第36話
「トモ達ってもしかして強い!!!???」
今日の全試合の日程が終わり、全勝で終わった選手たちはさら喜びを爆発させていた。
まさか、ここまで上出来の結果が見られるとは思いもしなかった。
「もしかしなくても強いよ! ともちゃん!」
「自分もさすがに……、びっくりしてる」
運よくスクリムなどで対戦してきた強豪チームとは当たることなく1日目が終わった。普段練習してきている相手と比べれば、この結果も決して不思議なことではないが、「連勝」という経験があまりにも乏しい彼女達からすればそれは特別なことなのだろう。
明日からは今日みたいに簡単にはいかないと分かってはいるものの、最後の最後で勝ち切るという経験ができたのは非常に大きな収穫であった。
「コーチ」
「……ん?」
選手同士で今日の反省会などをしていたため、俺は俺で違う考え事していたらトモさんから声がかかった。少し心ここにあらずのような状態であったため反応が遅れたが、特に何かを言われることは無かった。
「ごめんだけど、なんでトモたちこんなに勝てたの?」
「それ思った」
「ねー? 私もここまで上手くいくとは思ってなかったです」
勝った理由? それを本人たちが実感できなかったことの方が少々驚きであった。
「うーん? まさかそんな言葉が出てくるとは思わなかったよ」
「いや、負けた敗因を探るのは当たり前だけど、勝った要因を探すのも重要かなって。だって終わり良ければ総て良しってそれは終わった後だから言えることで、道中でそれは言わないでしょ?」
「なかなか、頭のいいこと言うな」
しかし、トモさんの言うことはもっともだ。フワッとした感覚で勝てたことに対して「勝てた」ことしか覚えていないのでは何の進歩もない。
当初から比べると明らかな差を感じるほど成長してきている。
「トモのいうことも分かる。実際AIMはよかったと思うけど、全部AIMで勝ち負けの話がついたら作戦なんていらないわけだし」
「練習通りに上手くいったから……ですかね?」
2人も同じことを感じていたようだ。ISAMIさんが言うように今日の3人のAIMはよかった。今までスクリム、チーム練習と忙しい中でも個人でのAIM練習を欠かさずやってきた成果がしっかりと出ていた。毎日の積み重ねで上達していくものであるからこそ、その成果をここで実感できたことは大きいことだ。
しかしながら。
「これは俺が見ていて思ったことなんだけどさ」
俺が感じていた印象は3人とは少し違うものであった。
「うん?」
「結構心に余裕あったよね」
「……!? 言われてみれば」
これは確信を付いたかもしれない。
「そうかも」
「そうですね」
「なんか、普段のスクリムと明らかに違うことがあってさ、コミュニケーションエラーがほぼ皆無だったと思う」
基本的にIGLをするトモさんが先頭をいくことが多いため、どうしても1人で突っ走り気味になる。また、その逆で1人行動が遅れついて行けないなんてことも今までは珍しくは無かった。
しかし、今回はそれがほぼなかった。行動の速度がかみ合わないことはあったが、それに対する声かけがきちんと出来て、味方に行き届いてことにより全員がバラバラにならずにまとまった動きができていた。
「それって勝ち越している状況がほとんどだったから心に余裕があったってことですかね?」
ひまりさんが言うことも正解だと思う。どうしても焦った状況ではミスが生まれやすいし、目の前のことに集中しすぎるあまり、周りのことまで目が行届かないことが多い。そういった状況でも普段と変わらないパフォーマンスを出すことができるようにするのが、普段の練習である。
しかし、今回はそういったことではなく根本的なにか安心感のようなものを常に抱いていた印象が強かった。
「それもあると思うけど」
「けど?」
「秘策を準備してたからかなって。個人的には」
「「「あああ~」」」
俺の発言に対する3人の納得の声が揃う。初めは疑問の声の方が大きかったにも関わらず、今では彼女らの深層心理まで支えられる程になるとは。あれを思い付き実行しようとした自分を褒めてあげたいほどだ。
「たしかに、あれは試合中いきなり出されたら止められ自信は無いね」
「スクリムでも何回か試したけど、上手く連携できるようになってからは負けなかったね」
本番に攻略されては元も子もないと思い多用はしてこなかった。それに、あれをやっている時は相手チームもこっちがふざけていると思っていたらしくまともに付き合おうともしていなかった。
そのため、本番までの不安材料はほぼ皆無であったのだ。
「明日は様子見で使っていこうと思う」
「そうだよね。そろそろ強豪ともぶつかる可能性あるもんね」
恐らく明日からは一気に相手のレベルが跳ね上がるだろう。それは来週の本選でも言えることではあるが。
実際に彼女達の今のレベルを客観的に見れば決してリーグ入りを果たせないものではない。それほどまでのここ数週間の実力の上り幅は想像を超えるものであった。
「様子見ってことは初めからやっていくわけではないんですね」
ひまりさんが再度確認をしてきた。こうやって、全員の共通認識をすり合わせようと積極的に行ってくれることにいつも助かっている。俺一人ではどうしても抜け落ちてしまうことがあるからだ。
「そうだね。来週の本選まで取っておきたい感じはある」
「そうですよね。秘密兵器ですもんね」
なんともカッコいい言い方をするが、そういったのが好きなのは男子だけだと思っていたがどうやらそうでもないらしい。
だからと言ってもったいぶって負けては元も子もない。実力を出し切れず負けることがなによりももったいない。
「今日の感じを見てればいけそうな気もするしね!」
今日の結果に相当な手ごたえを得たのか、普段以上に前向きの様子だ。トモさんに元気が溢れている状態だとチームに活気がでるからいいことずくめである。
「その考えはなによりも大事だよ」
「明日も力でねじ伏せられれば、私たちのメンタル的にも来週の本選にも良いってことですね」
自信はあるに越したことは無い。そのせいでうぬぼれてしまうのであれば話はまた別であるが、ひまりさんに至ってはその心配はないであろう。上向き続けている間は玄所に満足して停滞することはないだろう。
「さっき、明日も温存できればって話はしたけど自分たちが出すべきって思ったときは躊躇しないでいいよ」
「そうだけど、結構悩むよね~」
それを判断する役目であるトモさんが、恐らく首をかしげながら唸り声を上げる。現状のチームの状態をみると間違いなく、試合中に大きな決断をするのは彼女しかできない。責任が重大なことを本人も他の2人も重々承知しているだろう。
だからこそ、結果がどうなろうと彼女の選択を責めることは絶対にないと言い切れる。あとは思い切りの良さだけだ。
「うん。そこは選手たちの考えに任せる。どっちつかずになるくらいなら、途中からは使わないって決めきってもいい」
試合中に頭の片隅にでもあると煩わしいというのであれば、それはそれで正しい選択だと思う。
「ある程度残り時間がないとだめだし、エリア内にとどまられ続けたらキツイからね」
この作戦の要であるISAMIさんが一番理解度は高いかもしれない。その分負担は激増だ。なにしろ近距離でずっと戦っていたのにも関わらず、いきなり偏差も考慮したスナイパーを使わなければいけないのだから。
「とりあえず、今日はこの辺にしようか。明日また今日と同じ時間に集合で」
「わかった」
「うん」
「はい」
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