ストーカー令嬢、やけくそ
あれから私は、前までが嘘のようにモレスタ様に会わないようになっていた。会っても挨拶を返す程度、ランチに誘われてもちゃんと断っている。正直、悲しそうな顔をするモレスタ様を見る度凄く胸が痛むけれど、仕方がない。
なんだ、私やれば出来るじゃん。今まではきっと覚悟が足りていなかったんだ。
きっとこのまま時間が経つにつれ、嫌われるんだろう。でも、それで良い。元々モレスタ様とあんなに近くにいられたのが奇跡みたいなもの、本来の形に戻るだけだ。
アンジェロ様にあんなに堂々と、もう会いませんって言っておいて会っていた今までの方が間違っている。これ以上、2人の邪魔をしちゃいけない。
いい加減、現実を見ないと。夢みたいな時間は終わりだ。
私は、ストーカーなんだから。
※※※※
午前の授業も終わりお昼、今日もモレスタ様に誘われたけど断った。悲しそうな顔で「そっか……」と言って去っていく姿が頭から離れない。
私がやっている事はあっているのか、モレスタ様に会う度に分からなくなる。この間までは普通に話していたのに急に断られたら、傷つくに決まっている。あんなに悲しそうな顔をモレスタ様にさせて、私は最低だ。
でも、モレスタ様の望むような友人関係でいるには、あまりにも…………あまりにも、気持ちが大きすぎる。
「もう分かんないよ……」
とぼとぼと歩いていると、あっという間に目的の場所に着いた。
この角を曲がった先にある小さなベンチ、前まではそこで1人で食べていた。中庭の端の方にあるから人は居ないし、静かで落ち着く。モレスタ様とランチをしなくなった今はまたここで食べている。
「っ!」
角を曲がってベンチに近づくと、見たことのある先客がいた。
「ストレイカ様……!」
「アンジェロ様……」
ベンチに座って今まさに食べようとしているアンジェロ様が、こちらを見て驚いた顔をしていた。
思わず顔を逸らす。この間の事もあってまともに顔を見れなかった。
「……お食事中失礼致しました」
先客がいるなら他の場所を探すしかないと引き返そうとすると、「待って下さい!!」と声をかけられた。
「……なんでしょうか?」
何を言われるのかとビクビクしながら振り向くと、何故かアンジェロ様も目を泳がせていた。
一体何の用……?
「……あの、アンジェロ様…………?」
「えっと、その……あのっ…………」
どうにも歯切れの悪いアンジェロ様。どうしたんだろう、この間令嬢達に立ち向かっていた時とはまるで別人みたいにおどおどしている。
何、私は何を言われるの?そんなに言いづらい事?…………!もしかして、モレスタ様と想いが通じ合いました…………とか?
私がモレスタ様を好きで付き纏っていたのを唯一知っているアンジェロ様が、気を遣って言い出し辛くなっている……それくらいしか、アンジェロ様が私を呼び止める理由が思いつかない。
嫌だ、そんなの聞きたくない……っ!!
「っ、失礼致します」
言われる前にと、未だにしどろもどろなアンジェロ様から逃げる。後ろから、えっ!?とかあの!とか聞こえるけど気にしない。
2人の邪魔にならないようにしなきゃと覚悟は決めたけれど、生憎まだそれを笑顔で祝える様な心持ちは出来ていない。
思わず唇を噛み締めて泣きそうになるのを堪えていると、後ろでアンジェロ様が立った様な音が聞こえた。
「一緒にランチを食べませんか!!!」
…………はい?
聞こえてきた信じられない言葉に思わず足を止める。今、何て言った……?
「い、嫌だったら全然断って下さい」
固まったまま返事をしない私に不安になったのか、そう言って下を向くアンジェロ様。
え、やっぱり聞き間違いじゃなくて本当に私を誘ったの?何で、私の事嫌いなはずだよね?
想像していたものとは大分違う言葉に戸惑いながらも、どうやって断ろうか考える。アンジェロ様と2人きりでランチなんて、味のしないランチタイムになる事は確実だ。
「えっと、あの……」
「も、申し訳ありません、やっぱり嫌ですよね!引き止めてしまってごめんなさいっ」
いつもの凛としたアンジェロ様はどこへ行ったのか、明るく振る舞ってはいるがしゅん……とした顔が隠しきれないまま、ベンチに座り直す。
ず、ずるい……。モレスタ様もアンジェロ様も、どうしてこうも人の心を突くのが上手いの。こんな風にされたら、断りづらい。
ぐっと手に力を込める。普段なら絶対に断るけれど、何だか「ま、いいか」と思う。今までちゃんと話した事が無かったアンジェロ様と話して、どんな人なのか知ってみたいという気持ちにもなった。
「……ぜひ、ご一緒させて下さい」
「…………えっ」
半ばどうにでもなれと言う気持ちで答えると、アンジェロ様はぽかんと口を開けた。その様子に、こんな顔もするんだと案外冷静になりながらも、もう一度同じ言葉を繰り返す。
「ぜひ、ご一緒させて下さい」
私の言った事を漸く飲み込めたらしいアンジェロ様はとても嬉しそうに頷くと、少し横にずれてベンチに座り直した。
その笑顔は私でも、とても可愛らしいと思った。
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