ストーカー令嬢、失言する



「あんまり寝られなかった……」


 朝起きて直ぐに、昨日の事を思い出す。昨日はモレスタ様のいろんな顔を見た。今まで見たことの無い表情も沢山見て……


 順番に思い出していると、ずるいと言われた時の顔が浮かぶ。


 なんて言うか、こう、眉を寄せて、我慢するみたいな…………


「~~~~っ、もう!!!」


 何でモレスタ様はあんな顔をしていたの?あんなの、ただの知り合いに向ける顔じゃない事くらい私だって分かる。


 モレスタ様は…………アンジェロ様が、好きなんじゃないの?


 どうしよう、自惚れそうになる。


「……って、だめだめだめ!!私はストーカー!」


 もし、もし奇跡が起こって少しでも好意を寄せてくれていたとしても、モレスタ様のストーカーの正体が私だってバレたら絶対に嫌われる。


 だって、付きまとうだけじゃなくて色々しちゃってる。プレゼントと称して名前のない箱や手紙を置いたり、モレスタ様の使った物を持って行ったり。


 せめて、見ているだけだったらモレスタ様に嫌われずに済んだかも知れないのに……どうしてもっと早く、ストーカーだって思い出さなかったの。


「はぁ……後悔しても仕方ないよね」


 迫る時間に手早く準備して外に出ると、今日も天気は良く朝日が降り注ぐ。


 寝不足の体には辛いなぁと思いながら私は歩き出した。





※※※※





「あっ、ストレイカ嬢丁度良いところに」


 午前の授業も終わり、いつも通り人気のない所でランチを食べようと教室を出て歩いていると、突然名前を呼ばれた。振り向くと、モレスタ様が立っていた。昨日の今日でなんだか顔が見れない。


「これからランチだよね、誰かと食べる約束してる?」


 何でそんな事聞いて来るのか分からずに戸惑いながら1人で食べる事を伝えると、良かったと言われた。


 よ、良かったって、酷い。これでも友達いない事少し気にしているのに……。


「だったら、俺と一緒に食べない?」

「…………へ?」


 ちょっとなんて言ったのか良く分からない。え、待って、私の聞き間違い?ランチに誘われたように聞こえたんだけど。


「いつもは殿下と食べてるんだけど、今日は用事があるみたいで1人になっちゃったんだ」


 だから良かったらどうかな、と言われて思わず「え?」と、また聞き返す。


 これって、もしかして聞き間違いじゃなくて、本当に……ランチに誘われてる!?


 な、な、なんで、何で私!?


「ど、どうして、わ、わわ、私をっ」

「あれ、ここ数日で結構仲良くなれたと思ってたんだけど、嫌だった?」


 そう言って、首を傾げながら眉を八の字に下げるモレスタ様。


「嫌な訳ないです!!!」


 その顔に思わず即答すると、モレスタ様はクスッと笑う。


 しまった、またやっちゃった!もう、本当は断らなきゃダメなのに、この顔されると断れなくなる。


 モレスタ様とランチなんて…………あれ?ちょっと待って、モレスタ様って確か食堂で食べてたよね。えっ、じゃあ、そこで一緒に食べるって事?2人きりで?



 …………無理。無理無理無理!!


 あんな人が沢山いる所で食べるだけでも苦手なのに、モレスタ様と2人きりでいたら目立つに決まってる!ただでえ人気のモレスタ様が、こんな地味な良く分からないのといたら余計目立つ!他の令嬢達に何言われるか分からないよ!!


「あ、あの、やっぱり」

「場所は中庭のあの花壇のある所で良い?」


 え、中庭?食堂じゃないの?


「あそこならベンチが近くにあるし、花を見ながら食べるのも楽しそうじゃない?」

「っで、でも、モレスタ様、いつも食堂に行かれてますよね……?」


 良いんですか?と言うと


「ストレイカ嬢、人が多いのとか目立つの好きじゃないでしょ?俺、結構目立つみたいだから」


 そう言ってごめんね、と一言謝られた。


 ……何で、私が嫌だって分かったんだろう。


 理由なんて分からないけど、ただひたすらに嬉しい。モレスタ様が私の事を考えて場所を変えてくれるなんて、こんな贅沢な事ある?


 嬉しすぎて、どうやって表したら良いのか分からない。


「モレスタ様みたいな素敵な方が目立つなんて当たり前のことですから!私こそ申し訳ありません、気を使わせてしまって」

「誘ってるのは俺だから、当然の事だよ」


 そう言って笑うモレスタ様は、今日もかっこいい。嬉しくて、ついニヤニヤしてしまう。


「じゃあ、俺は食堂でランチセットを貰って来るから、ストレイカ嬢は先に行っててくれる?」

「えっそんな……」


 モレスタ様にそんな事させるなんて、って思ったけれどさっきの言葉を思い出す。人混みが苦手な私に気を遣ってくれているんだと思うと、それ以上言うのは違う気がした。


「モレスタ様、ありがとうございます」


 お礼を言うとモレスタ様は「どういたしまして」と微笑む。そのままじゃあ後で、と言ってモレスタ様は食堂の方へ歩いて行った。


「ど、どうしよう……」


 今になって、急に緊張してきた。あのモレスタ様とランチを食べるなんて……とにかく、失礼のないようにしないと!



 意気込んでいる時にふと、気づく。


 ────っで、でも、モレスタ様、いつも食堂に行かれてますよね……?────


 そんな事、モレスタ様をずっと見ていないと知らないはず。……それなのに、私は知っていた。


 自分の失言に気づきサッと血の気が引いた。ど、どうしよう、モレスタ様にストーカーだってバレた!?バレてなくても気持ち悪いって思われたかも……。


 モレスタ様とのランチへの緊張は、焦りへとすぐに変わった。とにかく、モレスタ様が特に気にしていない事を、気づいていない事を祈るしかない。


 もし、私がストーカーだった、なんてバレて嫌われたら生きていけない……っ!!


 いつ間にか、昨日の事での気まずさはあっという間に吹っ飛んでいた。





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