ストーカー令嬢、臆病
あの色んな意味で緊張したランチタイムから、一週間以上経っていた。
最近では、勝手に目や体がモレスタ様を追いかけそうになるのも大分抑えられるようになってきた。
……まあ、最初に比べたらだけど。
しかしその努力を掻き消すように、最初で最後だと思っていたモレスタ様とのランチはその後も続いている。毎日では無いけれど、たまにモレスタ様が誘ってくれて一緒に食べるというのが日常になりかけていた。
これでいいのか私、と思いながらもモレスタ様からのお誘いを断るなんてとても私には出来なかった。
しかし、モレスタ様とのランチで浮かれている所にちらりと見えるあのハンカチに、罪悪感は募るばかり。お前はあくまでストーカーなんだと言われている気がして、胃と胸が痛む。ランチが終わる頃には断れなかった事に自己嫌悪するまでが、恒例となっていた。
※※※※
今日も1日の終了の鐘が鳴り響く。ささっと帰り支度をして教室を出た。
今日はモレスタ様とランチを食べた日だったため、喜びと共に反省をしながら寮までの道を歩いていた。
いい加減にこの状況を何とかしないとと思いながら歩いていると、何か叫ぶ様な声が聞こえて立ち止まる。声の聞こえた方向を見るも中庭が広がっているだけで、気のせいかと思い歩き出そうとするとまた聞こえた。
「っ……」
怖いと思いながらも、誰かが苦しんでいたりしたら大変だと思い、恐る恐る中庭の中を進んで行く。
少し歩くと、先程の声がより鮮明に聞こえてきた。叫んでいた声はどうやら女性の声で、しかもどうやら言い争っている様だった。
良かった、と思うと同時に巻き込まれたくなくて来た道を引き返す。しかし、聞こえてきた声に思わず足を止めた。
「いい加減にして下さい」
凛と言い放つ声は、聞いたことのある声だった。ゆっくりと振り向くと、そこには数名の令嬢に囲まれるアンジェロ様が居た────。
「っ、何て口の利き方なのっ!」
「品の無さが現れているわね!!」
「これだから平民は嫌なのよ!」
信じられない光景に動けなくなる。
「光属性ってだけで偉そうに!殿下とモレスタ様がお優しいからって分不相応にも付き纏って、恥を知りなさい!!そもそも、平民の分際でよくのうのうとこの学園にいられるわねっ」
そう言って真ん中にいる令嬢が笑うと、周りの令嬢も笑い出す。
ど、どうしよう……っ。
心臓がばくばくいっているのが分かる。こんなのは絶対に良くない。1人を複数人で囲って、その上身分を振りかざすなんて絶対にしてはいけない事だ。
分かっているのに。助けなきゃって思っているのに、体が動かない。
アンジェロ様を囲んでいる令嬢が誰か分からない。万が一私よりも身分の高い人だったら、私がする行動によっては最悪の事態が起こるかもしれない。それに何より、魔法も満足に使えないのに複数人に立ち向かう勇気が無かった。
そんな事を考えていると、アンジェロ様が背筋を伸ばしたまま、言い放つ。
「付き纏ってなどいません。それに、この学園の中では身分関係なく平等にと言われているはずです。私がこの学園にいる事と平民な事は、関係ないと思いますが」
………………格好いい。
令嬢達を真っ直ぐと見て言うその姿に、思わず見惚れる。身分も人数も関係なく立ち向かう姿に、この人は本当に特別で強い人なんだと感じた。
私もこんな風になりたい。
そう思った時、真ん中の令嬢が手に力を込めるのが見えた。あれは、魔法を使おうとしている。
「っ、平民風情が生意気なっ!!!」
手を前に出して魔法を出そうとするのを見て、危ない!!と咄嗟に叫ぼうとした瞬間────眩しい光が辺り一面に広がった。
何が起こったのか分からないまま瞬きを繰り返すと、段々光が消えていき呆然とする令嬢達と傷一つないアンジェロ様が立っていた。
……相手の魔法を自分の魔法で相殺したんだ。凄い、凄すぎる。
「魔法をこんな風に使うなんて、信じられない」
そう言って静かに見据えるアンジェロ様に、令嬢達は怯んだように後ろに下がる。それを見て「失礼します」と言って、去ろうとするアンジェロ様。
その時、1人の令嬢がアンジェロ様が後ろを向いた瞬間に魔法を放とうとしているのが見えた。
……なんて卑怯な!!
咄嗟に私も魔法を使って何とかしようとする。頑張って力を込めるも、魔法が苦手な私にはせいぜい細い蔓一本を生やすのが精一杯だった。
頼りない蔓が魔法を使おうとしている令嬢の腕を捉えた瞬間────
「何をしているの」
静かに重く響く声。どこか怒っているようにも聞こえる。
声の聞こえた方を見ると、令嬢達の後ろからモレスタ様が現れた。
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