第31話 決起集会

「何とか、しやがって来たんじゃない!?」


「うんうん!」


「そうだね」


 今日は大会前最後のスクリムだった。結果は良好。これまで数回の負けはあったものの、一番上のR1は維持できている。スナイパー作戦は都度都度使っているが、3人の練度が目に見えて上がってきてからは無敗であった。


「まさか、最後の最後でここまで仕上げてくるとは……」


 俺が彼女達に会ってからまだ数か月しかたっていないものの、課題意識と第三者の視点を与えただけで、ここまで成長するとは想像もつかなかった。彼女達の素質の良さと本気度を改めて実感させられる。


「なに!? トモたちのことを信用していなかったの!?」


 俺の言葉を良くない方向に解釈したトモさんだが、それすらも予想済みであった。そして、彼女もそんなことは無いことをきちんと分かった上で言っていることも。


「いや、決してそんなことはないけど、予想を超えてきた」


「それは、期待値が低かったのか、それとも成長幅がおおきかったのかどっちかな?」


「勿論後者」


「よかったです」


 ひまりさんが微笑みながら、俺の言葉に安堵の声を漏らす。ゲームをプレイしている時とのギャップにもようやく慣れてきたが、突然戦闘中のような声を出された今でも驚ける自信はある。


「トモさんとひまりさんもそうだけど、ISAMIさん本当によく頑張ったね」


 チーム力の底上げは間違いなく彼女の功績が一番だろう。ISAMIの命中率が上がったことが、そのまま前衛にいる2人の動きの良さに直結している。


「ほんとだよISAMI! 毎日毎日とんでもない成長速度だったよ!」


 チーム連以外で一番練習していたのは間違いなく彼女だろう。家にいるであろう時間はずっとゲームをプレイしていたようだ。毎日にコツコツすることが、一番難しいなかで他にも誘惑が多い年頃の子であるが、彼女の目には今勝つことしか映っていなかったことがよくわかる。


「ほんとにISAMIちゃん凄いよ!」


「ありがと2人とも。でも、コーチが教えてくれた練習が良かっただで、私はただそれをこなしてただけ」


 これがコーチ冥利に尽きるということか。まさかこんなにも早く体験できるとは思わなかった。良くも悪くも素直な彼女はお世辞を言わないことを知っていればなおさらのことだ。


「いや、それがなによりも凄いんだよ」


 彼女は俺を上げてくれたが、俺からすればそれは全て彼女の実績だ。初めに不信感を持ったことに対して、それを信じてやり通して実際に結果として出すことは普通の人間ならできない。

 ましてや、学校の成績のように目に見えて成長が確認できるものでなければなおさらのことだ。彼女の真っすぐに努力できるところは、彼女の一番の武器なのだろう。


「そうだよ! こいつは口だけで実際にそれをやって強くなったのはISAMIなんだから自信もって」


「トモちゃん。せっかくいい雰囲気なんだから」


 こればかりは、トモさんに同意だがわざわざ俺の名前を出す必要はないだろうとも思う。しかし、トモさんはいかに凄いかをISAMIさんに伝えようと必死になっている面もある様に感じる。


「ひまちゃんも対面力凄い上がってるよ! 人数不利何回も返せてる場面あったし」


 やっぱり彼女は試合前日に全員の指揮を高めようとしているようだ。

 よくよく考えてみれば、トモさん以外は大会と言うもの自体が初めての経験だ。そのため、自分自身が一番緊張しているにも関わらず、2人の不安を取ろうと必死なのだろう。

 チームの雰囲気は良いし、流れも悪くない。ただ、だからと言って心配が一切ないわけがない。ゲームはメンタルゲーと言われるほど競技シーンにおいては精神状態が左右する。よく「AIMがぶれる」などと言うのはそういった所から来ている。

 そのため、自分は強いと思いながらやることが、どれほど重要かをトモさんは痛いほど理解しているのだろう。


「まあ、今日の仕上がり具合を見てれば慢心さへなければ明日明後日の予選は抜けられるよ」


 しかし、ここであえて気を引き締めさせるのはコーチの仕事だろう。自信をつけるのは良いがふわふわした感情のまま戦うことの方が、敗戦に繋がるからな。


「トモもそう思うけど、油断だけは禁物だね」


「そうね」


「うん」


 選手達もその辺りはきちんと理解しているようで、わざわざ俺が口出しする必要はなかったようだ。頼もしい少女達を見ていると、やはり俺の存在はそこまでプラスにはなっていないんじゃないかと思ってしまう。

 他にもやりたいこと、やらなければいけないことがあるはずだが、俺では技術的にも間に合っていない。それを目の当たりにする度に自分自身が情けなく感じて仕方がない。それこそもっと良いコーチが思ってしまうが、戦う前からそんな後ろ向きでどうすると、自分で自分を叱責している。


「それと、様子見で変えるかもだけど予選の間は例の作戦はやらないで真っ向勝負で良いよ」


「え? そうなんですか?」


「これは本選までとっとておこう」


 これを伝えるかどうかをギリギリまで考えていたが、ここ最近の状態を見れば自信を持って言える。


「今慢心には注意って話をしたばかりなのに?」


「そうだよ! 予選で負けたら意味ないじゃん!」


 案の定選手たちからは疑問の声が上がった。


「それも、そうだけど切り札はとっておく……。なんてカッコいいことではなくて、予選で作戦抜きの自分たちの実力を知っておくのも大事だと思うんだ」


「自分たちの実力?」


 戦っている勝てるかどうかだけが、実力を測るものではないと俺は考えている。


「そう。これでも勝てるのと、これでしか勝てないのでは、心の持ちようが違うでしょ?」


「確かにそうだね」


「ハクさんの言う通りちょっと負けることに怯えすぎていたかも」


 それは選手が一番気にすることだろう。戦っている以上当たり前のことだが、勝ちたいという気持ちと負けたくないという気持ちは似ているようで全くの別だ。


「コーチがそこまで強く言ってくれるなら、いけるような気がする」


 俺だって心の中では迷いや戸惑い、不安は沢山ある。だけどそれだけは絶対に選手の前では出さないと決めている。

 そんな俺の言葉を信じて力に変えてくれるのであればなによりだ。


「そうだよ! だってこいつ最初はトモ達じゃ勝てないとか言ってたんだから!」


「いやっ! それは違くて!」


「それだけ私たちが成長したってことですよね?」


「そうそう。ずっとそう言ってるじゃん!」


「明日は頑張ってくれよ!」


「もちろん!」「うん」「はい!」














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