ストーカー令嬢、目が覚める



 モレスタ様の登場に令嬢達は騒然とし、アンジェロ様は振り向いた。


 そこで、背後から狙おうとしていた1人の令嬢に気がつき顔を顰める。今まさに魔法をアンジェロ様に放とうとしていた令嬢の顔は今にも倒れそうなくらいに真っ青だ。


「何をしていたか聞いているんだけど」


 微笑んでいるはずなのに、怖い。目が全く笑っていない。離れた所にいる私でさえその雰囲気に怖くなるのだから、目の前にいる彼女達は相当だろう。


「っ、あ、あの、ち、違うんです、」

「何が違うの?」


 モレスタ様の圧に震えながらも、先程魔法を打とうとしていた令嬢が口を開く。


「そ、そこにいる方が、私達に、魔法で攻撃してきてっ」


 とんでもない言い訳、というか嘘をつき始めた令嬢に驚く。そんなの通用するわけがない。


「へぇー、そうなのアンジェロ嬢」

「いえ、寧ろ私が攻撃されそうになったので、魔法をぶつけて打ち消しました」


 ああ、さっきの光はそう言う事、と言うとモレスタ様は再び令嬢を見る。


「っ、ち、違います!信じて下さい、モレスタ様……っ!」


 まるで悲劇のヒロインのように訴えかける令嬢に、モレスタ様の視線はどんどん冷たくなる。


「君たちの声、とてもよく響くんだよ」


 知ってた?と言うと、令嬢達の顔がどんどん青くなっていく。暗に何を話していたか聴こえていたと言われて、もう何も言えなくなっていた。


「アンジェロ嬢、怪我はない?」

「はい、ありがとうございます」


 心配そうにアンジェロ様に近づくモレスタ様。すると真ん中の令嬢が、お待ち下さい!と声を上げた。


「ど、どうして殿下も、モレスタ様も、その平民の事を気にかけるのですか……!!」

「平民……?」


 令嬢の一言でモレスタ様が振り向く。


「この学園では、身分は関係なく学び過ごすようにと言われているはずだ」

「っで、ですが、」

「君たちがやっている事は、その方針を決めた学園、国、そして殿下の事も否定し侮辱しているという事は分かっている?」


 その言葉で漸く自分達のした事に気が付いたのか、青い顔のまま震え出す。


「それに、仮に君が同じような目に遭っていても俺は同じように動くよ。1人を複数で囲んで、その上魔法を使おうとしている……それを助けようとするのに貴族も平民も無いと思うけど」


 淡々と話すモレスタ様に、令嬢達は青い顔のまま「も、申し訳ありませんでした」と震えながら逃げるように去っていった。


 きっとそこまで深くは考えていなかったんだろう。小さい時から貴族として生きてきて、学園で考方を変えるというのが難しいのも分からなくはない。だからといって、彼女達がやった事は到底許される事ではないけれど。


 それになにより、アンジェロ様は光属性という国にとって貴重な存在。貴族と平民という身分以上に、私や彼女達よりも重要な存在だ。


 そんな事も分からなくなるくらいになっていたんだ。そもそも、魔法だって殿下と同じくらいの力をもつアンジェロ様に叶うわけがないのに。


 先程の令嬢達が逃げ出す時の事を思い出す。


 その中の1人、先程背後から魔法でアンジェロ様を狙っていた令嬢は去り際、何度もモレスタ様を振り返っていた。


 多分、あの方モレスタ様が好きなんだ。


 そう思った途端、彼女とストーカーをしていた自分が重なった。もし「ストーカー」と言う事を分からないままだったら、自分があそこにいてもおかしくなかったのかもしれないと思うと怖くなった。


「モレスタ様、ありがとうございました」

「いや、俺も殿下を侮辱されたようで腹が立ったしね」


 アンジェロ様に寄り添うように話すモレスタ様を見て、私はそこから逃げるように離れた。



 アンジェロ様のピンチに駆けつけてやってきたモレスタ様は、まるでお話に出てくる王子様みたいだった。それに比べて私は、アンジェロ様を助ける事も出来ずに怖がっているだけ。アンジェロ様はあんなにも堂々と立ち向かっていたのに。


 眩しい。眩しすぎる。


 魔法も満足に使えない、臆病な私なんかとは住む世界が違うんだ。


 私は何を自惚れていたんだろう。少し話して一緒にランチを食べたくらいで、調子に乗っていた。もしかしたら、奇跡が起きて、自分に少しは好意があるんじゃないかなんて……立場も弁えずに恥ずかしい。


 今だって私がストーカーだったって分かった時、あんな風に冷たい顔が自分に向けられている事を想像して、怖くなっている。


 自分の事ばっかり。



「すごく、お似合いだった……」


 モレスタ様の夜空のように深い色の横で、星のように煌めくアンジェロ様。2人が並ぶ姿は、本当にお話に出てくるヒロインとヒーローみたいで素敵だった。


 自分の髪をふと見る。地味な色合いの髪を眺めて、ため息がでた。別にこの色は嫌いじゃない、大好きな家族と同じ色でむしろ大好き。


 でも、モレスタ様と並ぶには不釣り合いだ。


 先程の光景を思い出しながら、明日からはモレスタ様に近づかないように徹底しなきゃと心に誓った。

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