第34話 開幕
カウントダウンが0になると両者一斉に動き出す。
なんの情報もない1ラウンドはとりあえずプロチームや、強豪配信者などはいないグループであった。それはそれで恐怖も感じている。内はプロと言えども全くの無名チームなのだから、ここから有名選手が続々出てきてもおかしくない状況だ。いや、それは必然だろう。それが明日のうちには頭角を現すのだから、手に汗を握る展開だ。
そういった野望を持っているチームに勢いでひっくり返されない為にも、この一戦目はとても重要になる。
「とりあえず、3人の構成は……。九郎、ルーク、フォグ……」
固有スキルを持っているクルー達はだが、この3人が今のキル重視のメタのキャラクター達だ。
それぞれ、2段ジャンプができる、結界を張り相手の位置が分かる、一定期間移動中のみ透明になれるなどのスキルを持っている。ここにサクラというダミーを出せるクルーが入るか入らないかと言う環境だ。
「そして、トモさんとISAMIさんがSMGでひまりさんがSGか。キャラも武器構成も練習通りだな」
近距離戦がメインになるので、LMGやARを使う選手はほとんどいない。時々後方支援要員で使っているのを見るが、それは本当に稀なことだ。それよりもさらに希少なのがISAMIさんのスナイパーだが、今日はお目にかかることは無いだろう。
「予想通りミラーマッチだな」
先頭を走るトモさんの視点に敵が映り、相手の構成も全くの同じであることは分かった。
「目の前いるよ! 角ね!」
「やったやった! 1人やった!」
いつも通りの活気あるVCからの、トモさんの予測撃ちで開始早々1キルを奪った。
「相変わらず上手いな!」
トモさんのゲーム理解度が高く、敵の位置や遮蔽物などの情報から顔を出すところを予想して銃を構えておくということをよくする。それの成功率が高いのだから恐ろしい。
「初手の当たり合いは完全に勝利だな」
そのまま人数有利で押し切り初手で3キルを取った。そのままISAMIさんが自陣側のエリアを取るために判定を貰うまで残り、2人は敵陣のエリアを踏む。これにより、相手チームがエリアに入るまではカウントが進み続ける。
「ISAMIスキル使って!」
「もうやってる」
トモさんがISAMIさんに要求するが、それとほぼ同じタイミングでISAMIさんも同じ行動をしていた。これはパターン練習で何度も練習したことの1つであり、このゲームの特性上初手でキルを取った場合、エリアポイントの獲得判定を貰う前に敵が先にリスポーンする。そのため、敵地に向かう場合は自ずと3対2の状況になってしまう。
「このままトモが囮になるから、ひまちゃんは透明になって裏どりして!」
そのため、いったん全員でリスポーンを待ったり、そのまま自陣を取らずにキルを取りに向かうなどがあるが、内のチームは第3の選択肢を用意していた。
それは、九郎のスキルを駆使したトモさんのキャラコンで相手のヘイトを買い、その隙にひまりさんが裏からキルを狙いに行く作戦だ。
「1枚やったよ! 2枚目も!」
「削ってる削ってる!」
「倒した倒した!」
この作戦も見事成功だ。
「おお~、すげぇーな。ここまでで全部上手くいってるよ」
裏から回り込んだひまりさんが、SGで立て続けに2人倒してトモさんがキャラコンで翻弄しながら弾をまき散らしてHPをローにした相手も倒し、3タテを披露した。
「ナイス!」
「やったぁ!」
「凄い」
これで、キル数は6対0。エリアポイントも維持し続けて、圧倒的に有利な状況を作り出した。本人たちも確かな手ごたえを感じているだろう。元々、トモさんをトップにした2人の手厚いサポートで戦ってきたため、お互いの動きを察知する能力には長けていた。
そんな中で俺がやったのが、ISAMIさんとひまりさんをより上手く立ち回らせることであった。このゲームはどうしても後半は乱戦になる傾向が強い中で、前半はある程度戦況がパターン化しやすいため序盤で有利を取れることは、見た目の数字以上に大きいことだ。
