第4話 家族を殺すために強くなろう!

▽第四話 家族を殺すために強くなろう!

 グルグル目のアトリは、祈る聖女のように手を合わせて、何度も私のほうを拝み倒します。何度も口々に、


「神様ありがとうございます。神様ありがとうございます。神様ありがとうございます」


 と呟き続けています。

 しかし、今は感謝の言葉よりもプレイを優先させてもらいましょう。


「アトリ、私は神の力によってジョブを変更できます。新しいジョブは何にしますか?」

「ボクは、神官、が良い……です」


 アトリはボクっ娘のようです。

 と思いながらも、私は大きく頷きます。頷くと言いましても、黒い球が上下に揺れるだけなんですけどね。


「では、神官でいきましょうか」


 アトリのジョブを変更します。 

 神官はMPと魔法攻撃力に補正がかかる職業となっております。このゲームは攻撃魔法も回復魔法も同じ数値で計算するらしいですね。


 また、神官の隠しアビリティ(ステータスに表示されない特殊効果)は回復能力上昇、となっております。

 私は『HP自動回復』『MP自動回復』を持っているので効果的です。


「スキルもひとつ選択できますよ。どうします?」

「神様に、決めてもらいたい、です……」

「私ですか? そうですねえ」


 朗報である。

 プレイヤーの中には「NPCに前衛やってほしいのに魔法補助のスキルばっかり勝手に取られる!」みたいな人も多い。

 選ばせてくれるアトリはとても良い子ですね。


「……まずは武器がほしいですから。鎌……ですかねえ」


 近くにあるのはゴブリンが落とした棍棒。

 それからアトリが持参していた鎌くらいなのだ。


 剣や斧は村から盗まねばなりません。

 しかしながら、アトリの台詞に鑑みれば、彼女に快く道具を貸し与えてくれる人はいないでしょう。

 もっと幼女に優しくしなさい!


 と、その前に訊くことがあるのでした。


「アトリ、貴女は魔法はどうしますか? 光魔法に適性があるようですが」


 魔法アーツはスキルレベル1で1つ、それ以降は10レベル毎に1つ取得可能です。要するに、最終的には十一個の魔法を取得できる、ということだと思います。

 だというのに、まだアトリは魔法を取得していないのです。


「魔法は」アトリは俯いてしまう。「誰にも教えて、もらえなかった……です」


 パッと顔を上げ、アトリは輝くような笑みを浮かべる。


「ですから、ぜんぶ! 神様に決めて、もらえる……です」

「え、ええ。良かったです、ね……うん」


 えへへ、と嬉しそうに微笑むアトリ。

 どうやら好感度がカンストしたようです。今まで虐げられてきた日々、唯一、彼女を良い意味で特別扱いした私。

 力を授け。

 彼女がずっと秘めていた、悪しき欲望を肯定した……というのが私です。


 そろそろゴブリンの死体の真横がキツくなってきたので、私たちは少しだけ場所を移動することになりました。


       ▽

 移動先は巨大な岩でした。

 その上に座って、アトリはご機嫌な様子ですね。岩の外に足を出し、プラプラと揺らしている姿は幼女のよう(幼女です)。


「魔法、なににします、か?」

「選び直しは不可能です……悩ましいですが」


 光魔法は難しい、というのが掲示板での結論でした。

 光魔法で可能なのは「回復」「バフ」「攻撃」「拘束」「防御」……と多種多様。どれに特化しても強力らしいですが、満遍なくは微妙になるかもしれない、とのことです。


 ……


「では、レベル1で『フラッシュ』の魔法を取得してもよろしいですか?」

「解った。です、神様」

「取得しましたよ、アトリ。使いこなしてくださいね」


 これは掲示板では評価の低い魔法でした。

 地味ですし、あくまでも光るだけの魔法ですからね。派手に攻撃したり、支援したり、回復したりするのに比べてつまらないです。


 効果も不確定です。

 ですが、これが剣と魔法のファンタジーと考えれば要らないですが、狩りゲーや銃撃系ゲームでしたら絶対に強くないですか?


 いつでも低コストで使えるフラッシュ・バンですよ。


 まあ、攻撃や回復、支援のほうが単純に強いとは思いますがね。

 アトリは嬉しそうに『フラッシュ』を使います。

 まぶしっ!


