ストーカー令嬢、覚えのないお礼



「狭くないですか?」


 と聞いて来るアンジェロ様にため息が出そうになる。大丈夫だと伝えると、可愛らしく微笑まれた。


 どうしてこんな事になったんだろう……と先程までの自分を呪う。どうかしていたんだ、さっきまでの私は。


 あの後私がぜひと言ったのを理解すると、それは嬉しそうにアンジェロ様は笑った。何でそんな顔をするのか疑問に思いながらも、ベンチに座って持っていたランチセットを取り出して落ち着くと、急に冷静になった。


 何やってるんだろう、私は……。


 一度冷静になると、先程までのどうにでもなれ精神はあっという間に消えてしまった。断ろうと思えば断れたのに、やけになって一緒に食べるなんて言って……。


 膝に置いたまま動かない私に、チラリと顔を伺って来るアンジェロ様。何か言われるのかと身構える。


「あの……」

「っはい!」


 緊張しすぎて声が裏返った、最悪だ。恥ずかしすぎて泣きそう……。


「この間は、ありがとうございました」


 1人恥ずかしすぎて下を向いていると、突然覚えのないお礼を言われた。思わず「へ?」と間抜けな声が出る。


 なぜ今私はお礼を言われたんだろう。本当に身に覚えがない。アンジェロ様に怒られるような事はしても、感謝される様な事はしていない。


 ……自分で言って虚しくなってきた。


「本当はその場でお礼を言いたかったんですけど、気づいた時にはもういらっしゃらなくて」


 申し訳なさそうに話すアンジェロ様。待って、1人で先に進まないでほしい。


「あの、えっと……申し訳ありません。何の事を言っているのか全く分からないのですが……」

「え?……あっ、ごめんなさい!この間私が中庭で囲まれていた時に助けてくれましたよね?」


 その事です!と言ってもう一度お礼を伝えられる。


 いや、どの事……?


 多分令嬢達に囲まれていた時の事を言っているんだと思うけど。助けたのは私じゃなくてモレスタ様だし、なんなら自分で返り討ちにしてたような…………あの時のアンジェロ様は、本当にかっこよかった。


 えっ、というかそんな事より私いたのバレてたの!?じゃあ私がただ見ていただけの最低な人だって事もバレてて……。


「も、申し訳ありません!!」


 私は焦って頭を下げる。アンジェロ様の戸惑う声が聞こえるけれどそれどころじゃない。


「えっ、な、何で!?や、やめて下さい!!」

「あの時は本当に申し訳ありませんでした。気付いていたのに、貴方を助ける事も出来ずにただ見ているだけで……本当に私は最低です」


 頭を下げたままアンジェロ様の言葉を待つ。怒られるのか、責められるのか……なんて言われようと私はその言葉を受け止めないと。


 少しの間静かな時間が流れた後、アンジェロ様が戸惑っているのが伝わってきた。ハッキリと言っても大丈夫なのに気を遣っているのか、お優しい方だ。


「え、ストレイカ様私の事助けてくれましたよね……?」


 あれ、おかしいなと言って困惑しているアンジェロ様。


 ちょっと待って、なんか勘違いが起きている気がする……。私は本当に何もしていないから、誰かと勘違いしているの?でも、あの時他に人は居なかったと思うけど。


「…………あの、どなたかと勘違いされているのでは?そもそも、アンジェロ様を助けたのはモレスタ様だと思うのですが……」


 恐る恐る頭を上げながら言う。モレスタ様の名前を出すと、この間のお似合いだった2人の姿を思い出して勝手に胸が痛くなる。


「えっと、モレスタ様がくる直前に、魔法を使おうとした令嬢の腕を蔓で掴んだのってストレイカ様ですよね……?」

「えっ!」


 思わぬ話が出て驚く。


 な、何で分かるの?魔法を使いこなせる人は、誰が使った魔法か感知でも出来るの!?何その無敵能力!!


「た、確かに、それは私が出したものですけれど…………」

「!やっぱりそうなんですね、良かった!」


 いや、良くない!全然良くないよ!!次から次へと予想もしなかった事を言われて、私の頭は大混乱だ。


「ちょ、ちょっと待って下さい。どうして私だって分かったのですか?」

「あっ、それはモレスタ様が」

「モレスタ様!?」


 訳が分からなすぎてどんどん声が大きくなっていた所で突然出てきた名前、私は更にパニックになった。


 な、何でここでその名前が出てくるの!?


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モブ令嬢は公爵令息のストーカー ぽんかん @onyomu

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