ストーカー令嬢、緊張のランチタイム
花壇についてベンチに座るも、ソワソワしてしまって落ち着かない。モレスタ様が来るまで何をしたら良いか分からなくて、お花をひたすらに眺める。
それでも落ち着かなくて、ベンチから立ち上がってそのままウロウロとその場で行ったり来たりしては立ち止まるのを繰り返していた。
「あ~~緊張するっ!」
どう頑張ってもドキドキするのを抑えられない。もう緊張し過ぎて、モレスタ様に早くきてほしい。
暫くウロウロしていると近づいて来るモレスタ様が見えて、姿勢を正す。
「ごめんっ!ちょっと捕まっちゃって」
そう言いながら走って来るモレスタ様。多分、令嬢達に囲まれんだろうなと思い、申し訳なくなる。
「申し訳ありません、私のせいで……」
「俺がしたくてやってる事だから、謝らないで。」
さ、食べようと言うモレスタ様と一緒にベンチに座る。思ったより近い距離にソワソワしながら、ランチセットを受け取る。
ランチセットは何種類かあって、毎日メニューが違う。高級そうな入れ物の蓋を開けると、私の好きなものばかりが入っていた。
「嫌いなものない?ストレイカ嬢の好みを聞くのを忘れちゃって、俺の判断でこれにしちゃったから」
ダメな物あったら無理しないでね?と言ってくれるモレスタ様に、私は勢いよく首を振った。
「わ、私の好きな物ばかりです!ありがとうございます!!」
驚きながらお礼を言うと、嬉しそうに「良かった」と言ってモレスタ様も蓋を開ける。
こんな事ってある?モレスタ様が選んだ物が私の好きな物ばかりなんて……これって運命!?
「それじゃ食べようか」
「っはい!」
そう言って優雅に食べ出すモレスタ様を、つい盗み見てしまう。モレスタ様の食事をこんな近くで見られるなんて、贅沢……。
見すぎて怪しまれないように私も食べようとして
、目に入ったものに驚愕する。
「モ、モレスタ様、そのハンカチは……」
「?」
「そ、その、胸元の……」
分かって無さそうなモレスタ様に震える声で指摘すると、ああ、と言ってそのハンカチを取り出す。
「貰ったんだ」
「も、も、らったって、ど、どなたに……?」
「それが、分からないんだよね」
お礼が出来なくて困っているんだ、と言って笑うモレスタ様。その手元には、モレスタ様の髪色の布に、モレスタ様の瞳の色の月の刺繍がされたハンカチ。
いや、それ私ですっ──────!!!
いつかは忘れたけれど、そのハンカチは間違いなく私が自分で刺繍をして、モレスタ様へと書いた箱に入れた物だった。
どうしてストーカーからの物を持っているんですか、モレスタ様っ!!何で誰から貰ったかも分からない怪しいものを普通に持ち歩いているの!!?
危機感無さすぎて、ストーカーしている側が心配になるんですけれどっ……!!
「ストレイカ嬢……?」
あまりの衝撃に項垂れてしまう。心配してくれているモレスタ様に「な、何でもありません……」と、言葉を返すのが精一杯だった。
モレスタ様、心配すぎる。まさか、食べ物とかもそのまま食べたりしていないよね……。
今まで自分が送った物を思い出しては不安になる。
「……あの、モレスタ様」
「なに?」
「その、私が口を出すような事では無い事は重々承知しているのですが。誰からかも分からない怪しい物を持ち歩くのは、その……やめた方が良いと思います」
意を決して怪しく無いようにそれとなく伝えるも、「うん、気をつけるよ」の一言と笑顔で済ましてしまうモレスタ様。
…………本当に、心配だ。
「でも、丁度良かったんだよ」
「え?」
「元々使っていた物を無くしちゃって、困っていたんだ」
だから助かったよ、と言ってハンカチを撫でるモレスタ様。
いや、それも私ですっ──────!!!!
もう、罪悪感とかのレベルじゃない。誰か私を殴って……っ!!胃が痛い所かもう全身痛い!!!
「だ、大丈夫……?」
モレスタ様に申し訳無さすぎて冷や汗ダラダラで震え出した私を、心配そうに覗き込んでくれるモレスタ様。被害者が加害者を慰めるってどんな状況……。
というか、顔が近いっ!!
思わず後ろに仰け反り、大丈夫だと伝えるも内心は全然大丈夫じゃなかった。
その後もとてもモレスタ様の顔は見れず、せっかく好きな物だらけのランチセットは味がしなかった。
不思議そうにしながらも話しかけてくれるモレスタ様にドキドキしながら、違う意味でもドキドキしたランチタイムは必死に返事をしているうちに終わっていた。
…………でも何が厄介って、モレスタ様がハンカチを持ってくれている事に喜んでしまった事。心配だの何だの言いながらも結局は嬉しくなっている自分に、ため息が出た。
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