逆手に取ることにしよう
「スヴァリエ公爵家の子息、ヴィルヘルムだろう?」
「「っ!?」」
僕の答えに、エドガーだけでなくロニーも息を呑んだ。
やっぱりね……思ったとおりだ。
「ル、ルディ様、どうしてそのようなことが、お分かりになるのですか?」
「ひょっとしたらリズも気づいていたかもしれませんが、今日、教室でこの二人が絡んできた後、僕は見たんです。二人が、ヴィルヘルムと話をしていたところを」
「あ……」
そう……僕はあの時から、この二人がヴィルヘルムと繋がっていることは分かっていた。
ヴィルヘルムと二人の接点や関係については、アンネに指示をして調べてもらっているところではあるけれど。
「とりあえず、二人の反応を見て確信したから、もう帰ってもいいよ。もちろん、エドガーが僕に勝利したと、ヴィルヘルムに報告するといい」
「「…………………………」」
エドガーとロニーは肩を落とし、無言で中庭から去って行った。
「ルディ様……よろしいのですか?」
「はい。この後、あの二人はヴィルヘルムに報告をするでしょうが、その時の様子はアンネが情報を持ち帰ってくれるでしょうから」
「そういえば、あの男の担当はアンナでしたね。恥ずかしながら、失念しておりました」
「仕方ないですよ。リズにとって、あの男は空気以下の存在なのですから」
「あ……ふふ、そうですね」
僕の冗談に、リズがクスリ、と微笑んでくれた。
やっぱり僕の婚約者は、世界一可愛い。
「さあ、あの二人にも言いましたが、このままでは風邪を引いてしまいます。早く寮へ戻りましょう」
「はい!」
僕はリズの手を取り、学園寮へと帰った。
◇
「それで……アンネは何と?」
自分の部屋に帰ってお風呂で汗を流した後、僕はマーヤに尋ねた。
基本的に、マーヤとアンネは常に情報を共有しているから、マーヤに聞けば全て事足りる。
まあ、アンネはリズのお世話もあるからね。
これだけのために、わざわざ呼び出すわけにもいかないし。
「はい。ルドルフ殿下の予想どおり、エドガー子息とロニー子息はヴィルヘルムと接触したようです。会話の内容は……」
マーヤは、ヴィルヘルム達のやり取りについて詳細に説明してくれた。
それによると、どうやらエドガー達は、僕に勝利したことをかなり大袈裟に報告したらしい。
まあ、実際はロニーが僕に打ち負かされ、エドガーに至っては戦うことすら敬遠してしまったのだから、恥を隠すためにも誇張するのは仕方ないか。
「それよりも、ヴィルヘルムがこんな真似をした動機については、分からなかったの?」
「残念ながら、そこまではつかめなかったようです」
「そうか……」
普通に考えれば、僕に恥をかかせることによって、リズの想いが冷めるようにするというのが目的だろう。
何せ、リズはバルディック帝国の武の象徴、ファールクランツ侯爵家の令嬢なのだから。
だけど、本当の目的……というか、僕に恥をかかせる瞬間は、もっと大々的に行うはずだ。
それも、公衆の面前で。
「ひょっとしたら明日は、学園中で噂になっているかもしれないね。『ルドルフ皇子が、エドガーとロニーに瞬殺された』って」
「……リズベット様ではありませんが、本当にそれでよろしいのですか?」
「もちろん。そのほうが、僕としても
ただでさえ地に落ちている僕の評判が、今回の件でさらに落ちた。
そうすると、子息令嬢達はますますつけあがるだろう。
扇動する、ヴィルヘルムの手によって。
「マーヤも知っていると思うけど、帝立学園って入学してしばらくしたら、生徒の実力を測るための試験があるんだよ」
「……なるほど、そういうことですか」
僕の意図を理解したマーヤが、口の端を持ち上げた。
そう……帝立学園では、三年間の育成方針を決めるため、子息令嬢に実力試験を行う。
筆記試験と実技試験の二つで、このうち実力試験の内容は、男性は剣術、女性は
「ヴィルヘルムは、この実技試験で僕との対戦を熱望するだろうね。公衆の面前で、僕を完膚なきまでに叩きのめすために」
「……本当に、残念な男ですね」
諜報員としてのマーヤは感情を見せないのに、珍しく顔をしかめて吐き捨てるように言った。
それだけ、あの男のやり口が気に入らないのだろう。
今回のエドガー達の件は、悪評を流すのに加えて僕の実力を測る目的もあったんだと思う。
そのことを考えると、ヴィルヘルムは少なくともあの二人よりは強いということだろう。
だからといって、リズの足元にも及ばないだろうけど。
「うふふ……ルドルフ殿下、実力試験が楽しみですね」
「あはは、本当だね」
僕とマーヤは、互いに口の端を吊り上げた。
もちろん、返り討ちに遭って地面に這いつくばる、ヴィルヘルムを想像して。
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