「これで相手がどう出てくるかだよな」
これで、焦って行動してくれれば、こちらとしてはそれが一番ありがたい。今の先行している状態であれば、相手に踏み込ませるか、自陣を抜かれるかしない限りはこのまま制圧時間5分が訪れこちらの勝利が確定する。
四角に囲まれたエリアポイント内は、それぞれの辺の真ん中に出入り口が存在する。どのクルーもその壁をよじ登ってエリア内に侵入することができる。しかし、九郎だけは特別でスキルの2段ジャンプを駆使することで、壁を飛び越えることができる。トモさんがそれを利用してエリア内から敵の配置を伺いながら、銃を撃って牽制する。決してキルとれるものではないが、なにもしないで相手からのアクションを待つよりはよほど効果的な動きだ。
それに彼女は銃を撃っている時の方が冷静だ。
「ISAMI! ひまちゃん! 左サイドからくるよ! 全員」
「うん」
「分かった!」
この状況でも相手は焦ってバラバラに凸ってくるようなことはせずに、きちんと全員のリスポーンを待ってから一か所に集まっている。スクリムなどで見たことがないチームだったが、戦い方がきちんと徹底されている辺りランク勢なのだろう。それも上位に位置する。
「だけどそんな簡単にはいかないよ」
相手の行動が分かるとすぐさま敵が入ってくるであろう入り口でクロスを組めるように移動する。ある程度足音で敵の位置が把握できるため、敵を視認するよりも先に行動できている。
こういった時にも冷静にゲーム内情報を拾えるのは、かなり強みになる。
「1人目にフォーカスね」
すかさずトモさんが次の行動指示を出す。相手も一か所から入ってくるということは、それをある程度分かっているだろうし、対策はしてくるであろうがそれでもやることは変わらない。
キャラごとにスキルのクールタイムは違うため、まだISAMIさんが使うルークのスキルは使えない。反対に相手はまだ一切スキルを使っていないので、おそらくここで一気に消費してキルを取りにくるだろう。
「きた!」
「倒したよ!」
相手は同じ入り口から3人同時にスライディングで突入してきた。それだけでなく、その入り口のすぐ横角にいたひまりさんに全フォーカスを向けていた。
しかし、それにいち早く気が付いたトモさんが先頭の敵をいち早く撃ちだすことができたため、難なく落としきることに成功。
「まだいる」
敵の弾もヒットしたひまりさんが、すかさずダウンしないようにスキルを使い透明化する。それによって、相手も目の前の敵を見失い、次に目に入ったトモさんを狙おうとするが。
「1人ダウン……。全員やった」
トモさんが的を絞らせないように、動き回っている間にフリーのISAMIさんが2キルを取り、再び勝利を収めた。
「ナイス!」
「凄いISAMIちゃん!」
先ほどのプレーを称賛しながらひまりさんの削れたHPの回復を待つ。
「これいったん前出るよ!」
「うん」
「了解」
エリアの外に出て、エリア外での今日ポジに向かう。これは何度も何度もマップ研究して得た知識をフル活用して、一切の迷いなくそこに飛び込む。甲板から見張り台に通ずる少し高所が取れる場所に移動する。
敵がこちらを無視してエリア内に侵入しようとしない限りは、必ず戦闘が起こる場所である。そこをトモさんとISAMIさんで抑え、ひまりさんはそのすぐ下の台のような遮蔽物に身を隠す。
「正面!」
敵はこのままエリアポイントの制圧は無理だと思ったのか、そのままこちらを視認すると迷いなく突っ込んできた。
「ん? 1人か。焦りが出たか、勝てないと踏んだか」
その画面に映る敵が明らかに、先ほどの連携できていた状態とは真逆の行動を見て、勝利を確信した。バラバラに突っ込んでくる敵を一人ずつ丁寧に倒していき。
suppressionの文字が浮かびあがる。
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