第42話 神器回収

▽第四十二話 神器回収

「開け【死を満たす影】……万死を讃えよ! 【死神の鎌ネロ・ラグナロク】」


 すべてのライフストックを消費する、極大の切り札が大鎌に付与されました。


 黒と白のオーラを大量に発する、小さなアトリ。

 白銀の神気を纏う、大鎧の王子。


 両者は同時に歩き出し、そして、消えるように大加速。

 両者の視線が強く交差します。火花散る中、距離は一瞬で詰められました。数億分の一秒の中、王子の拳とアトリの大鎌が同時に振るわれました。


 すでにアトリは【即死回避】も【ダーク・リュージョン】もございません。敵の攻撃は防ぐか回避するかしかないはずなのに――真っ向から攻撃しました。

 狙いは――斬首。それだけ。

 口を「一」の字に食いしばったアトリは、腹に拳を炸裂され、そのHPをすべて失います。ですが、死の間際――刃は王子を斬り裂いておりました。


 スキル【首狩り】【弱点特攻】【殺生刃】【吸命刃】【魂喰らい】【月光鎌術】【鎌術】【造園】――すべてが乗った特大ダメージが王子のHPを全損させました。


 まさしく死神の一撃。


 しかし。代償は大きく。

 アトリは言葉もなく、命を失ってしまいました。


【ネロがレベルアップしました】

【ネロの闇魔法がレベルアップしました】

【ネロのクリエイト・ダークがレベルアップしました】

【ネロのダーク・オーラがレベルアップしました】

【ネロの再生がレベルアップしました】

【ネロの鑑定がレベルアップしました】

【シヲがレベルアップしました】

【シヲの擬態がレベルアップしました】

【シヲの奇襲がレベルアップしました】

【シヲの拘束がレベルアップしました】

【シヲの音波がレベルアップしました】

【シヲの鉄壁がレベルアップしました】

【シヲの触手強化がレベルアップしました】



 ・

 ・

 ・


 戦場が沈黙に満たされます。

 誰もが息を呑む中、私は【アイテムボックス】からイベントで入手した蘇生薬を使用しました。

 アトリのHPが1だけ回復し、息を吹き返します。


 ばさり、とアトリが身を起こします。目をパチクリとさせています。


「復活」

「もう少し後先を考えましょうね、アトリ」

「勝った。です……神様」


【アトリがレベルアップしました】

【アトリの鎌術がレベルアップしました】

【アトリの月光鎌術がレベルアップしました】

【アトリの造園スキルがレベルアップしました】

【アトリの光魔法がレベルアップしました】

【アトリの閃光魔法がレベルアップしました】

【アトリの孤独耐性がレベルアップしました】

【アトリの神楽がレベルアップしました】

【アトリの口寄せがレベルアップしました】

【アトリの詠唱延長がレベルアップしました】


 こうして我々は神器を回収しました。


       ▽

 王子の亡骸は残りませんでした。

 勝利アナウンスが鳴り響くと同時、彼の死体は灰となってしまいます。やがて風に流された灰は、すべてが何処かへと消えてしまいました。


 はらり、と膝をついた王女殿下が一滴の涙を流します。ですが、次の瞬間には凜々しい顔立ちになって、神器を手に取りました。

 鎧は剣の姿に戻っております。


「これが神器――【世界女神の慈悲ザ・ワールド・オブ・カインドネス】……使用者に強力な身体能力を与える鎧ですか」

「ボクより弱い」

「そ、それはそうですね……アトリさま」


 王女殿下、やや引き気味。

 自分の命を賭けるどころか、捨てる前提での攻撃ですからね。その瞬間さえもまったく躊躇がありませんでしたし、むしろ、殺されながらも平然と殺しに行きましたからね。

 マジ、アトリ、死神。

 殺せないくらいなら死んだほうがマシ、というスタンスでした。


 これにてクエストはクリアでしょう。

 はて、報酬はいずこ? もしかしてNPCエルフたちが秘密兵器を手に入れました、ということが報酬なのでしょうかね?