「近接系の武器として『鎌術』を取得してもらいましょうか」

「はい、です」


 私は契約補正で『力』が成長しづらくなっています。しかし、それでも近接スキルは必須のように思うのです。

 だって魔法使いが接近されたら死亡確定って、厳しくないですか?


 何度も死ねるのでしたら特化一択ですけど。

 ……でしたら『力』にマイナス補正をかけるなよ、とご指摘されたら沈黙です。だって闇精霊したかったんですもん。


 耐久度や敏捷、幸運を削るの、怖かったんだもん。

 ……成人男性の「だもん」ほどに悍ましい言葉はございません。自分で恐怖を覚えます。さすがは闇精霊、といったところでしょうか。


「どうです、アトリ? 鎌の調子は」

「い、良い感じ……です! 神様!」


 ぶんぶん、と鎌を振り回すアトリ。

 凶暴なカマキリのようですね。小ぶりな鎌ではありますが、なんだか様になっているような、なっていないような?


 準備は整いました。

 レベルアップ、始まりますよ。


       ▽

 ゴブリンの群れに対し、アトリが単独で突貫します。

 私は【クリエイト・ダーク】で彼女の弱点部位を守ります。首、胸などを質量を持った闇で覆っています。


 五体のゴブリンは獲物の登場に喝采をあげましたが、即座に悲鳴に変化しました。

 一体がアトリの目にも止まらぬ斬撃で、首をあっさり落とされたからです。ゴブリンのレベルは十くらい。


 アトリの膂力で一撃死、というのは考えづらいのです。


 が、じつはこれ『鎌』のスキルだったりします。

 スキル『鎌術1』で取得したアーツ(技のことです)は【首狩り】です。首に対する攻撃の威力を5倍にし、さらには対象の耐久(防御力)を無視します。

 格下の敵の場合、即死させる効果もあるみたいですね。


「思う存分に暴れて良いですよ、アトリ」

「は! い! で! す!」


 回転するような大振りの一撃。

 一体のゴブリンが首を両断され、一体は胸を深く切り裂かれています。血飛沫をあげるゴブリンたちは、慌てたように攻勢に転じようとしています。


 そこへ!


「『フラッシュ』!」


 光属性のアーツが炸裂。

 閃光によって目を焼かれたゴブリンが動きを止める中、アトリだけは当然のように突撃しています。

 無事だったゴブリンの首を切断していく。


 無表情で首を狩るアトリの髪が、風になびきます。クールですね!


「全滅させる、です!」

「残り負傷1、無傷が1ですよ、アトリ」

「はい、です!」


 もう一度、すかさずの『フラッシュ』を放ちます。ゴブリンは警戒していたのでしょう。目を閉じてデタラメに棍棒を振るい、アトリの接近を拒絶しています。

 悪くない判断です。

 良くはないですけどね! 何故ならば、


「闇魔法アーツ『ダーク・ボール』!」


 私が居るのです。

 闇の魔法が二発、炸裂していきました。闇の砲弾はゴブリンの身体を打ち、その華奢な肉体を地面に殴り倒しました。


「ぎゃ!?」


 悲鳴をあげたゴブリンは、自分がどうなったのかは理解できていないご様子。そこにアトリが鎌を投げ、敵の首に直撃させました。

 ゴブリンの首が引き千切れます。


 残るのは負傷したゴブリンのみ。


「ぎゃぎゃぎゃぎゃ!」


 最後に残ったゴブリンは、錯乱して棍棒をアトリに投げつけてきました。まだ戦闘経験の浅いアトリは反応が遅れ、顔面に棍棒を受けます。


「アトリ!?」

「い、痛いのは、慣れ、てる……です」


 鼻を折られながらも、アトリは無手のゴブリンに向かっていきます。彼女が投擲した鎌は、私が『クリエイト・ダーク』で生み出した闇の手で回収しています。

 ぎゅっ、と鎌を握ったアトリがトドメを刺しました。


 山の中、今日も雑兵がひとり断末魔をあげました。山ではありふれたことなのでしょうけれども、私たちにとっては珍しいこと。

 祝勝の熱が身体を満たしていました。


【ネロがレベルアップしました】

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