第25話 それって通用するの?

「射線誘導ってどういうこと? いや意味は分かるけど言うほど簡単じゃないことぐらい、一応プロやってたあなたならわかるでしょ?」


 流石ながら、トモさんが言うことはごもっともである。俺のプロ選手人生を「一応」というあたりもさすがの棘具合だ。

 しかしながら、彼女がここまで言うのも想定は出来ていた。それは今の戦況を見ればそれがどれほど難しく、勝機が見えるものでないことは明らかだから。


「あのデッキって高所が取れて相手エリアの方まで行けるからかなり強いポジションなんだけど、実際の所あまり使われていないよね」


「うん。高所取りはFPSの基本だけどあそこ使いずらいんだもん」


 使いずらいというのが今の評価であり、それが一番敬遠される理由である。しかし俺からすると誰もが頭上から撃てるアドバンテージを活かす方法を考えない方が不思議でならなかった。

 恐らく俺と同じ戦略を考え着いた人はいるだろう。しかし、それがプロの世界で勝っていけるだけのポテンシャルがあるかを考えた時に、すべての人が脱落したのだ。だが、一個の工夫でダメならもう一個と足していけば、それは十分彼女達を勝たせることができるものだと俺は判断した。


「そう。あのデッキは上るのにも時間かかるし、上から見える範囲も限られている。エリアポイントを全部見渡せちゃったら、上から撃てば勝てちゃうからそういう作りはしてないよね」


 もしも、そんな簡単な作りをしていたのであれば恐らくエイムが良い3人を集めてくれば、このゲームの攻略は終了になってしまう。しかしFPS及びこのゲームは他のスポーツと同じくパワーさへあれば勝てるものでもなければ、同じ特技を持つ人を集めて上手くはいかない。

 各々の役割をきちんとこなす必要があり、それをより際立たせるのが戦略であり勝ち方だ。


「そこで2人の出番で、常にISAMIさんの射線が通る位置で戦う。でもエリアポイントからあまり離れる過ぎると相手も馬鹿じゃないから、そのままエリアに入られちゃうから絶妙なラインで戦う繊細さが必要だけど、トモさんのIGLなら出来ると思う」


「トモならそれくらい簡単だけど、でもそれを意識しながらって難しいな……」


 珍しく弱気な態度をとるが、ここで悩むということは彼女のゲームIQが高いことを証明している。俺が今言ったことは、戦闘中に頭上からの視点のような俯瞰的な情報のとり方をしつつ、味方の射線も意識しろと言ったのだ。

 それがどれほど難しいことかは、俺自身も理解できている。コンマ何秒と言う世界で勝敗が決まるFPSでは、余計なことを考えづに相手に集中している方が弾を当てることができる。一瞬のエイムのブレが勝敗にそのまま関わるため、誰しもが全てのことを無意識下で行えるように日々反復練習をして体に覚えさせている。それはIGLの面でも同じことが言える。


「大丈夫俺が限定したエリアを後で教えるからその場所だけ覚えててくれればいい」


「それで勝てる?」


「勝てる」


 ある程度は……。

 勝機はある。それは自信を持っている言えることだ。だが、俺の頭の中で既に何通りもの反撃の手段が考え着いている。恐らく俺よりももっと優秀なコーチやプレイヤーはもっと思いつくだろう。それを考えると、後はどちらがより先を見越せるかが戦いになってしまう。

 それは俺の仕事であり、作戦負けをしたとしたら全ての責任は俺にある。実際に戦う彼女達以上に俺の心臓はバクバクだ。


「あの、ハクさん。私はトモちゃんと一緒に行動していればいいんでしょうか?」


 ひまりさんが、まるで恐る恐る手を上げるかのように細い声で


「ひまりさんは、戦闘中でもすごく良く周りの声が聞こえているから、フォーカスを合わせるのが特段上手なんだよね。それに良く声が出せるトモさんが居れば一枚ずつ落としていくことも十分に出来る。2人は良いペアだよ」


 2トップと言えば聞こえはいいが、これがピッタリとハマることはほとんどない。なぜなら、基本的に合わせる側の力量だけで全てが成り立っているか。しかし目立った火力を出すのは基本的に先頭いる方なので正しく評価されることは少ない。

 しかし、この2人に至っては違うと断言できる。そもそもトモさんに付いていくだけで並みの選手ではないが、トモさんひまりさんのことを信用しているし、コールがひまりさんの方が早ければ必ずその通りに動いている。それだけのことができる1番手を担っている選手でそれだけ余裕がある選手も中々いない。


「ひまちゃんは、凄いからね!」


「ありがとうございます! 頑張ります!」


 今すぐには無理だが、ひまりさんが完全にトモさんのリードを握ることができるようになれば、恐らくこのチームはさらに一皮化けるような気がする。

 コーチとしてチーム全体を見て、未来像を予想することがこんなにもワクワクさせ身震いを起こさせるものだとは思いもしなかった。


「コーチ。その作戦自体は悪くは無いけど、私スナイパーってことは必ず当てなくちゃいけないってことでしょ? 私のエイムじゃ無理だよ」


 ISAMIさんは自信がないというよりも淡々と事実を述べる。段数やリロードに時間がかかるスナイパー系は一発一発の重みが他の武器とは比べ物にならないほど重要だ。それは、一発で戦況を変えるだけのことができるからなおさらである。


「ISAMIさんは勘違いをしているけど、エイムって一種類じゃないんだよ」


「え? どういうこと?」


「エイムって初弾当てるエイムと動いている敵を当てるエイムの2種類があるんだよね。ISAMIさんは初弾を当てる能力に優れているから、スナイパーは向いていると思うんだよね」


 弾数がでる分SMGやLMGの方が当たっている感覚になるものの、初発を当てられるのであれば難しいリコイルをするよりも、相手に与える総ダメージが多いこともある。

 もしISAMIさんが一発あてられれば後は2人のどちらかが、少し削ればキルを取れる。それに、後方からスナイパーがいるというだけでも相手にとってはかなりのプレッシャーであるし、なにより限られた場所でしか戦えないのはストレスである。


「そうなんですか? 自分じゃ良く分からないんですけど。じゃあ、私が弾を当てられないのって……」


「リコイルができていないってことだね」


 俺が言いずらいことを、トモさんが食い気味で言い放った。2人の関係値的にも特に問題は無いのだろうが、少し笑いがこぼれてしまった。


「まあ、その辺はおいおいで。あとはボルトアクションかセミオートかは好みで選んでいいよ」


「分かりました。頑張ります」


 初めは不安そうにしていたが、頑張りますと言ってくれたから大丈夫だろう。努力家なISAMIさんだから、道を示してあげれば成長を見せてくれるはずだ。

 後で練習方法とかを教えてあげなければ。


「よし、これで簡単な戦略と言うか戦い方は伝わったかな」


「うん。なんとなく」


「分かりました」


「大丈夫」


「細かい話はその都度詰めていく感じで。じゃあ頑張っていこうか」


「「「おおー!!!」」」



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