 私は何度もチラチラ、とエルフたちを見つめます。

 しかし、彼らは王子を失った悲嘆や神器を入手した高揚、強敵から生存した喜びでいっぱいのようです。


 妙にリアリティのあるゲームの悪い所が出ています。


 と、棒立ちのアトリに対し、おずおずと王女殿下が提案してくださいます。


「アトリさま、貴女はこの件の功労者です。己が命さえも省みない働きにエルフは感謝いたしますわ。ですから、この宝物庫にあるモノをひとつ差し上げます」

「ひとつ」

「……ふたつ」

「ふたつ」

「……み――ふたつです」

「そう」


 アトリがまさかの交渉上手を発揮したことにより、エルフの王族に伝わる秘宝をふたつも入手できるようです。

 これは……最高でしょう。


 このゲームはハクスラの色が強い、という懸念が蔓延っています。キャラのレベルアップが意外と早いですし、契約NPCによっては最初からカンストですからね。

 装備を集める、という強さの求め方になります。


 つまり、エルフの王族が確保しているアイテムは、全部が素晴らしいもののはずです。


 悩み甲斐がありますね。

 早速、私とアトリ、シヲは宝物庫を探索することにしました。まあ、戦闘の余波でボロボロになっていたり、そもそも【ブラック・ボール】に吸い込まれて消滅したモノもあります。


 こんなことでしたら、戦闘が始まったと同時に【アイテムボックス】に格納しておくべきでした。


       ▽

 三時間ほど探索させてもらいました。

 エルフたちは黙って待ってくれています。というよりも、万全の状態のアトリが随行しなくては危険だからでしょう。


 神器も使用時にデメリットがあるらしく、常用はできないようですし。


 エルフ族の秘宝をどうにか選択しました。


 魔指輪【テテの贄指】 レア度【エピック】

 レベル【20】 

 運【50】 耐久【1000】

 スキル【復元】【贄指】【クリティカル強化3%】


 この【テテの贄指】は木製の指輪となっております。その効果についてですけれども、何らかのデメリットスキルやアーツなどのマイナス効果を一日一度だけ無視する、という能力があります。


 検証はまだですが、使い勝手は良さそうです。


 最悪【殺生刃】に適応するだけでも強いです。99%を代償にしても、消費HPが一度だけゼロで済むのは安定性に寄与します。戦略が広がりますね。


 次に取得しましたのは、靴です。


 靴【アイクの翼靴】 レア度【エピック】

 レベル【58】 

 敏捷【70】 耐久【1000】

 スキル【安全靴】【空中跳躍】【HP強化2%】


 この靴の効果は単純に言えば、MPを消費して二段ジャンプが可能になる靴です。あと悪路でも滑りにくくなるようですね。

 二段ジャンプも重要なスキルです。

 私の【クリエイト・ダーク】モードステップでも擬似的に可能ですけど、自分でも気軽に飛べるようになるのは便利でしょう。


 報酬が美味しすぎました。

 靴を履き替え、指輪を装備したアトリは満足げです。前回に入手したマントも合わせて、ようやく初心者装備セットを脱出しつつあるようです。


 上機嫌なまま、アトリはエルフたちと合流することになりました。

 まだ目の赤い王女殿下が鼻声で声を掛けてきます。


「アトリさま、終わりましたか?」

「声、変。病気?」

「いえ、違いますわ……少しだけ気持ちに整理をつけましたの」

「?」


 まあ、アトリにとって「家族が死んだ悲しみ」というのは理解からもっとも遠いところにある感情でしょう。

 不思議そうに首を傾げております。

 王女殿下は気づいた様子なく、うしろに設置した鍋を指さします。


「お食事にしましょうか。我々もクールタイムの長いスキルやアーツを使っています。アトリ様の【致命回避】やネロさまの【ダーク・リージョン】を考慮すると明日まで動かないほうが良いでしょう」

「うん。ご飯、食べる」


 嬉しそうに駆け出すアトリ。


「ちょ、ちょっと待ちなさい! アトリ!」


 アトリの前に文学少女――レレレさんが立ち塞がりました。

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