様は腕を広げ、王子の拳を――受けませんでした。
『「あああああああああ!』」
王子が絶叫を上げ、振り上げた拳を――自分の顔面に叩き込みました。ぐちゃり、と潰れた顔面は即座に再生してしまいます。
その腐った瞳に、微かな意志が映ります。
「わ、私はあ! 守り切ったあ!」
「お兄様!?」
「おまえは危険な魔物に出会った時……目をぎゅっと瞑る」
王女殿下がハッとして目を見開きます。王子に殺されることを確信したその時、たしかに彼女は目をギュッと片目だけ閉じました。
王子は震える声で、しかし、優しげに呟きます。
「だが、おま、えは……両目は瞑らぬ。片目だけでも抗おうとする。その姿を気高い、と思った。この数百年、おまえの気高さを思い出し、負け、なかっ、た」
「……ご立派でした、お兄様」
「さあ、これより放つは――神器の一撃。乗り……越えてみせよ! これ、を、抑えて、おくのも、限界だ!」
女神の神器。
その姿は例えるのでしたら――パワードスーツでしょう。
女神さま、世界観を無視しすぎなのでは?
王子の目が虚ろに戻っていきます。限界が来たのでしょう。
「来い」
アトリが大鎌を振り上げながら、小さく返します。攻撃力強化のポーションを飲み干し、そのガラス瓶を投げ捨てます。パリン、と清涼な音が鳴り響きました。
口元を袖で拭い、宣言します。
「女神より神のほうが強い。ボクは神器なんかに負けないから」
『この場から去れええええええええええええええ!』
女神の神器。
偽神の使徒。
両者が全力で――ぶつかり合いました。決着は近いようです。
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