第40話 常闇魔法の使い手

▽第四十話 常闇魔法の使い手

 鑑定を使いました。


名前【メルマ・シュー・エルフランド】 性別【男性】

 レベル【100】 種族【ハイ・エルフ】 ジョブ【終末騎士】

 魔法【常闇魔法100】

 生産【鑑定不可能】

 スキル【再生100】【孤独耐性100】【鑑定不可能】

    【鑑定不可能】【鑑定不可能】【鑑定不可能】

    【自己呪術100】【アンデッド補正】

称号【間に合わぬ者】

固有スキル【常闇剣術】


 スキルはほとんど【鑑定】できませんでした。

 ただし、カンストした【再生】を取得していることが判明します。かなり厄介な能力でしょうね。


『侵入者よ、去れ! ここはエルフの希望を担う場所! 去れ去れ去れ去れ去れ、去ってくれええええええええええええええええ!』


 頭を振り乱しながら、腐敗した肉体に似合わぬ美声が悲痛に響きます。


 大剣による剛撃に、セッバスがするりと入り込みます。剛剣を薙刀のアーツで器用に受け止め、その動きを一瞬、止めてしまいます。

 そこに王女殿下の【炎魔法】が炸裂しました。

 燃える王子の肉体でしたが、即座に炎は掻き消されてしまいます。


「大鎌アーツ【殺迅刃さつじんば】」


 大鎌のアーツ【殺迅刃】が鎌刃を覆います。このアーツの能力は刻んだ対象の敏捷を減らしていく、という効果がございます。

 アトリの大鎌が王子の身体を薄く斬り裂きます。


 やはり【首】でなくては、火力が不足しているようです。

 対象がアンデッドなので【月光鎌術】は相性がよろしいのですが……如何せん、まだ統合進化したてでスキルレベルが不足しています。


『常闇魔法――【ブラック・ボール】』


 王子が魔法を放ちます。

 それは純黒の球体でした。その球体は誰を狙うでもなく、よく解らない場所に設置されました。首を傾げたアトリが――黒球に引き寄せられています。


「っ! アトリ、絶対にその球体に触れないでください」

「うん。はい!」


 アレは小規模のブラックホールのようです。無論、本物のブラックホールが発生したのでしたら、この星が滅んでいるでしょうけれども、アレはそれに近い性質を有しているようです。

 強烈な吸引能力。

 そして、アレに触れた魔法や石片の消滅――絶対に触れられません。


「っ、戦い、にくい」


 吸われることにより、アトリは走ることができません。

 王子がセッバスを力で吹き飛ばし、体軸を崩したアトリに跳んできます。巨大な大剣には闇が纏わり付いています。

 アトリは咄嗟に跳躍して回避しようとしましたが、空中に位置した瞬間、【ブラック・ボール】に抗うことができなくなりました。


「【クリエイト・ダーク】モードステップ」


 空中に闇の壁を生み出します。

 アトリは援護を確信していたようで、見ることもなく、その足場を蹴り付けています。向かう先は大剣の叩きつけで無防備な王子の元です。


 目にも止まらぬ三連撃。


 アーツ【殺迅刃】の効果によって、王子の速度はどんどんと殺されていきます。


『常闇剣術アーツ――【ダークネス・プレッシャー】!』


 大剣を構えただけで、闇の剣圧が放たれました。破壊力を伴った吹き飛ばし攻撃のようです。それを真っ向から受けたアトリは、凄まじい速さで吹き飛ばされます。

 面倒な。

 目的は【ブラック・ボール】への叩き込みでしょう。


 生前はこれをメインの戦術にしていた疑惑がありますね。強力なコンボです。


「ですが、アトリには私だけでなく、シヲもついているのです」


 シヲが触腕を使ってアトリをキャッチします。かなりの速度で飛ばされていたので、かつてのシヲの触腕でしたら千切れていたかもしれません。

 しかし、【鉄壁】と【触手強化】で強化された今。


『――!』

「よくやった。シヲ。ちょっと気持ち悪くない」

『――……』


 受け止められたアトリは【ハウンド・ライトニング】の連射を始めました。スキル【再生】があるのでMP消費はかなり抑えられます。

 もちろん、私のサブアームで【万物、厭忌の朽枝】も装備させています。


 この長杖【万物、厭忌の朽枝】はかなり良い武器となっております。


 長杖【万物、厭忌の朽枝】 レア度【レジェンド】

 レベル【87】 

 魔法攻撃力【696】 耐久【800】

 スキル【魔法攻撃力補正】【林檎爆弾】【生成・弱蔦犬】


 さすがはレイドボスからのドロップですよね。

 魔法攻撃力の値がとんでもありません。正直、大鎌【死を満たす影】は固有スキルが強いだけで、武器としての性能はいまいちなのです。


 アトリがもっとも火力を出せるのは魔法攻撃だったりします。

 単純な攻め手では不足すると理解したのでしょう。アンデッド王子が大剣を掲げ、腐った唇で叫びます。


『常闇魔法【下位アンデッド召喚】』


 途端に二十を超えるアンデッドたちが王子に侍ります。

 しかし、すでにアトリは攻勢に移っています。大鎌【死を満たす影】は攻撃力こそ低いものの、そのスキルに関しては強力無比です。


 大鎌【死を満たす影】 レア度【ユニーク】

 レベル【10】 ライフストック【589】

 攻撃力【100】 耐久【230】

 スキル【復元】【魂喰らい】


 ライフストックは十分です。

 スキル【魂喰らい】の発動準備が完了しています。アトリは大鎌を腰だめに構えながら、私が考えた解除キーワードを口にします。


「開け【死を満たす影】! 万死を讃えよ――」


 アトリの大鎌に巨大な闇が重なります。

 一挙に刃渡りが十メートルを超越した、孤高のアンデッドを浄化せんとする慈悲の大鎌が完成しました。

 強大な闇を振りかぶり、死神幼女が絶叫します。


「――【死神の鎌ネロ・ラグナロク】!!」


 一撃。

 薙ぎ払うような一撃により、召喚された二十を超えるアンデッドがぶった切られます。大元たるアンデッド王子さえも、その肉体を真っ二つに切断されています。

 今や【死神の鎌ネロ・ラグナロク】は【月光鎌術】に至ることによって強化されています。付与されている効果は光です。


 特攻でしょう。


 首に命中させなかったので最高ダメージではありませんが、瀕死にはできたでしょう。


 ですが、


『……!』


 アンデッド王子は瞬時に肉体を再生させました。スキル【再生100】が悪さをしているのでしょう。

 無傷の姿でアンデッド王子が大剣を構えます。


 ただし、MPは大きく消耗したはずです。攻めるならば、今!


「アトリ、全員に通達を! ここで攻めきります!」

「神は言ってる。全員で攻める!」


 おお、とエルフたちが喝采をあげ、火力を集中させ始めます。ボス戦は佳境を迎えようとしていました。


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